賽の河原の石積み
-----------------
「何なんだよ…意味わかんねぇよ…!俺が一体、何したってんだよォッ!?」
「ハッハッハッハッハッ!!」
ポールは刮目していた。
いつの間にか、いや、きっと爆風によって舞い上がり、牢屋を閉ざす布が剥がれて消えた。
露わになったのは、燃え盛る魔人の拠点だった。
すぐに食いついた。
ポールは牢屋の柵に顔を埋め込まんとする勢いで張り付き、食い入るように刮目した。
「一体、何が起きた…!?」
最初は何も理解できなかった。
ポールを助けるために、協会の冒険者たちが来たのか?
いや、それにしては早すぎる。
それに、こんな何の前触れもなく、交渉もなく。
まるで魔人たちがあの村にしたように、理不尽この上なく襲撃するなど、派遣された冒険者にできる判断ではない。
では一体誰が?
その答えよりも先に、ポールは魔人兵隊の隊長を視界に捉える。
ポールが村で襲撃された時、その指揮を執っていた『二角』の魔人だ。
魔人は、その強さを角の本数で判別することが出来る。
通常、角は一つ。
角こそが魔力を生み出す力の源であり、それ以外にも多くの機能を持つ。
それが一つ増えれば、凡そ能力値は二倍にもなるという。
故に、ポールはその魔人が隊長だと知っており、だからこそ驚愕した。
何故なら、隊長の魔人が、泣き叫んでいたからだ。
「何なんだよその力はぁ!?アルカナでも、魔法でもない…怪物めぇ!」
駄々をこねる子供のように絶叫し、尻もちをついたまま情けなく後退る姿はまるで別人のようだった。
その時、隊長を助けようと十人以上の兵士が駆け付けた。
だが、空気を焼くような、光の集合体のような、ポールには理解の及ばないレーザービームが縦横無尽に駆け巡り、五人の兵士が弾けるように切断された。
レーザービームの元を辿ると、それは光の玉だった。
ポールは知らないが、002が遠隔操作型機動砲台と呼ぶ、つまるところファンネルである。
それが素早い軌道で主の元へ戻っていき、やっとポールはこの光景の犯人を知る。
「何者なんだ、あの少女は…?」
明らかに森人ではなく、魔人でもない。
特徴のないその姿は、まるで人間のよう。
だが、それはあり得ない。
人間なぞそのほとんどが絶滅し、一部残っているのも人類解放戦線などというテロ集団だけ。
その人類解放戦線も、実態は過半数が他種族で構成されていると聞く。
しかも、彼らの活動はここ百年大人しく、世界に忘れ去られたような暗躍組織。
森人冒険者協会の役員であるポールだからこそ認知している程度の存在が、今目の前にいる可能性は如何ほどか?
けれど、その様相はポールの推察とは裏腹に『人間』としか思えないものであった。
困惑冷めやらぬ中、残った五人の兵士が少女へ斬りかかった。
その全ての攻撃を躱し、瞬時に展開したレーザーソードですれ違いざまに兵士を両断していく。
振るう刃が相手の刃と結び合うかと思った刹那に切り返し、手首を回して斬り倒していく様はあまりにも流麗で、単純な剣術のみで五人を殺した。
「くそぉ!役立たず共めぇ…!くるなぁ!」
隊長はやっと剣を抜き、尻もちをついたまま剣を振り回す。
「おいおい、お前らだって昨日はこうやって森人を燃やしてたんだろ?この肉の焼ける匂いにも、随分慣れたんじゃねぇの?」
残虐に笑って、少女は己の掌を隊長に向けた。
「よく考えるとさ、魔物と魔人ってどっちがうまいんだろうな?」
「え…?」
「魔物って食えたもんじゃないけど、もしかしてお前らってそれよりはマシなんじゃね?」
少女が舌なめずりをした直後、その掌から火炎が吹き荒れて、隊長の四肢がねじ曲がりながら吹き飛んだ。
その圧倒的な力は、まるで話に聞く天人様。
しかし、その残虐性は魔人。
人間の姿で、森人のために戦う。
その姿は異質で、しかし汚し難い高貴。
気づけば、少女は牢屋の前に立っていた。
笑ってポールを見下ろし、優美に口を開く。
「よお。囚人共。お勤めご苦労」
左手をローブのポケットに突っ込みながら右手で敬礼し、目を細めた。
「出所の時間だぜ」
-----------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます