第3話
蝶を持ってこられた次の日、僕は悩んでいた。
生き物の大変さを伝えたはずだが、あれで良かったのだろうか。
蝶を放してやった時の君の表情が胸から離れない。
唖然としたような、悲しんでいるような。
あんな表情をさせたい訳ではなかった。
ただ、僕より若い君に生き物のあり方を教えておかねばならない、と。
それは僕のエゴだったのだろうか。
もし、これから来ないとかになったらどうしようと心が騒ぐ、さざめく。
ああ、本当に君は僕の心を、凪いでいた僕の心を掻き立てる。
だから苦手だったんだ。
無邪気な君が、僕に触れるのが。
僕がやったことを知ればもう触れてくれないだろう。
ニートというのはただの結果論に過ぎない。
未だに僕の心は引き起こしたアレに引きずられて留められたままだ。
ちらり、とノートパソコンを見て、開こうとして断念した。
もし僕の事が噂になってたら。
なってたら、どうしよう。
今はまだ気づかれてないだけかもしれない。
だが、その先は?
君がもし僕のことを知ったらどうしよう。
ああ、本当に汚れのない純真な君が苦手だ。
りっくんと呼ぶ明るい声が苦手だ。
知っている、嫌いと言えないのは既に君に好感度が傾いていることを。
この家から、いつか出る日がくることを。
それは、多分君がきっかけになるだろう。
僕は、それをささやかな望みにして、君に知られないように託している。
相反する僕の心は締め付けられそうだ、君に僕のことを知られたくない。
でも、ここから出してくれるのは君なんだろうと。
叶わないだろう、身勝手な望みをまだ僕は君に託している。
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