芸術は きっと爆発 クッキング

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さあ、お料理対決(負け戦)だ!


悠心ゆうみ】包丁の握り方が分からない。

小霧さぎり】人参の皮の剥き方を知らない。

八葵やつき】オーブンってなんすか? レンジと何が違うんすか。

絃葉いとは】料理上手。振る舞う相手に悠心がいるとそれはもう百人力。

めい】幼い頃からキッチンに立つ機会が多く、加えてとても世話焼きなので、自分が食べるよりも人が食べてくれるほうが嬉しい。


四梅しうめ】八葵のお兄さん。口が悪めだよ。

陽調ひなり】悠心のお姉さん。初登場ですね。




──────




《そう。それは八葵の思いつきから始まった──》


[八葵]「料理賢者(※1)と料理愚者(※2)をチームで分けて同じ料理をすれば、料理の最高打点と最低打点を並べることができて面白いのでは?」

(※1:料理に精通した人のこと)

(※2:料理を知らない人のこと)


[絃葉]「悠心、卵焼きいる? ちょっと甘くしすぎちゃって」


[悠心]「ん、ひとつもらうわ」


[小霧]「めーちんが菓子パンなんて珍しいねー」


[命(小霧)]「冷蔵庫が熱暴走しちゃって……」


[命]「お寝坊しただけだよ……!?」


[八葵]「誰も話聞いてくんない!」


《八葵はこの要求が通ると思っていなかった。昨今のフードロス問題を重く受け止める絃葉や命に、無謀な提案をしていることを知っていた。だって料理愚者が作った料理は多分きっとほぼ生ゴミだから……》


~~~(数日後)~~~


[悠心]「……で?」


[八葵]「はい?」


[悠心]「何も知らないんだが。なぜ私はキッチンに立たされている?」


[小霧]「右に同意ー(三角巾結び結び)」


[陽調ひなり]「悠心、頑張ってね。応援してるよ」


[悠心]「なぜ実況席がある? そしてなぜそこに姉さんと四梅がいるんだ」


[四梅しうめ]「相も変わらず呼び捨てか。もっと年上に敬意を示せ」


[陽調]「まあまあ四梅くん。悠心はそういう遠慮が微妙にないからさ。そういうのは絃葉と命ちゃんに求めなよ」


[四梅]「まあそうか。悠心は昔からそういうのが苦……いや待て、アンタ俺とは初対面だよな?」


[陽調]「確かに。秋月あきづき陽調です。悠心の4個上だよ」


[四梅]「俺の1個上か。まあ俺は悠心よりも敬語が苦手だが、よろしく」


[陽調]「うん。そのくらいがちょうどいいよ」


[絃葉]「悠心、小霧。今日はお料理対決だよ!」


[悠心]「いやなんとなく分かるが」


[小霧]「なんで雨ちーもめーちんも対岸にー!? わたしたちどっちも料理できないんだけどもー!」


[四梅]「食材の買い出しは済ませてある。そこの袋に入ってるから確認してくれ」


[陽調]「お米は炊いてあるし、調味料は自由に使っていいよ」


[命]「えぇと……卵とケチャップ、牛乳、にんじん、ソーセージ、玉ねぎ、グリンピース。……オムライスかな?」


[八葵]「正解! 本日は料理上手と料理下手によるお料理対決なのだ! 同じ料理の最高打点と最低打点を調べるためにね!」


[悠心]「終わった……」

[小霧]「ゴミができちゃうよー!」


[陽調]「安心して。私たちが責任をもって全部食べきるからさ」


[四梅]「不本意だが、俺も一応不味いものを食べる気概は整えてきたからな」


[小霧]「失礼だなー」

[悠心]「流石に仕方ないだろ」


[八葵]「絃葉と命を説得できたのは、2人がメインの実食係を引き受けてくれたからなのサ」


[絃葉]「わたしも一応食べます。小霧とやっちゃんはともかく、悠心の手が加えられたものだもん。最高のスパイスだよ!」

[命]「食べ物が無駄にならないなら……」


[八葵]「ってな感じでネ。私は悠心と小霧に加勢するぜ」


[悠心]「誤差だろ」

[小霧]「マイナスかもねー」


[八葵]「まあそれも私の思惑通りさ! 下手であるほどいいからね!」


[陽調]「じゃあ先行は悠心チームから。よーい、スタート!」


[悠心]「始まってしまった……」


[八葵]「まずは、えぇと……」


[陽調]「ああっと。八葵選手、手際が悪い! 家主なのに包丁の位置を知りません」

[四梅]「お前キッチンに立ったことないのか……」


[小霧]「包丁ありましたー。……あれ? にんじんってそのまま切っていいんだっけー? なんか皮とか剥かなかったっけー」


[悠心]「多分そうだな。怪我しないようにしないと」


[陽調]「おおっと悠心選手、にんじんを縦に置いて包丁で皮を剥いています!」


[絃葉]「いや危ない、危ないよ! ピーラーの存在知らないの!?」


[命]「小霧、やっちゃん! なんで踊ってるの!?」


[小霧]「いや、包丁取られちゃったからー……」


[四梅]「他にできそうなことを探せよ。お前が食べた玉ねぎが茶色だったことがあるか?」


[八葵]「えっコレ素手で皮剥けるの!?」


[四梅]「(呆れている)」


[陽調]「はい、悠心選手は無事ににんじんの皮を剥けましたが、剥き方が悪かったのか可食部位が大幅に削られてしまっていますね。そして包丁がフリーになったにも関わらず、玉ねぎは未だに皮を被っています!」

[絃葉]「怪我しなくてよかった……」


[悠心]「にんじんって生では食べられないよな。多分火にかけて……」

[命]「秋ちゃん、先に換気扇付けて!」


[小霧]「んー? これどこまで剥けばいいのー? なんか永遠に剥けちゃうんだけどー……」


[陽調]「小霧選手、玉ねぎを永遠に剥いています! にんじんよろしく可食部位がどんどん削られていきます!」


[八葵]「さぎ、多分もうOK! あれ? でもコレどうやって切るんだ? 今見つけたコレで剥くのかな?」


[陽調]「なんと八葵選手、今更見つけたピーラーで玉ねぎを剥き始めました!」


[四梅]「そんな薄い玉ねぎが入った料理無いだろ!」


[悠心]「えぇと、なんだったかな。焦げ付き防止のために油を垂らすんだよな?」


[命]「秋ちゃん、それみりんだよ!」

[陽調]「いやしかも入れすぎ……みりんで煮込む気なのかなあの子……」

[悠心]「(みりんって油じゃないのか……?)」


[八葵]「はい玉ねぎ切れました!」

[小霧]「なんか小っさくなーい?」

[四梅]「お前が剥きすぎたんだよ!」


[陽調]「さて料理も中盤に差し掛かって参りました。みりん味の玉ねぎとにんじんには順調に火が通っているようですね」


[悠心]「あ、このグリンピース冷凍じゃねーか。確かあれだろ、解凍? みたいなのするんだろ」


[小霧]「解凍って何すればいいんだろうねー。火で炙ってみるー?」

[八葵]「賛成!」

[絃葉]「なんで袋ごとやるの!?!?!!?」


[陽調]「流石に危険なので、お助け命ちゃん、行ってらっしゃい」

[命]「はい!」


[悠心]「なんだよ命。おまえが手加えたら検証できないだろうが」


[命]「流石に直火で解凍は止めるよ! えぇと、小さなお鍋にお水張って、お水は流したままで。そこに漬けてたらある程度解凍はできるから……」


[八葵]「へぇ? 火力足んなくない?」

[命]「流水解凍に火力は必要ないの……」


[四梅]「流石に解凍は済ませてやっといたほうが健全だったか……」

[陽調]「それはそうかもしれません。……おおっと、みりんの匂いが少々こちらに……」


[悠心]「なんかいい匂いするな。もしかして私たち成功してるんじゃないか?」

[小霧]「ねー」

[八葵]「そんな気がするねぇ!」

[絃葉]「どこを見てそう思ったの!?」


[陽調]「未だにワークトップの端にはソーセージが放置……こほん、鎮座しています。肉っけが足りないオムライスが出来上がりそうですね」


[悠心]「さて、あとはここにお米を入れて、そんでケチャップか。小霧、準備してくれ」

[小霧]「あいさー」


[陽調]「順調(当社比)ですね。順当にケチャップライスが出来上がろうとしています。仄かにみりん風味の」

[命]「小霧、入れすぎ入れすぎ……」


[八葵]「お? ソーセージ入れ忘れてるじゃん」


[陽調]「八葵選手、ここでソーセージの入れ忘れに気づきます。果たしてどのようにして料理に加え──」

[八葵]「今から入れても冷たいだろうし、食べちゃお」

[四梅]「は?」


[陽調]「八葵選手、ここでつまみ食いです!」

[四梅]「もうふざけてないか?」


[悠心]「なあ、オムライスって卵乗っけるよな。アレどうやって作るんだ?」

[小霧]「一旦ケチャップライス引き上げるー?」


[八葵]「うわ、なんかベチャベチャだね。悠心、途中で水気とか入れた?」

[悠心]「入れてないが」

[絃葉]「入れてたよ!」

[四梅]「入れてただろ」

[陽調]「入れてましたね」

[命]「あはは……」


[八葵]「さて、お次は卵かあ。まあ多分、溶いて焼けばいいのかな」


[小霧]「あ、わたし片手で割ってみていいー?」

[八葵]「お、カッコイイねぇ!」


[陽調]「恐らく無謀です。さあ、果たしてこれが吉と出るか、凶と出るか──」

[小霧]「あっ」


[陽調]「……上手に割れなかったようですね」

[四梅]「なんで料理初心者に限って上級テクを使おうとするんだよ……」


[八葵]「じゃあ卵焼きますぜ〜」

[悠心]「あ、油垂らしてない」

[小霧]「後入れでもいいんじゃないー?」


[陽調]「ここで小霧選手、みりんを溶き卵の上にぶっかけました!」

[四梅]「……どんなに甘いオムライスができるんだろうなあ!」


[八葵]「なんかさ、この長いお箸でこうやって、中心からねじる感じで焼く動画を見たことあるんだよね」

[悠心]「おお、カッコイイな」

[四梅]「だからなぜ上級テクを使いたがる! お前がやったらどうせスクランブルエッグだぞ!」


[陽調]「さあ、そろそろ卵に火が通ります。果たして焼き加減はいかが──」


[悠霧葵]「「「はい、完成(ー)」」」

[小霧]「召し上がれー」


[八葵]「こちらドリンクの牛乳となっております!」

[陽調]「あっははは、そうきたかあ」

[命]「卵に使わなかったんだね……」


[四梅]「……よし、覚悟決まった。いただきます」

[絃命陽]「「「いただきます!」」」


[絃葉]「うん、美味しい美味しい、美味し……美味……」

[四梅]「……食える味ではないな」

[命]「にんじんが固くて、他がすっごい甘い……」

[陽調]「まあ諸々初心者でここまでできるのは……いや、ダメかも。美味しくはないし……」


[悠心]「なあ八葵。これ気づいたんだが、私たちのプライドがへし折られるだけじゃないか?」

[小霧]「ちょっと傷ついてるもんねー……」

[八葵]「そうかもしれない。だがこれぞ妥当な評価! 料理のテイを成した最低ランクを調理できたことを喜ぼうじゃないか!」

[悠心・小霧]「「うーん……」」


[陽調]「あ、でも4人で分けたらすぐだね。3人とも、ごちそうさまでした」


[絃葉]「3人とも、今度メイちゃんと一緒に料理教えるね……」


[命]「うん……」


[四梅]「じゃあ第2ラウンドだな。口直しを頼んだぞ」


[小霧]「わたしたちのは口汚しだったってのかー!」

[悠心]「そうだろ」

[八葵]「(首を立てに振る)」


[陽調]「じゃあ第2ラウンド。絃葉と命ちゃんチーム、よーい……スタート!」




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【ひとこと】

1周年記念の毎日更新、5日目です。

カオスクッキング。悠霧葵の負け戦です。もちろんこの後絃葉と命は全員の舌を満足させ、今回の検証は大団円のかたちで幕を閉じました。悠心と小霧はちょっと傷つき、八葵はレポート作りに勤しんだようです。


以降、悠心は不定期で陽調と絃葉に料理を教えてもらっているそうな。

え? 小霧ですか? この子は必要に迫られるまでやりませんよ。


そして、初登場である陽調さんの紹介を人物紹介に追加しました。よければ見てやってくださいな。


明日のお話は、ちょっとだけ百合要素強めかも……?

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