第62話 休暇明け

長期連休が終わり、久しぶりに学園の教室へと向かうと、クラスメイト達はレベッカの顔を見るや否や駆け寄ってきた。


突如3番街に現れた、ファッションレンタル&販売&メイクアップ店の噂は、友人達に広まっていたらしい。


そして、その共同経営者としてクロードがいることも、女子達の間では話題になっているようだ。


あの冷徹公爵様にパートナーが!?と持ちきりだったらしい。



「あ、あはは……。お店は授業がない日には開くので、よかったら皆さんも来てくださいまし」



レベッカはクラスメイト達からの矢継ぎ早の質問に辟易して、当たり障りのない宣伝をした。


そこに、高い少女の声が響く。



「レベッカ様!」



名前を呼ばれて振り返ると、そこにはピンクの髪で大きな目の正ヒロインが立っていた。



「リリア様、久しぶりですわね」



レベッカは友人達に礼を言い、リリアの元へと近づくと、彼女は鼻息荒く話しかけてきた。



「聞きましたよ! クロード様とついにご婚約して親御さんにご挨拶ですってね」



他の者に聞こえないように小声で、しかし目は爛々としているリリア。



「ええ、よくご存知で……」


「クロード様がユリウス様に、結婚式への参加は、レベッカ様とペアで来るっておっしゃってたので」



どうやら、クロードが親友のユリウスへ結婚式の参加を表明したことを、婚約者のリリアは知っていたようだ。


先日、クロードの両親に紹介していいか聞かれた時に、もちろんとレベッカは首を縦に振った。


彼の悩みや葛藤も、ともに乗り越えたいと思ったからだ。



「良かったですね、やっぱりあのダークネイビーのタキシードをプレゼントして、舞踏会で踊ったのが効いたんでしょうか」



どこの世界でも、女子は恋バナが一番楽しいらしい。


リリアは当時から、クロードは脈アリだと言っていたのを思い出す。



「わ、私の話はいいんですよ。リリア様こそおめでとうございます! 皇太子夫人なんて、名誉ですわね」


レベッカが拍手をしてお祝いすると、リリアは照れたように舌を出した。



「ありがとうございます。それで、レベッカ様にお願いがあるんですが…」


「なにかしら?」


「結婚式の私のドレスを、一緒に選んでくれませんか」



この国の皇太子でもあるユリウスの結婚式ともなれば、全国の人が集まるそれは盛大なものになるだろう。



「そんな大事な役、わたくしでいいんですか…?」


「もちろん! ユリウス様もそれがいいと喜んでくださってましたよ」



以前レベッカが転ばないようにとリリアに渡したパンプスも、舞踏会で着たラベンダー色のドレスも、気に入っていた。


リリアは、大切な結婚式のドレスもレベッカに選んで欲しいという。



「私、背が低いのも、胸が小さいのもずっとコンプレックスだったんです。

それを隠すような服ばかり着てました。

でも、レベッカ様の選んでくださる服や靴を身につけると、自然と自分に自信が持てたんです」



リリアの言葉は、アパレル店員が一番もらって嬉しいものだった。


レベッカは感動して胸が震えた。



「嬉しいです。もちろん、わたくしでよければ……!

 一生に一度の、最高の思い出にしましょう!」



そう言って、二人は笑い合う。



*  *  *



授業の合間の休憩時間。


学園の中でも、公然のカップルとなったクロードとレベッカを、周りの友人達は羨ましそうに見つめていた。


クラスの窓際で、銀髪を揺らし立つ背の高いクロードと、その側でくすくすと笑うレベッカは、他愛のない話をしているだけなのに絵になる、と。



「あのお二人、ほんと美男美女ですわね」


「あのクールなクロード様が、レベッカ様の前でだけ表情が明るくなるの、微笑ましいわ」


「レベッカ様も、昔よりとても穏やかになられたし」



二人をお似合いのカップルだと、クラスメイトは羨ましそうに噂をする。


木漏れ日が差し込む教室で、ゲームの中では結ばれるはずがない二人が会話している。



「先ほどユリウス様と何を話していたんですか?」



レベッカが、ユリウスと秘密話をしていたクロードに問いかける。



「ああ、『お前もすみに置けないな』と言われた」



おそらくレベッカとの関係を言ったのだろう。ユリウスが無邪気ににんまり笑う顔も想像できる。



「あ、あはは……王子ったら…」



皇太子にまで周知の事実となったのが、恥ずかしくてくすぐったい。



「楽しみだな、ユリウスとリリアの結婚式」



クロードの言葉に、レベッカは頷く。



「ええ、もうすぐですもの」


「俺は君のドレス姿が一番楽しみだ」



表情も変えず、さらりと言うクロードには、いつまでたっても慣れない。



「……もう、他の人に聞かれますわよ」



夕焼けが、レベッカの頬を紅く染める。


ループに苦しめられたクロードは、二人だけの甘い言葉の交わし合いさえ、夢のようだと言わんばかりに笑っていた。

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