第5話 女人化1日目の朝

討伐日の夜は打ち合わせ後、すぐにそのまま就寝した。 



朝、目が覚めると、すでにラムズは起きていて、キッチンで何か作っているようだ。


「おはようございます…。」


「おはよう。よく眠れた?」


「はい。」


「なら、良かった。そこに、ダンボールとスクールバッグがあるよね?ターニャ先生が荷物をまとめてくれたから、見てみて。あと、お風呂も使えるよ。」


「ありがとうございます!」


ターニャ先生にも迷惑をかけしてしまった。



早速ダンボールを開けると、中に服と下着、生活用品が入っていた。

取り出してみると、制服はスカート。

下着には華やかなレースがあしらわれていた。


(こういうのしかないの⁈どうしよう!)


見ているだけで恥ずかしい。

そう思ってると、ラムズがリビングに来たので、下着を急いで隠した。



「制服が女子用だったので、寮に行っていつもの制服を取りに行きたいです…。」


恐る恐るいうと、ラムズは制服を手に取った。



「いや、これじゃないとダメみたいだよ。魔法がかけられている。フェロモンの効果を抑えるためじゃないかな。」


そう…なんだ…。

ターニャ先生の苦労に感謝しつつも、セクシーな下着をつけなければならないことには複雑な思いだ。


「わかりました…。お風呂お借りします。」



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ロキは服とタオルを持って脱衣所に移動した。

鏡に映る自分の体をまじまじと見る。


身長はもともと大きくないのにさらに一回り小さくなり、頭ではわかっていても凹む。

肌はまるで皮膚が一枚薄くなったように柔らかくなってなんだか心細い。

胸はそこそこあり、思ってた以上に邪魔だなと思った。


こんな頼りない体で戦えるんだろうか…。


ふう、とため息をついて、シャワーを浴びた。



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髪を乾かし、ブラウスとスカートを着た。


(スカートが!短いっ!)


どうして女の子はこんなスカスカな状態で平気なんだろう…!

この時ばかりはターニャ先生の露出への寛容さが恨めしかった。


脱衣所を出ると、ラムズも黒のシャツとスーツに着替え終えていた。


「朝食の前に、血液を採るのと戦闘値を測ろう。」



ソファに座るがあぐらをかくわけにもいかず、足をどうしたらいいかわからない。

結局、正座をした。

女の子って難しい。


細くて脂肪に覆われた、柔らかい腕。

いつもの男の腕なら血管はとりやすいが、こんなぷにぷにの腕から血管をとるのは大変そうに見えた。


が、ラムズは手際よく採血をする。

戦闘値は計測器を額にあて、集中すると数値が出た。


「血液は私が研究所に持っていくよ。戦闘値はいつもの半分だね。剣技の練習はやめて、射撃の練習をしよう。」


「わかりました。」


ラムズがじっとロキを見つめた。


「…何か…?」


ラムズはスッとロキの耳元に手を伸ばし、髪を耳にかけた。

急な行動にドキッとする。


「一日で、こんなに髪が伸びるんだね。」


確かに、いつの間にか、あごくらいまで髪が伸びている。

朝、目が覚めた時より伸びている気がする。



「今、朝食を準備するから、座って待ってて。」


ラムズが頭を撫でる。

いつもより、ラムズの手が大きくゴツゴツしているように感じられた。

なんだか恥ずかしい。



言われた通りに待っていると、お盆に、おかゆ、鶏肉を蒸したもの、山菜のあえものが乗って出て来た。



「え?これ全部ラムズ様が作ったんですか⁈」


「そうだよ。私は昔、王国の戦闘部隊にいたんだ。一時期、住み込みで主のもとに仕えていたんだ。だから、家事は一通りできるんだよ。」


思いの他、なんでもできるんだな…と驚いた。



ラムズが食卓についたので、食べ始めた。


「美味しいんですけど、ちょっと不思議な味ですね。」


「姜王国は知ってる?」


「教科書で習いました。宇宙で有数の、統制された歴史ある王国ですよね。」


「そう。私は姜王国で育ったんだ。」


「だから、地球のごはんと味付けが違うんですね。」



ラムズが、地球人ではないことは学園の者はみんな知っている。

ラムズの桁違いの強さは地球人と遺伝子が違うからだ。



地球では、異能者の他に異星人の来訪も増えていた。

ただ、これが公になれば市民生活に混乱をきたすとのことで、異星人についての情報や取り扱いは国家機密とされている。



「すごく、優しい味で、体に沁みる感じがします…。」


心まで温かくなったようで、自然と笑顔になった。



「口に合ったようで、良かったよ。」


心なしラムズも微笑んでいるように見えた。



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家を出て、車に乗り込もうとすると、ラムズが助手席のドアを開けてくれた。

紳士すぎて、こちらが恥ずかしい。

たじたじとしながら乗り込むと、ラムズが運転席に着いた。


そしてまたじっとロキを見つめている。

今度は何だろう。


「シートベルト忘れてるよ。」


あ、そうか。

と思った時、ラムズが助手席のシートベルトに手を伸ばし、ベルトを締めてくれた。


ち…近かった…!

ラムズの少し甘い匂いと体格の差にドキドキしてしまう。


「じゃあ、出発するね。」


ラムズは特に何も変わらない様子だ。

こっちが自意識過剰なんだろうか。

ロキはスクールバックを握りしめた。

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