目覚めのレプリス。

猫野 尻尾

第1話:スマホに現れた女。

デジタルフィギュアとかバーチャルアイドルが現実に存在し

アンドロイドやガイノイドが普通に街を徘徊する時代。


現実の人間の女性に興味を持たずデジタルなアイドルに夢中になってその子

たちに本気で恋をする男性が増えた。


その中の一人である俺の名前は「阿井 将暉あい まさき 」サラリーマンの23才。


地元の金属加工工場で働いてる。

働きたくない症候群だけど働かなきゃ食べていけないし好きな物も買えないから

義務感的に働いてる。


付き合ってる彼女がいるわけでもなく可もなく不可もなくいたって平凡な毎日。

たいして取り柄のない俺は、私でよければって彼女を見つけて結婚してそうやって

歳を取っていくんだと思っていた。


いや、彼女すらできなくて結婚もできなきゃ一生独身のままじじいになって

干しぶどうみたいに干からびて一人死んで行くんだ・・・でもな〜。

そういうのだけはイヤだなって思った。


何気ないある日の土曜日の朝。

電源落としてるはずの俺のスマホからいきなり女性の声がした。

スマホに登録されてるおしゃべり機能でもないし・・・

勝手に起動して勝手にスマホを乗っ取られた?。


《おはようございます、阿井さん》


「おえ、おはようって・・・なんすかこれ?・・・あんた誰?」

「なにやってるんすか?、人のスマホで?」

「これってハッキング?・・・嫌がらせ?」


《ごめんなさい・・・やむなくスマホお借りしてしまって》

《説明しなきゃいけませんね》


《私の名前はレプリスって言って元ガイノイドなんです》      


《私はガイノイドだったんですけど新型の脳殻のうかくを搭載するにあたって

古くなった私は破棄されることになったんです》

《そのさい脳内の機能や記憶はすべて削除されるはずだったんですけど

スタッフのミスで私の機能も記憶も削除されないまま専用の廃棄処理場に捨てられちゃったんです》


《山積みのゴミの中で意識があるのにそのまま徐々に朽ちていくのかなって

思ったら切なくて悲しくて・・・》

《それで誰かに私を助けに来てもらおうと思ってネットワークから、あなたの

スマホにお邪魔したんです》


「ほう・・・ガイノイドね・・・まあ街ではよく見かけるけどね 」

「俺はガイノイドとは一度も関わったことないけど・・・」

「まあ、でも大変だったんだね」


《あの、そこで不躾ぶしつけなお願いですけど私を助け出しに来て

いただけませんか?》


「え?俺が?」


《お願いします・・・ね、お願いん》


「あのさ、そんな甘えた声でお願いされたら放っておけなくなるでしょう」

「でもなんで俺だったの?」


《私がいる今の距離から一番近い人で一番出席番号が早い苗字の男性を

探したらあなただったの》


「あ〜なるほど・・・あい、だからね」

「じゃ〜逆に誰でもよかったんだ?・・・女性でも」


《い〜え、私の性別は女性ですから、そこは男性じゃないと》

《一応、性の対象は男性ですから・・・》


「性って・・・人間みたいじゃん」


《ガイノイドの脳の思考は人間の女性の模倣ですから・・・》


「それで?・・・今、どこにいるの?君」


《私の居場所、スマホで指示しますからその指示にしたがって来てください》


「やっぱり俺が行くんだ・・・」


《はい・・・来てくれたらハグとチューしてあげますから》


「なにボケかましてるの?・・・今、脳殻だけでしょ・・・体もないくせに?」


《そのうち体を手に入れたらってことで、お預けしていいですか?》


「まあ、いいけど・・・とにかく指示通り行くよ」


《お願いします》


俺はレプリスの指示通り夜中になってから廃棄処分場にでかけた。

廃棄処分場は五棟あって会社のセキュリティーは彼女が一時的に解除して

くれた。


そして三番目の棟の中にレプリスがいることが分かった。


無造作に放置され、山積みになった部品やら機材やらの中から捨てられた

レプリスの丸い脳殻を発見した。

たぶんチタン製なんだろう、虹色に輝く綺麗な脳殻だった。


俺は脳殻を抱えてすぐに廃棄処分場をあとにして急いでレプリスを俺の

レジデンス「一人用の生活スペース」に持ち帰った。


さて彼女の丸い脳殻をそのまま絨毯の上に転がしておくわけにもいかないので、

日曜の朝スポーツショップに行って500円くらいのサッカーボール

ネットを買ってその中にレプリスの脳殻を入れて部屋のカベにつるした。


壁に吊るした脳殻に話しかけても当然返事は返ってこないわけで体のない女と

スマホでやりとりすることになった。


姿のない女とスマホでコミュにケーションって変な感じ。


困るのはレプリスはスマホを起動してない時でも勝手に自分で起動して場所を

選ばす僕に話しかけて来ることだった。


仕事してる最中だっておかまいなし・・・上司からはスマホ切っとけって怒られるし、しかもレプリスはやたらよくしゃべるんだ。


でもって、この時点でレプリスはもう人のこと阿井さんじゃなくて将暉まさきって

呼んでるし・・・。

人に慣れてるなって・・・接客業とかしてたのかなって思った。


つづく。

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