俺ってイレギュラー…? 



 俺とライア二人で空をふわふわと飛ぶこと、四時間余り。

 東京から愛知、あるいは福島くらいは行けるであろう距離を移動して、景色は一向に変わらなかった


「本当にこれ、文明あるの…?」


 若干不安になりつつ鬱蒼とした森を見下げていると、ふと遠くから煙が上がっている事に気付く。


「ん?山火事か?」


 ライアに目配せをして、俺は高度を落とす。

 煙からはかなり遠い峰を目指して着地し、煙が見える場所へ歩いて調整する。


「002、何か見えますか?私の視力では、煙がわずかに見えるばかりです」


 眉を寄せて凝視し、むむっと力んだライアは、それでもやはり見えなかったようだ。


「流石に俺の視力でも何も見えん。だが、こんな事もあろうかと」


 どこぞの便利ポケットが如くローブの陰に手を突っ込み、俺は双眼鏡を取り出した。


「魔法の双眼鏡ってやつだ。これなら見えるだろ」


 手から魔力を流し、双眼鏡をのぞき込む。

 すると、


「おおっ!?おお!人!人がいるぞライア!」


 第一村人発見!


「そうですか。よかったですね、002」


 リアクションの薄いライアを一瞬ジト目で見て、もう一度のぞく。

 しかし、改めて覗いてみると、どうにも様子がおかしい


「んー?なんだあれ?なんか、甲冑着たやつらが、人を襲ってる…?」


 俺の視界には、映画でしか見た事のない甲冑を着た人々が、これまた19世紀イギリスの庶民みたいな恰好をした人々を斬りつけて回っているのが見える。

 木造建築のほとんどは火をつけられ、決して広くはない村の周りを甲冑を来た奴らが取り囲んでいた。


「ちょっと待てよ……ライア、あの格好って、この世界じゃ一般的なのか?」


「私には見えないので何とも言えませんが…甲冑や鉄の剣が、という意味ですか?」


「うん」


「そうですね、ごく一般的な装備だと思います」


「いやいや、え?嘘でしょ?魔法があるのはわかってたけど、え?コスプレじゃなくて?」


「コスプレ…というのは分かりかねますが002、あなたが戸惑うのも理解できます」


「そうだよね?だって、俺が戦ってた人型兵器とか、俺の持ってる武器とか、どれをとっても近代的、いや近未来的だ」


「はい。実際に、それらは失われた技術ロストテクノロジーと呼ばれ、もうこの世界に存在しないものなのです」


「……マジ?」


「ええ、大マジです。既に千年前にこの世界から技術体系ごと失われ、現在は剣や弓で戦うのが一般的です」


「時代戻り過ぎでは……いや、そうじゃなくて、だったらあの人型兵器はなんだったんだ?もう存在しないはずだろ?」


「千年前の兵器を未だに保有しているのは、世界でたった二組織だけです。人類解放戦線と、三権調停機構。どちらも民衆にはほとんど認知すらされておらず、いわば世界の裏側の存在です」


「それだけ…?」


「はい。確かに、目覚めてからこれまで、002が接敵したのがこの二組織だけだったというのは非常に奇跡的で、本来一生出会う事もない程のイレギュラーでした」


「てっきり、あのレベルの科学技術がデフォルトだと思ってたわ…」


「そう勘違いしてしまっても可笑しくない状況でした。私の説明不足でしたね、申し訳ありません」


「じゃあさ、もしかして……俺もこの世界じゃイレギュラー…ってこと!?」


「ええ、圧倒的に」



 燃える村を放置して、俺は驚愕したまま数秒固まった。







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