リスケの女神

ブロッコリー展

第1話 街ブラロケ当日

「よーし、いっぱいバミるぞー」


ロケ当日の朝、ADの僕はやる気満々だ。


まだ新米でミスも多くポンコツだけど今日はロケスケもバッチリ組んで自信あり。


いつも怒られるロケバスの駐車位置もバッチリだ。


「演者さん入られましたー」の声。


浅草雷門前スタート。


でも、時間になったけど始まらない。


なんか演者さんがそわそわしだしている。


ディレクター(以後D)が僕のところに飛んできた。


D「おい、AD、作家さんの台本はまだか?」


僕「え?あれ?今日の台本まだ届いてないんですか?」


D「え?じゃねーよ、どーなってんだよ、今日の演者さんたちみんな台本ないと喋れないメンツなんだから早くしてくれよ」


Dはめちゃくちゃ怒っている。ディレクターの人は何であんなに黒く日焼けしてる人ばっかなのだろう。


僕「あ、はい……」


そこへチーフADの女子(以後チーフ)が飛んでくる。


チ「キミッちさー、あたし言ったよね💢あの作家さん寝坊癖あるから、ちゃんと昨日の夜のうちに作家さんに台本もらっとけって」


僕「あ、す、すいやせんっ、チーフ💦あのー、作家さんから昨日の夜はコレ(小指を立てて)の予定があるから絶対電話とかしないでって言われてて……」


チ「あのさー、キミっちバカなの?そんなの関係ないから、台本優先だから、もーどうすんのよ」


僕「すいやせん……」


チ「それにさ、キミっちさー、そのガムテなんなの?何でそんなにガムテいっぱいぶら下げてんの?ジョン・ランボーかよ」


僕「あ、あのー、バミりまくろうと思いまして」


チ「あのさー、スタジオ収録じゃないんだからバミんないから、もー、何年やってるのよ」


僕「1年半っす」


チ「知ってるわよ💢」


さらに追い討ちをかけるようにプロデューサー(以後P)が「あれ?スタッフみんなの腕章ないの?」とか言いだす。Pはいつも扇子を持っていて自分の首筋をペシペシた叩きながら話す。

もちろんカーディガンをプロデューサー巻きしている。


僕「え?腕章すか?そういうのは美術発注してないですけど」


D「おい、AD、ちげーよ。仲見世通りの撮影許可取ったのかってことだよ。商店会事務所に許可とって腕章もらう決まりだろーが」


僕「あ、そーなんですか、すいやせん💦」


チーフやほかの先輩ADも謝っている。


D「どーすんだよ、台本はねえ、撮影許可はねぇじゃ何もできねぇぞ」


みんなが一斉に僕を責め立てる。昔からどんくさい僕はこの仕事に向いてないのかもしれない。あーあ、何にもいいことないなー。いつも怒られてばっかだし、女の子にはキモがられるし……。


そういえばADになる男子には失恋して入った人が多い。ほとんどかもしれない。女子にはミーハーな人が多い。


どーする、どーすると言われ追い詰められて、僕はとりあえず言った。


「ちょっとリスケします」


D「リスケっておまえ、もうロケ始まってんのによー」


チ「キミッちさー、リスケの意味知ってる?」


僕はめげずにその場でリスケした。無意味だとは思ったけど、僕の無意味な人生よりは有意味かと思って……。


するとどうでしょう。


──念ずれば通ず。


キラキラリーン✨と、哀れな僕のリスケのなかから女神が現れたのです❗️


👸「わたしは幼い時のあなたに助けて貰ったリスケです。その恩返しに参りました」


僕「あ、ありがとうございます。でも僕はリスケ助けました?まったく覚えがないのですが……」


それに、リスケって助けられるものなのだろうか。


👸「はい、あの時は本当に良くしていただきました。今思い出しても涙が出ます。さあ、そんなことよりお困りのようですね、わたしがリスケの魔法で解決して差し上げます。リスケル、リスケル、リルリルルー🪄」


女神が魔法の言葉を唱えると、すぐに奇跡が起こった。


なんと、作家さんと遊んでいた愛人さんがキャミソール寝巻きのままダッシュしてきて「これ、あの人が寝てるんで、アタシが書いた大本です」と言って渡してくれた。


僕「あ、ありがとうございます」


愛人さんの書いた台本という不安はあるけど、それを急いでDと Pのもとへ持っていく。


P「なるほどー、街ブラ番組なのにあえて街ブラしないというのはおもしろいなぁ、これ、いただきで」


なんか上手いこと行って、撮影許可してもいらなくなった。ラッキー🤞


やっぱ女神の魔法はすごいなー


あれ?もいいなくなっちゃった。


とにかく次回のロケからはもっとしっかりしよう


僕は僕の気持ちの中にバミった。

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