23-1.繋がりたい


 街を走り抜けると、徐々に石畳の道が土の地面へと変わって行く。

 ただそれだけなのに、随分遠くに来た気がしてしまう。


「不安ですか?」


 隣を歩くノアの横顔が、月明かりに照らされている。


「ちょっとな。お前はこうして旅立つことには慣れっこなんだろう?」

「ええ、今更なにかを感じることもありません。いつもなら、ね」


 ノアの色っぽい笑みに、顔が熱くなる。

 いちいちノアに照れてる場合じゃない。これからはずっと一緒なんだ、慣れないと。

 

 ずっと一緒……か。

 思わず綻んだ口元を、わざとらしく咳払いをして誤魔化した。


 そうして歩き続け、深夜をまわった頃にぽつんと佇む宿を見つけた。

 旅人が立ち寄る場所らしく、今夜は俺たちしか客がいないようだ。

 

 通された部屋は案外広く、ベッドが2つにランプ、机がひとつだけあった。

 ベッドに腰かけても軋まないし、布団もペラペラではない。意外と快適に過ごせそうだ。


「朝まで歩くのかと思ってた」

「急ぐ旅ではありませんから、ゆっくりしていきましょう」


 それもそうだ。連れ戻す追っ手が迫っているわけでもあるまいし。

 明日からまたどれだけ歩くのかわからない。旅は体力勝負だ。今夜はゆっくり寝ておこう。


 と思ったら、ノアが向かいのベッドではなく俺の横に腰掛けた。さらりと髪をほどくと、銀の髪が流れ星のように流れる。


「このまま寝るつもりではないでしょう?」


 ぽかんとしていると、何故かノアが唇を尖らせる。どういう意味だ?


 何も察しない俺にしびれを切らしたのか、ノアが俺の太腿に手を置く。

 そして、息が掛かるほどに顔を近づけてきた。囁くように呟く。


「僕らの初めての夜ですよ。初夜に手を出さず寝てしまうなんて、無粋な人ですね」

「しょ、初夜!?」


 それがどういう意味なのか、俺にもわかってる。

 わかってるが、それは俺たちにも適用されるのか!?


「お、お前と夜を過ごすのは初めてじゃないだろう」

「あれはノーカウントですよ。それに、手や口でシただけでしょう」

「十分過ぎるわ!」


 あの夜のことは、なるべく思い出さないようにしていた。それで興奮したら終わりな気がして。


「あのときは心を通わせていないではないですか。心が繋がった今、身体も繋がりたいと思うのは自然の流れでしょう?」

「そう、だけど……」


 心臓が破裂しそうなほどバクバクと動いている。ノアにはきっとバレているだろう。

 ふふっと笑ってから、吐息混じりに言う。


「抱くのと抱かれるのでは、どちらがお好みですか?」

「だッッ!?」

「僕はどちらでも構いませんよ」


 抱くの抱かれるのって……そうか、男同士だとどっちもの可能性があるのか。

 でもそんなの考えたこともない。というか、どうやって決めるものなんだ?


 俺はノアを抱きたい? 抱かれたい?

 

 ああ、わからん! 俺の頭ではキャパオーバーだ!


「男性とのご経験はないようでしたが、女性とのご経験は?」

「な、ない……けど」


 くすりとノアが笑う。

 バカにしてるのではなく、どこか嬉しそうだ。


「では、僕が男にして差し上げましょう」

「は……? っ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る