カイジン都市
ヒーズ
カイジン都市 第1話 ~プロローグ~
ゲールク歴275年、突如として現れた怪人によって、とある都市が滅ぼされた。
灰と燃えがら、そして怪人の彷徨う都市ゼルノート、通称:カイジン都市。
当時のドッチュラント帝国皇帝、カイザルⅣ世陛下の勅命の下、怪人討伐軍が
編成されたが、討伐に向かった者は誰一人として生きて帰ってくることはなかった。
事態を重く見たカイザルⅣ世陛下は、当時の魔法師長に勅命を下し、第二次討伐隊に参加させた。
結果、甚大な被害を出しつつも、カイジン都市周辺の怪人討伐に成功した。
だが、都市内部にはまだまだ怪人が残っている上、陛下の臣民も大勢残っている。
カイザルⅣ世陛下は、その後も何度も討伐及び臣民救出隊を編成し、カイジン都市に派兵し続けた。
が、6度目の討伐任務で魔法師長が重傷を負い亡くなられてからは、討伐隊の勢いも削がれ、カイジン都市へと派兵される回数も減っていった。
ゲールク歴277年、カイザルⅣ世陛下が崩御なされて、カイザルⅣ世陛下の孫娘にあたる、エルゼ様が女帝となった際に、特務魔法師隊を新設され、ゲールク歴278年、カイジン都市へと向けて派兵された。
それが代理隊長、つまり私、メイ・フォン・ベルラーツ率いるこの部隊。
と言っても、現在のところ7名程度の少数部隊でしかないのだけれど。
「代理隊長、隊長は女なんですか」
下賤な質問をしてくるこのアホは、ジュドー。
第2級魔道具である『豪脚・豪腕』の使い手だ。
腕前は一級品だけど、勤務態度が悪くて、上官への態度も悪くはなけど良いとも言えない。
それに大の女性好きで、時間さえあれば女性を口説いている、下賤な人間だ。
まあ、いざ戦闘が始まれば真面目に、仲間との連携を意識して戦うから、今のところ問題はないのだけれどね。
それに、法律とか規則とか・・・ま、まあ、法律は絶対に破らないし。
けど、腹立たしいからこいつが嫌がる回答をしてやる。
「いいや、隊長は男だそうだ」
私がそう言うと、ジュドーは俯きながら残念そうに溜息をついた。
「ざまあ見ろ」
私がそう呟くと、後ろからギャーギャーと抗議の声が聞こえてきけど、私は
無視した。
言語能力のないサルとは会話できないからね。
それに、隊長が男であることは、別に私が決めたことではないし、隊長を変えることもできない。
まあ私も、他人に指揮を任せるくらいなら、単独で動いた方が効率がいいと
思っている。
でも、これはエルゼ陛下の勅命であるから、従う他ないの。
あの方はあの方で、とても苦労なさっているし。
あの方のためにも、我々が武勲を立てなければならい。
私のこの 力 は、そのためにある・・・と思っているわ。
「あらぁ~、代理隊長ぉ~、あれぇ~、カイジン都市じゃ~、ないですかぁ~」
おっとり、と言うかとろい喋り方をしているのは、我が部隊の数少ない女性の一人
であるエルマー。
風樹の魔女、としてそれなりに名の知られている人なんだけど・・・。
本当に、とろい人なのだ。
と言っている傍から、カイジン都市に目が行って転んでるし。
「痛いぃ~」
情けない声を出しながら、ゆっくりと起き上がる彼女は、一見ひ弱な女性に見えるけど、この部隊の後方支援役として重宝される人ではあるのよ、うん。
ま、まあとりあえず、今はカイジン都市に向かうことに集中しましょう。
「あと少しで到着する、全員気を緩めるな」
私は部下たちに意識を正させるため、張りのある声で注意した。
怪人の数は前帝カイザルⅣ世陛下のご活躍で、大分数を減らしているとは言え、
まったくいないわけではない。
それに、討伐隊の派兵の回数が減ったせいもあって、再びカイジン都市周辺にまで
怪人が現れるようになったのだ。
他にも、騎士団の勢力が弱まったと聞きつけた流れ者(追放者や野党などの蔑称)が、カイジン都市に集まって来ていると聞く。
私たちは、怪人の調査及び討伐のために来たのだ。
一時たりとも、気を緩めることはできない。
だって、これは私たちだけの問題ではないのだから。
灰と燃えがらの都市とは言え、まったく建造物がないわけではない。
石造りの建物が一定数だけ残っている。
もちろん、怪人の手によって壊されていなければ、だけど。
その石造りで、怪人の手によって壊れていない建物の一つに、騎士団ゼルノート支部も入っている・・・はず。
そう、私たちが向かうのは騎士団のゼルノート支部。
そこに、カイジン都市をよくしていて、実力も信頼に値する、我らが隊長様が
待っている。
はぁ、実のところ私もあまり隊長について詳しくない。
第1級魔道具『欲望の鉄鎖』の使い手だということと、アルフレッドという名前しかわかっていない。
エルゼ陛下のお言葉とは言え、彼が私の上官として相応しいどうかは、この目で判断させていただく。
などと考えていると、背後からポンポンと肩を叩かれた。
振り返ると、ゾルドさんが遠くの方を指さしている。
ああ、ゾルドさんはこの特務魔法師隊の中で最も年上で、頼れるお方だ。
第1級魔道具『重戦士の武装』の使い手で、今は解体されてしまった、怪人討伐隊の隊長でもあった。
私が生まれるよりも前から、戦場に身を置いてきた歴戦の戦士・・・基本的に無口で、意思疎通が難しいところを抜けば、尊敬に値する人だ。
それはさて措き、ゾルドさんが指した方向を見てみると、人間同士が争っているのが見えた。
さらによく見てみると、彼らは1対8で戦っており、1人の方は騎士団の制服を着ているのが確認できた。
はぁ、どうやら流れ者が騎士団の勢力が弱まっているカイジン都市に集まっていると言う情報は事実のようね。
まあこの都市の状態など、私たちよりお詳しい隊長殿に聞けばすぐにわかることだし、今はあの騎士を助けるとしましょう。
「新人、あの騎士を助けなさい」
「う~っス」とだらしのない返事をしながら、飛び出して行った彼は新人の
カイドウ。
勤務態度、上官への態度、全てが悪い。
まあ、単純にスラム育ちで、敬語とか礼儀作法とかが苦手なだけなんだそうだけど。
師匠からそういうの教わらなかったのかしら。
でも、戦闘能力は私に次ぐ高さなのは事実。
火炎の武闘魔法師、言い換えれば筋肉馬鹿とも言うわ。
それでも、単純に力任せと言うわけではなくて、洗練された技術で相手を倒していく、純粋な武闘魔法師よ。
と、考えている間に敵を倒し終わったようね。
流れ者に囲まれていた騎士は、かなり重症のようね。
「カリン、彼の傷を治してあげて」
「はぁ~い」と返事をしながら、騎士に駆け寄って行く彼女は、この部隊の唯一にして正規の回復師だ。
水氷の魔女として、基本的にはエルマーと一緒に後方支援を、場合によっては回復役として動いてもらう。
この部隊では数少ない、常識を持った人でもある。
さて、騎士の傷も回復したようだし・・・このまま、騎士団の支部まで案内してもらおうかな。
「君、大丈夫か」
私が地面に倒れて、気を失っている騎士に、跪きながら話しかけると、彼は苦しそうに咳き込んでから、ゆっくりと目を開いた。
そして、私の顔を見るやいなや、目にも止まらない速さで起き上がって、騎士団特有の敬礼をする。
なんかちょっと、そういう反応・・・傷つくな。
まあ、もう慣れてしまったけれど。
私は彼に反して、ゆっくりと立ち上がり、軽く敬礼した後に彼から事情を聞くことにした。
「えっと、はい。私は騎士団ゼルノート支部の支部長の命に従って、特務魔法師隊の皆様を出迎えに向かっていたであります」
緊張しているのか、声の震えや、声の上下が激しい。
それに言葉遣いにも違和感あるし、この騎士、よくカイジン都市で生き残れているわね。
でもまあ、今はそんなこと関係ないし、彼が私たちを迎えに来たって言うのなら、好都合だわ。
このまま、ゼルノート支部まで案内してもらいましょう。
そう、私たちは一刻も早く成果を上げなければならないのだから。
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