True Eye 【season1】 -War 11- Joker

【Phase1:新たなる脅威】



あの事件から2日が経過した


世間のニュースでは大規模な核爆発により中国本土の大半が消失


新たに立ち入り禁止区画が制定された…らしい


核爆発?


それはあくまで表向きな話でTE隊員達は何が起こったのかをこの目で見ていた


反物質を用いた殲滅兵器 零


あの様な兵器が実用化されてしまえば手に負えないだろう


そしてそれを作り出した企業,雷鳴重工


兵器を専門に開発を行っている世界政府傘下の企業


我々は世界政府に状況の説明を頼んだが返答はない


今何が起こっているのか分からずの状況だ


「てな訳で…まぁ私らは私らでここ最近中国に行ってる間に入って来た依頼をこなさなくちゃいけない,中国の件は確かに何とかしなくちゃいけないけどまずは仕事をこなそう」


「そうですね…ところで……」


「どうした?シルヴィア」


「……すっごく空気悪いんだけど,ここ」


それもその筈だ


何故なら普段の隊員に加えてアレン✖︎10匹がここにいるからだ


「あー…まぁこいつらに話したところで意味はないんだけど…ルイスがこいつらも呼んでおけって…」


「今日が何の日か分かるか?」


「月末……あぁそっか」


「お前らも待ち望んだ給料日だ」


わぁっと歓声が上がる


誰だって給料日は気分が上がるものだ


「今から渡していく,順番に取りに来てくれ」


「…思ったんだけどさ,いい加減手渡しじゃなくて振り込みにしたら?」


「口座凍結してる奴もいるだろ?」


「そりゃまぁそうだけど」


「……あ?いつもより少なくねぇか?」


「当然だろ?俺達は依頼の数で給料が決定する,そして平等じゃなくちゃいけない,手当の他は分けるのは当然だろう?」


「ちょっと待て…確かに最近入ったこいつらの分を分けるのはいい,仲間だからな,だが明らかにそれだけじゃないだろ?」


「そいつらも一応俺達の仲間だろ?」


「あ"ぁ"!?こんな役にも立たねぇイヌッコロ共にも金を与えるってのかぁ!?」


「猛獣うるさい」


「心狭い」


「キレ芸」


「ぶっ殺されてぇのか!?あ"ぁ"!?」


そうら始まった


Vはすぐに頭に血が上る


鼓膜が破れるんじゃないかってくらいの怒号を上げながらアレンらを追いかけ回し始める


「朝から元気だなぁ」


「アドレナリンの所為じゃね?」


「そういえばここ最近日課の様に打ってるの見ましたよ…」


「まだ体調悪いのかあいつ」


「誰が体調悪いって?あ"ぁ"!?」


「うわ地獄耳」


「最早地獄そのものだろ」


Vは2日前から体調が優れない


白狐の亜空間に入ってからだ


人体にどれだけ悪影響を及ぼすかは不明


だが死にはしていない為平気だろう


寧ろベッドに寝ていた方が気味が悪い


「とりあえず給料も貰ったし解散解散っと」


「あぁ,咲夜と零音は残ってくれ」


「ん?あいよ」


「分かりましたぁ」


各々が持ち場へ戻り,残されたのはルイス,咲夜,零音の3人…と何故かアレン


「…なんでお前がここに残るんだよ」


「ポップコーン食べてる」


「放っておけ,こいつに理解は出来んだろうし」


「…あの時の話の続きですよねぇ?」


「あぁ…」


あの時というのは中国から脱出する際の零音の発言についてだ


『…話してもいい頃合いですねぇ…私は零音,そして貴女達にも分かりやすく言うのであれば…未来人でしょうかぁ』


未来人


つまり零音は自身が未来からやってきたと我々の前で語った


「未来人…って事はタイムマシンか何かでこの時代にやってきたって事なのか?」


「違いますねぇ,私にとってはここは未来でも過去でもなく現在ですよぉ」


「じゃあ未来人じゃなくね?」


「複雑なんですよねぇ,私自身は紛れもなくこの時代を生きている人間の1人,強いて言うなら貴女達の知らない世界を知っているくらいですねぇ」


「…つまり?」


「私は倍の人生を歩んでいたというのがしっくりきますかねぇ?簡単に言えば貴女達が知り得ない事を知っている…ですねぇ」


「…………」


やはりまともに答えるつもりは零音にはなさそうだ


「…では未来人と自称したのはどんな理由だ?」


「…私は多くの情報を知っていますけどそれは別に関係なくてですねぇ,この先…何が起こるのかを知っているといいますかぁ」


「……何が起こる?」


「私達が備えるべき戦争の序章…と言ったところですかねぇ」


「……大雑把だな,詳しくは話せない…と?」


「全てを話すのは簡単ですけど複雑なんですよねぇ,私達は私達自身の力で何とかしなくちゃいけなくてですねぇ…」


「……まぁいいだろう」


「備えるべき戦争……ね」


備えるべき戦争


その詳細は零音の口からは聞けない


だが先日の中国の一件もあり世界情勢は間違いなく悪い方向へと進み始めている


「一先ずは雷鳴重工の件に探りを入れていこうと思う」


「……恐らく貴女達とは因縁の相手になるでしょうねぇ」


「因縁の相手?」


「…私はあくまで与えられた仕事はしますけどその他は頑張ってくださいとしか言えませんねぇ,それでは」


「…………ルイス,いいのか?あんな得体の知れない奴を引き入れて…」


「得体が知れないからこそ引き入れておく,いつでも排除できる様にな」


「まぁそれもあるか…」


味方ではあるし信頼はしているが信用はしない


少なくとも今はまだ信用を置けるほど零音の素性が知れない


ましてや雷鳴重工にもスパイとして属していた


TE部隊にも果たして本当に所属しているのかスパイとしてなのかは不明だ


「俺達の不在中に例の部品が届いた,ニーアとコノエに開発を急がせてくれ」


「あーあれ?アレン,ちょっとニーア達の所に行ってこい」


「分かった」


「完成すれば俺達の部隊の強化も図れる,戦争には備えておかないとな」


「…零音の言葉を信じるのか?」


「零音の言葉だけじゃない,世界政府は沈黙しているが雷鳴重工は無視出来ない存在だ,再びあの兵器が使用される前に潰しておく」


「……それって世界政府とやり合うって事にならない?」


「俺達は別に味方同士じゃない,協力関係なだけだ,俺達自身の目的の方が優先だ」


TE部隊の目的は戦争をこの世界から無くす事


それが一番重要な目的だ


その為なら世界政府とも敵対する事を厭わない


「…今日一日は休暇だ,他の奴の事を気にかけてやってくれないか?」


「あぁいつものお悩み相談ね,任せとけ」


ルイス自身が直接聞くとなると逆に話しづらくもなるだろう


その為普段は咲夜が隊員の抱えている悩みを聞き,それを解消している


先日の中国の一件もあり隊員達もストレスを抱えていることだろう


そのストレスが積もりに積もるとろくでもない事をしでかす奴らが一定数存在している


「とりあえずは…Vだな,相当負荷かかってるだろうし」


特に先日の中国の一件で消耗しているのはVだ


アドレナリンを打って無理矢理動いているみたいだが体に悪いのは言わずもがな


それにV自身が他人に悩みを話さない性格だ


だが何かしら悩みを抱えているならそれを察する事は出来る


「そういや新しく入った奴らの部屋の手配もしなくちゃな…」


特に化学兵である零音には設備が必要だろう


TE部隊に今までいなかった人材だ


対バイオテロの対策が可能となる


その為には出費は増えるが専用の設備が無ければ零音も力を発揮する事は出来ない


「とりあえずVの様子をっと…入るぞー」


入る前から既に声が聞こえる


声というか怒号


怒号というより恐怖混じりの悲鳴


「だーかーらー!しっかりと休まないと治るものも治らないでしょ!?」


「うるせぇ!!!平気だって言ってんだろ!!退け!!!」


「いーや!退かない!寝るまで退かない!!」


「くそ!てめぇいつの間にこんな力付けやがった!?」


「あまり力入れてないけど!?アイが非力なんじゃないの!?」


「んだとてめぇ!!!」


「あー……ちょっといいk」


「ほら早く寝なさいよ!いつまでこうしてるつもり!?」


「寝れるわけねぇだろうが!重いんだよ!!」


「はぁ!?女の子に向かって重いって失礼じゃないの!?」


「重いもんは重いだろうが!」


「もう許さない!こんなもの使ってるのが悪いんでしょ!!」


「返せゴルァ!!!そいつがねぇと動けねぇだろうが!!!」


「普通の状態ならこんなもの打たなくても動けるの!!休息も大切だって昔言ってたでしょ!?」


「何年前の話してんだ!?いい加減にしろよてめぇ!!!」


「こうなったら無理矢理寝かせてあげるから…!!!」


「HA!NA!SE!!!」


「はぁっ……はぁっ………これで動けないでしょ?せっかくだから楽しまなきゃね…?」


「おいてめぇ何して……!?ふざけんなぁぁぁぁぁ!?」


「ふふふ…アイが悪いのよ?私を怒らせるから……」


「……!咲夜!!そこにいるのか!?こいつどうにかしろ!!」


「あー……うん,お楽しみを邪魔して悪かったね,それじゃ」


「おい咲夜!?咲夜ぁぁあ!?ーーーーーッ!?!?!?」


医務室の扉に立ち入り禁止の看板を掛ける


医務室は防音って訳ではないので声はだだ漏れだろうが多少なりの配慮のつもりだろう


今2人は"お楽しみ"の最中なのだから


「予想よりも元気だったな…まぁVの事はマリーに任せておくのがいい気がする」


1人1人に時間をかけてはいられない


束の間の平和な時間もここでは戦争みたいなものだ


咲夜の長い一日はまだ始まったばかりである


あえて言うなら地獄の始まりだ


【Phase2:甘党vs辛党】


拠点内は良いものだ


何故なら弾丸が飛び交う事が……いや無いとは言えない


とは言え戦場よりは遥かにマシだろう…と


そう思うのはまだTE部隊の隊員となって日が浅い連中だけだ


何故なら時に拠点は戦場よりも危険地帯となり得るからだ


数年前のある時は戦車が宙を舞い


またある時はスギの木撲滅で大規模な火災が起こり


またまたある時は武器庫が吹き飛び銃弾が大量に飛び交った


本当にここは拠点なのだろうか


事故というより全て人災なのだから余計にタチが悪い


しかもいずれも事の発端はしょうもない事だ


そして今この瞬間もしょうもない事が原因でしょうもない争いが起こっていた


TE拠点/屋外


今日は天気がいい


花は…冬だから当然枯れている


小鳥は…冬だから今頃巣の中だろう


こんな天気の良い日だからこそ我々の様な傭兵隊員は訓練をするに限る


「死ねこのアマぁぁぁあ!!!」


「くたばれクソ女ぁぁぁぁあ!!!」


対人戦に精を出している隊員がいる


精というより殺意の方がしっくりくるかも知れない


「……何やってんだあいつら」


「お疲れ様です隊長,何でも決して譲れない戦いだそうです」


シュガーとカレンの2人


あんなに仲が悪かっただろうか?


何はともあれ凄まじい殺気を放ちながら撃ち合っている


撃ち合っているのは確かにそうだ


互いに仁王立ちしながらノーガード戦法を行なっているのだから大したもんだ


既に肌色が見えない


白と黄色のペイントが身体中を覆い尽くしている


正々堂々とは時にこんなに迫力があるものなのかと感心する


「ゔぁっ!?」


その中の一発


明らかに別の方角から撃たれたペイント弾がカレンの顔面へと炸裂する


「ナイス!ソフィー!」


「…………」


どうやらシュガーの味方にはソフィーもついているらしい


そりゃ痛いはずだ


狙撃銃のペイント弾だもの


「やぁーっ!」


「ソフィー!後ろぉ!」


「なっ…!?」


と…ソフィーの背後から奇襲を仕掛けたのは鈴々だった


あーあ…訓練用の狙撃銃が壊れてる


壊れてる?


つまりその威力で蹴りを放ったのか?


「あっはっは!味方がいるのはそっちだけじゃないっすよぉ!!!」


「貴様ぁぁぁぁあっ!!!」


「いい蹴りしてるわね,いっちょ組手でもしてみるかしら?」


「いいんですか?手加減無しですよ」


一方こちらでは組手が開始された


鈴々が使うのは恐らく中国武術だろうと予想は出来る


が…初手からいきなりその予想は裏切られる


「………ッ!」


「ニンポーでしたっけ?火遁の術!」


鈴々が使ったのはスプレー缶とライター


即席の火炎放射器だ


「いきなりやってくれるわ……ねっ!」


「手加減無しって言いましたから…ね!」


スプレー缶とライターで両手は塞がっている


とすれば狙うのは無防備な下半身


当然それを易々と受けるわけもなく塞がっている両手からスプレー缶とライターをソフィー目掛け投げ付ける


攻撃体制から避けるには猶予は無く取れる行動があるとすれば受け身


ソフィーは投擲された物を腕で払い除ける


そこに更に追い打ちをかける様に何かを鈴々は投げつけた


それも同様に腕で払い除けた…まではいい


しかし腕に触れた途端に袋の様な物は弾け中身がばら撒かれる


「痛っ……辛っ!?」


「特性スパイスのお味はどうですかね!」


中身は恐らく香辛料か何かだろう


それも大量の


赤い粉がまるで激物に見える


ここにきてソフィーはようやく理解した


鈴々の手加減抜きというのは恐らく中国での生活に基づいた物


つまりは本気で殺しにくるという事だ


「…あれ止めなくていいんですか?」


「止めてこいよ,私は嫌だ」


「私だって嫌です」


エスカレートした2人の組手(?)は更に過激さを増していく


ソフィーの近接格闘術の高さは隊員達も知っている


それに比べて鈴々の格闘術はまだ未知数


しかしその戦い方はやはり中国武術に通ずる物がある


激しくぶつかり合う打撃


その中に交える武器術


ナイフの様な攻撃に用いる物を使用するのではなく砂や石


それらを駆使する戦い方だ


「チェェェェエストォォォォォ!!!!」


「アイヤァァァァァァァアッ!!!!」


一際大きな打撃音


まるで衝撃波でも出たんじゃないかと錯覚する程の激しいぶつかり合い


「すげ…あいつのラリアットと同じか…?」


「初めて見ましたよ…ソフィーさんのラリアット止めた人…」


両者のラリアットが炸裂する


あのソフィーのラリアットがだ


人間がくらったら間違いなく首がへし折れる程の威力が込められたあの一撃と同じく鈴々のラリアットとぶつかり合った


これにはソフィーも驚いた様子で互いに動けずにいた


動けない理由?


それはラリアットが止められたからではない


更なる覇気を放つ者が現れたからだ


「……………」


「…何あの伝説のスーパーサイヤ人みたいな奴」


「人って怒りが一定数超えると本当に髪の毛って逆立つんですね…」


おかしい


聞こえもしないのに足音がキュピッキュピッと鳴ってる気がする


「誰かしら?香辛料を粗末に使ったのは…」


「あ……ぁ………悪魔です………」


「まずは貴女から血祭りに上げてあげる」


刹那の一瞬


シルヴィアが鈴々の顔面を捉えたかと思えば一気に地面へと叩き伏せる


そしてそのまま次のターゲットはソフィーだ


腕を掴み引き寄せその勢いを利用し溝内へと膝を入れる


あれは痛そうだ


「さて……あとはそこの2人かしら?」


「いや違っ…違うんすよ!!こいつがカレーは甘口だって言うからっす!!!」


「はぁ!?あんな人が食べる物じゃないくらい辛いカレーなんて邪道よ!」


「なんだとぉ!?」


「なによ!!!」


シルヴィアが走る


そして飛んだ


言い合いをしている2人目掛けて


「がっ!?」


「ぐっ…」


2人の頭を掴み地面へと叩き伏せ地面を抉る


暫く引きずって止まると2人は動かなくなっていた


「ふーっ……」


「あー…うん,お疲れさん」


「あら咲夜,いたの」


「まぁな…で……こいつら何したんだ?」


「お昼ご飯の準備しようかと思ったら厨房が酷い状態でね,調味料がぐちゃぐちゃよ」


「あぁ……だからそのお仕置き…と」


「調味料警察を怒らせたら怖いのよ?」


そう言ってシルヴィアは動かなくなった4人を放って厨房へと帰っていく


「………調味料警察ってなんだ?」


「私に聞かないでください」


まぁ一先ず一件落着という事で


【Phase3:爆走三輪車】


この世界には不快な物というのがある


見るだけでも嫌悪を抱く様なもの


はたまた精神的に辛くなってくるもの


それがあるとすれば今目の前のこの光景だろう


「あはははははははは!!!!!!!!」


「………何あれ」


「この世で一番罪深い生き物」


「人間の事を聞いてるんじゃないんだが…」


何が辛いって大の大人が三輪車をキコキコと漕ぎながら大笑いしているのを何故見なくちゃいけない?


これならまだボケた老人を見ている方がマシだ


「んで何であいつ三輪車乗ってんの?」


「いやぁ戦車整備してる時に乗られたらたまったもんじゃないからとりあえず乗せてたら動き出してね」


「呪いの人形かよ」


呪いの人形というより頭のおかしい人間


呪いの人形よりも遥かに恐ろしい


「てかあの三輪車どこにあったんだ?」


「海岸に流れ着いてたのをアレンくんが拾ってきてね,とりあえず倉庫に入れておいたんだけど何かに使えるかなって」


「三輪車をか?」


「ただの三輪車じゃないからね」


ただの三輪車ではない


その発言でもう嫌な予感がする


よくよく見ると色々な部品が付いている


それがどの様な役割を持つのかもはっきりと分かる


そして分かった時には既に遅い


三輪車は急加速を始め走り出した


「危ねぇ!!」


「おー…速いなぁあの三輪車」


「言ってる場合か!」


そこらの原付よりもスピードが出ている


誰だあんなもん作ったキチガイは


「さぁさぁ始まりました荒川のレーシング!実況もこの私荒川がお送り致します!今回のコースは雪が降り積もるこの拠点!スリップに気を付けてアクセルはそのまま!さぁ選手入場!!!」


イカれたレースが今始まった


果たして1人で行うのをレースと呼ぶのかはこの際考えないでおこう


とは言え車に比べればまだ損害は軽微なものだろう


と…この時は思っていた


倉庫の壁に勢いよく突っ込んだかと思えば逆の方から再び飛び出してくる三輪車


壁には三輪車と荒川が貫通してった後が残っている


だめだこいつ


三輪車でも被害を出しやがる


「ホーキンス!!!お前が乗せたんだ何とかしろ!!」


「無茶言わないでくださいよ!あんなになるなんて思わなかったんですから!!」


「あーもうどうすんだあいつ!!!」


壊れた様に壁を突き破っては再び壁へと突っ込んでいく


もうあいつ分かっててやってるんじゃないかと思うくらいだ


「わぁぁぁぁぁあ!!!!」


そして今度は狙いを済ませたかの様にアレン擬達の群れへと突っ込んでいく


それも正確に


「おっとここで乱入者だ!何と自らの足で走り出しているぞ!?これはレースへの挑戦かぁ!?荒川選手これには負けじと更にアクセルを踏み込みスピードを上げていく!さぁ最後に笑うのは一体誰なのかぁ!?」


「……頭痛くなってきた」


「そう言えば隊長は何故ここに?」


「あーお悩み相談,ホーキンス何かある?」


「目の前の荒川」


「あぁ……特にないって事ね」


荒川はまぁあんな状態では悩みも聞けない


というより悩みが無いんじゃないかなあいつ


爆走する三輪車と逃げ惑うアレン擬達を横目に次の場所へと向かう咲夜


背後からは三輪車らしからぬ爆音が響き渡りながら暫くした後に何かが海面に落ちる音が鳴り響いた


ねむれ荒川,安らかに


【Phase4:カマクラ危機一髪】


冬は屋外に色々な物が出来上がる


雪だるまや雪うさぎ


更にはやたらと快適なかまくら


そしてネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲


誰だあんな卑猥なオブジェクト作った奴は


「ほらそこぉー!作りが違うってぇ!」


「ここね?はいはい…」


そして今また何かが作られつつある


「ルーシー,何作ってるん?」


「え?城」


「城かぁ…」


ルーシー率いる雪祭り隊はどうやら城を作っているらしい


重機まで持ち出して本気度が凄まじい


「そこぉ!重機で遊ばない!」


「遊んでないって!」


「あー…まぁ作業中悪いんだけど毎度恒例のお悩み相談なんだけどさー」


「あぁなるほど,はーい全員一旦ストーップ」


まるで現場監督か何かの様だ


「んじゃお前らー,何か悩み事あるかー?」


「寮の暖房が弱い」


「スナックの消費が速い」


「車庫が狭い」


「暖房が弱いのは後で調整しとく,スナックは食べ過ぎ,んで車庫が狭いのはお前が車を大量に買うからだ」


「まだ20台ないくらいじゃん」


「お前いい加減浪費する癖無くした方がいいぞ?」


「趣味に金使ってるんだからいいじゃーん」


「まぁお前がいいならいいけど…けど車庫の増設はしないぞ?」


「んじゃ作るからいいや」


車庫すらも作る気かこいつは


「ところで…あの大量のかまくらはなんなんだ?」


「うん?アレン達が作ったらしいよ」


異常な数のかまくらがそこかしこに作られている


同じ物が大量に作られているのはある意味不気味だ


「作るのはいいけどあれじゃあ車輌出せないんだけど…」


「撤去しとくかい?」


「最低限車輌が出せるくらいにはしといてくれると助かる」


丁度重機もある為大量にあるかまくらの撤去にかかる一同


だがこの撤去作業が地獄の始まりだとはこの時誰も思わなかった


ブルードーザーでかまくらを潰す一台が爆音と共に派手に吹っ飛んだのだった


「……は?」


「おいおいおいぃ!大丈夫かい!?」


「げほっ……げほっ…何今の…」


「この爆破跡……地雷か……?」


「地雷ぃ!?」


何を思ってかまくらに地雷を仕掛けたのか


…いや,もしかしてこの異常な数のかまくら


何かのゲームのつもりなのだろうか?


あいつらが使うなら10個作ればいい


だが作られている数は100を超えている


つまりこれは命懸けのロシアンルーレットのつもりなんだろう


「あいつらろくな事しねぇな…」


「うん……?これなんですかね…?」


「3……?」


吹き飛んだカマクラの跡から3と書かれたボードが見つかる


爆破


そして数字


これは…


「…ルーシーちょっとそこのかまくら破壊してみてくれ」


「あいよぉ……うわぁ!?」


破壊されたかまくらは再び爆破を引き起こす


そうか


これが何なのかが分かった


「マインスイーパーのつもりかあいつらぁぁぁぁ…」


そういえばあいつらの遊具として古いPCを与えていた事を思い出す


その中にマインスイーパーというゲームがある


要は地雷撤去ゲームの様な物だ


恐らくそれを真似て作ったのだろう


こうなってくると撤去作業は困難を極める


理屈は分かっていてもマインスイーパーは慣れていないと難しい


さてどうしたものか


「危なっかしいもん作りやがって……どうするか…ってあれ…ルーシーは?」


「さぁ…今さっき車庫へと向かいましたけど…」


「車庫……?」


キュルキュルキュルと嫌な音が鳴り響く


よく聞いた音だ


あいつかまくらの撤去に戦車を使うつもりだ


「地雷なんざ戦車でイチコロさぁ!」


地雷の爆発を物ともせずに戦車がかまくらを踏み潰していく


ふと拠点の窓に目をやると膝から崩れ落ちているアレンの姿が見えた


まぁ少し可哀想な気がしなくもないがこんな危険な遊びは2度としない様に後で言い聞かせなければならない


とりあえずここはルーシー達に任せるとしよう


はたして無事に済むかは分からないが


【Phase5:こっくりさんこっくりさん】


拠点内一角


見覚えのない建造物が目に入る


「…神社?」


最近までというより今朝までこんなものは無かったはずだ


となると答えは一つ


「白狐,いるんだろ?」


「呼んだー?」


やはりこの神社を作ったのは白狐だった


「どっから持ってきたんだこれ」


「あぁこれ?ちょっと日本にいた頃に住んでた場所を模倣してみてね〜」


「は〜…しっかし作りは立派だな…」


木造とは言えかなりよく作られている


咲夜からしてみれば懐かしくもあるだろう


「中入る〜?」


「中……って何かあんの?」


「そりゃまぁあるよ」


扉を開ければ何という事でしょう


神社とは名ばかりで室内は酷くキラキラしている


「……お前神社って何か知ってる?」


「神の抜け殻?」


特に目を引くのは中央の巨大なパチンコ台だろう


神社にパチンコが置かれているのを冒涜と言わずして何と言おう


「ほら神頼みするのに近くだとお得かなって思ってね〜」


「ここに神がいたとしたらベガス辺りに出掛けてそうだな」


こんな博打塗れの神社に神がいる筈がない


よくよく見ると賽銭箱にも10連と書かれている


ガチャか何かか?


「最近の人間ってこういうの好きでしょ?」


「好きかどうかは別として悪趣味過ぎないか?」


「儲かりそうだからいいかなって」


こいつ隊員から金を搾り取るつもりか


「ほら,えっと……アルだっけ?あの子はパチンコに夢中だけど」


中央の大きなパチンコ台に座っているのは少年兵アルだ


「入れ…入れ!もう5000$も入れてるんだ…!」


「まぁ入らないんだけどね〜」


あのまま続ければ間違いなく破産するだろう


「しっかし…よくこんな集めたな…」


「でしょー?」


よく見渡すとかなり充実している


パチンコ台の他にも様々な娯楽の為の道具が揃っている


中には得体の知れない拷問器具も置いてあるが…


「あ…でもあんまりここに近づかない方がいいかも?」


「ん?何か問題があるのか?」


「友達も来るからさ」


後ろを見るとそれはもう人間と呼ぶのにはあまりにも醜く,悍ましい何かが座っていた


その後の記憶はない


だが隊員内の間であの神社には近付くなとという暗黙のルールが出来たのは言うまでもない


てか勝手に部外者を入れるなよ…


【Phase6:お風呂だよ全員集合】


寒い


ただただ寒い


体の芯まで冷え切ったらどうするか


お風呂でゆっくりと温まるに限る


ゆっくりと湯船に浸かれたらどれだけ良かったか


「シャンプーそっちにある?」


「石鹸で我慢しなぁ」


「アイ大丈夫?ふらふらしてるけど?」


「誰のせいだと思ってんだ……」


「うわっ,何でこんなにたくさんいるの?」


ほんと何故こんなにたくさんの隊員がいるんだ?


というか全員集合している


ある程度広いって言ったって20人近くが集まれば狭いのなんの


「もう少し改築した方がいいんじゃないか?ここ…」


「まぁ今までの半分の大きさになったからね…」


TE拠点の大浴場は元々一つ


それはアルを除いて全員女性だからだ


その為今までは問題はなかったがアレンとアレン擬達が増えてからはしっかりと分けようと今までの半分の広さになっている


「狭そう」


「うるさい」


「愚の骨頂」


「何覗いてんだごるぁ!!!」


ぶん投げた石鹸がアレンの顔面に当たりバッシャーンと湯船に落下した音が響く


そもそも普通に覗いてくるなよ


「ったく…誰かあいつらに教育してやれ」


「別に見られて減るもんじゃないだろ」


「てめぇらには羞恥心がねぇのか?」


「医務室でヤってた奴に言われてもなぁ」


「あ"ぁ"!?」


この拠点


風呂といえど落ち着ける訳でもない


寧ろ声が響くからいつも以上にうるさい


「はぁ…本当にうるさい……サウナにでも入ってこよ…」


「なかなかペイント弾って落ちないっすねぇ…」


「ペンキくせぇんだよ,寄るな」


こんな状況男からしてみれば天国…いや地獄か?


女性だが女性らしさは皆無


寧ろ男の方がまだ良かったのかも知れない


「あ"〜……あったまるぅ……」


「しっかしこんなたくさん集まるなんて珍しいわね」


「寒いからだろ」


寒いとはいえ何故こうも一度に集まるのか


いや使用していい時間は決められてないから文句は言えないのだが


「皆さんお揃いですね」


「随分と窮屈そうですねぇ」


「でか……」


鈴々と零音


鈴々が巨乳なのは分かっていたが零音も零音でデカい


着痩せするタイプだったか


「デカくても重いだけっすよね〜?」


「なんで私に聞くんだ?あ"?」


「ったくなんで胸の大きさ競ってんだ…」


「咲夜は気にならないの?」


「大きくても任務の邪魔」


「小さい奴はみんなそういうんすよね〜?」


「お前減給」


そうら悪ノリが始まった


何故こうも女という生き物は胸の大きさを競いたがるんだろうか


「カレンとルーシーもいい勝負よね…」


「鈴々さんも期待の新人ですね…」


「ところで一番大きいのは誰なんです?」


「あそこで寝っ転がってるカリフォルニア」


「カルネスだよ!!!」


基本的に隊員は普段窮屈な装備で胸を締め付けている為目立たないが裸となれば話は別だ


胸の大きさのトップに君臨しているのはカルネスヴィーラ


次いでカレンやルーシーの様な高身長な隊員


その他は概ね同じサイズ感と言っても良いのだが中にはそのサイズでバチバチに対抗心を燃やしている奴もいる


「私の方が大きいんじゃないかしら?」


「目も洗ったら?シルヴィア」


「…………」


「ほらアイもその内大きくなるって…」


「何も言ってねぇだろうが!この歳で成長期があると思ってんのか?あ"ぁ"!?」


その一方


最も貧乳なのはまごう事なきVだ


尚指摘するともれなく医務室送りにされる


「まぁまぁ豊胸剤なら私作れますよぉ?」


「本当か?」


「やっぱり気にしてるじゃん…」


流石は化学兵


薬品ならお手のものと言わんばかりに争いを治める


「まだ試験用ですけど使いますぅ?」


「飲めばいいのか?」


「飲んだら爆発しちゃうのでこうやって液体に溶かして肌から摂取させるとですねぇ…」


「おいばかやめろ」


何故この場所に持ってきてるんだと突っ込みたいところだが時既に遅し


零音の垂らした液体は浴槽に溶け,次第に変化が訪れる


「お……おぉ……!?」


「嘘……すごい…!」


何という事でしょう


どういう理屈なのかは不明だが明らかに浴槽に入っていた隊員達の胸が大きくなり始める


「ははははは!これが胸の重みか!!!」


「ちょっと…はしたないわよ………」


これに大喜びしたのはVだ


よっぽど胸が欲しかったのだろう


「ところでこれ戻るのか?」


「経口摂取でなければ時間経過で戻る筈ですよぉ,それにしてもこれは失敗作ですねぇ」


「失敗作…?」


「本来であれば発情効果もあった筈なんですけどねぇ」


なんてものを作りやがるこのマッドサイエンティスト


「あ〜なんかムラムラしてきたわ〜,アイ,外に行こっか」


「おい離せ!!ふざけんな!!!もう腰が痛ぇんだよ!!!」


「あれ絶対嘘だろ」


「まぁいいんじゃない?」


さて,ここで何か忘れていないだろうか?


この大浴場


元々は一つだったという事


つまり壁で隔てられているとは言え浴槽…つまり水は共有されている


「うわぁぁぁぁあ!なんか胸が変!」


「女みたい」


どうやら男湯の方でも被害が発生してる模様


「カレン!美香!早く!!」


「覗きは覗かれた者の特権!」


「早く使い方教えてあげないと!!」


「あぁもう……頭痛い…」


何故いつもこんな結果になるのだろうか


まるで超人の様に壁を超えた3人が男湯へと入っていく


直後響き渡る悲鳴を聞きながら隊員達は各々大きくなった胸を堪能した


まぁこれも時間が経てば元に戻るだろう


きっと


【Phase7:明けない夜】


陽は沈み静寂に包まれる事もなく拠点内のあちこちから声が響き渡る今日この頃


アレン一行は外で未だに雪遊びをしてるらしくやかましい


寮では馬鹿みたいな笑い声が響き,医務室ではもはや言葉に形容出来ない悲鳴もとい喘ぎ声が響き渡る


「はぁ……結局あいつらに悩みは皆無だな…」


「お疲れ,随分と疲れてるみたいだな」


「肩は凝るし一日中あいつらに振り回されたから疲れたよ」


「やっぱりここにいたのね」


「よぉシルヴィア,何か用か?」


「寮じゃ落ち着かないからね…」


一角にちょっとした洒落たバー風のカウンターが置かれている


何でもルイスの趣味だとか


少人数で話すのには十分だ


「随分と今日は色々とあったみたいだな」


「ほんとだよ,たまの休暇くらい大人しく過ごさせてくれ」


何故だか久しぶりな休暇の気もするがここでは狂気が正常


落ち着ける場所などは存在しない


「それにしてもお前はあんま大きさ変わらないのな」


「あぁ,防弾ベスト着てるからな」


「スーツの中に?」


「普通だろ?」


「異常だよ」


「でもこれが巨乳の悩みなのね…肩が痛いわ…」


未だに巨乳化の呪いを受けている隊員一同


実際になってみなければこの悩みは分からないだろう


「さて……咲夜,お前の意見はどうだ?」


「…やっぱりまだ信用は出来ない,拠点でもあまり姿を見なかったからな」


「…もしかして零音さんの事?」


「そっ,私は一日拠点内の回ってたけど零音の姿を見なかったからね,何をやってるのかプライベートに首を突っ込むつもりはないけど…」


「零音の力は確かにある,だが信用出来るかは別だ」


「…確かに私もあまり零音さんには良い印象がないわね…なんていうのかしら…不気味というか…」


「……やっぱりか」


零音という存在は得体が知れない


というより異質だ


未来人を自称し,何も話さないがその言葉には信憑性があり,零音という人物が我々TE部隊にとって不可欠な存在であると認識させる


話術によるものもあるが何故だろうか


知らない事を知っているというだけでここまで言葉に信憑性が生まれるものなのか?


「…私らが知り得ない事ねぇ…」


「それをどう考える?」


「……単純に考えて私らが保有していない組織の情報…って事も考えられるけどどうにもそういう意味で言ったわけじゃないと思ってる」


「というと……どういう意味かしら…」


「俺達が知り得ない…つまりは手に入らない,それこそ情報じゃないのかも知れないな」


知り得ない事


知らない世界


ただの零音の言葉の綾かも知れないが知らない世界というのはどういうものだろうか


まるで世界が複数あるかの様な言い方だった


「…もし俺達のいる世界が一つだけじゃなかったらどんな世界だろうな?」


「珍しいじゃん,そんな話するなんて」


「まぁ別に考える事はあるからな,世界が一つだけと考える事のほうが不自然だろ?」


「まぁ世界が幾つもあって私らがいるのがその中の一つってだけの話だもんな」


「…もし他の世界があるなら平和な世界がいいわね…」


「戦争の無い世界…想い描くだけでは絵空事でしかないな」


「そうだな,私らはその世界を実現させる為にこうして銃を握ってるわけだし」


「そうね…長い戦いになるとしても必ずこの手で…」


戦争の無い世界


果たしてその様な世界があるのだろうか


いや…無いからこそTE隊員達は戦っている


仮に他の世界があったとしてもその世界へ行ける訳でもない


今生きているこの世界


戦争で満ちたこの世界で生きる


それがこの世界に生きる人間だ


「待てよ…そうなると零音が知っている事ってーーー」


「おやおや皆さんここで酒盛りですかぁ?」


「誰か医務室の声どうにかなりませんかね…?」


「シルヴィアー夜食ないー?」


「はぁ…夜だってのにこいつら元気だな…」


「まぁいいじゃないか,元気じゃ無いよりかは」


「はいはい…とりあえず医務室の騒音被害からどつにかするか…」


夜は老けたというのに隊員達は眠らない


寧ろ一日中やかましい


しかしこの様な状況こそが本来あるべき形なのだろう


戦場ではこの様な事も起きない


人が死に,もはやその数を数える気にもなれない


意味もなく失われていく命を少しでも減らす為に


そしてその原因である戦争を無くすために


この様な状況でも隊員達の胸には立てた誓いが失われず煌々と燃える


必ず戦争を終わらせる


決意を固めて今再び心に誓う


だからこそ,闘志は消える事はない


-Next war-

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