第56話 ピンク

それからの旅の間は、ずっと思考がふわふわしてた。

桜城さんがいつもの倍増しで優しくて。

いつもは気になる桜城さんを見てる周りの女子の視線も気にしていられないくらい彼の視線が甘くて。

頭上に広がる淡いピンクが桜の花の色なのか自分の思考の色なのかってくらい。


最終日、部署のみんなにもお土産を買おうっていう段になってやっと少し覚醒した。

同じ場所で買ったお土産を配ったりしたら、私達が付き合いだしたのみんなにバレるんじゃ?


「あの・・私達の事、公表するんですか?」


桜の花のお茶やらお菓子を数点選んでいた桜城さんの袖を引き小さな声で訊くと、彼は「そのつもりだけど」とあっさり言った。

逆に「なんで?」と訊き返される。

あまりに自然に返された『なんで?』に自分の答えを返すのに躊躇する。

すぐに言葉の出ない私に、桜城さんは


「薫はみんなに言うの、嫌なんだ?」



と少し残念そうな顔をした。

この人は私をちゃんと彼女として扱ってくれようとしている。

その気持ちはとても嬉しい。

嬉しいけど。


「会社の女子がパニックになりそうかな、って」


手を繋いだりも無くただ一緒に歩いてただけでグサグサ刺さってきてた視線の主達がこの事実を知ったら。

噂は瞬く間に広がって、社内の女子がジェラシーパニックに・・・。

その中心にいるのは勿論私。

今までは直接的な嫌がらせは無かったけど、もしかしたら・・・?

うう、考えただけでオソロシイよ・・。


「・・・俺は薫を狙ってるオトコ共に牽制も自慢も出来るなって、喜んで公表してやろうと思ってたけどそうか・・・」

「心当たり、ありますよね?」


いつもいつも「そんなにモテねえよ」なんて言ってたけど。

おおっぴらに「桜城さぁん(はぁと)」なんて寄ってくる猛者も沢山いるし、ひっそり、真剣に告白してる子が沢山いるのも知ってるし。


じっと見つめると「いや、まあ・・」と視線を逸らして言葉を濁す。


けれどすぐに「でも」と向き直り「それを言ったら、薫を狙ってる男に心当たりがあるでしょ」と今度は私がじいいいいぃーっと見つめられる。


いや、そんなに見られても・・・。

私を狙う? 男? そんなのいるのか?


「ない?」

「はい・・・」

「そ? そっか(笑)」

「・・・」


なんでしょう。その笑い。


「何か知ってるんですか?」


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