第17話 sideマイ

side マイ



ついに復帰ステージの日がやってきた。この日のために、マリアに教てもらった美容法を実践して肌と体を整え、ダンスも歌も仕上げてきた。ダンスに関しては一度、タクヤが見に来てレッスンとアドバイスをしてくれていた。



「マイのステップが音と合ってない。リズムちゃんと体に叩き込め。レイは微妙に動きが遅れてる。体力ないんだから力入れるとこと抜くとこしっかり覚えてメリハリつけろ」

タクヤから容赦なく指摘され、言い方はきついが内容はその通りなのでマイとレイはその都度改善に向けて動きを整えた。ダンスは驚くほど劇的に改善した。マイはレイから『ダンスや歌に関してはタクヤの言うことは間違いない』と聞かされていたが、その通りだった。想像以上だった。ただ正直、キラキラアイドルcolorSのタクヤにあまりにもズバズバ言われるので、ちょっと涙目になってしまった。というかちょっと泣いた。レイは慣れているのか気にしておらず、素直に聞き入れていた。タクヤの言い方ではレイがブチギレるのではないかと思ったが、そんなことはなかった。ダンスと歌に関しては心底タクヤを信頼しているようだ。

「あと、マイの『ドキドキしたい』のとこな、立ち位置変えてレイより前に出た方がいい。で、その場の空気でファンサ。ちょっとやってみろ」

タクヤに言われてマイは会場を想像してみる。古参のファンがきっとウチワを持ってきているだろう。そこになにが書いてあるだろうか。

「『ドッキドキしたい~』」

「バンしてー」

「ばーん☆」

「ウインクしてー」

「あーい☆」

「マッスルポーズ~」

「ぃよっしゃあ!」

タクヤの掛け声をファンからの要望と思ってその場でポーズを決めていく。レイから拍手が沸き起こった。タクヤは腹を抱えて笑っていた。

「すごいな、マイ。なんでそんな、すぐ反応できるんだ」

「いや、なんか…体が勝手に動いて…」

「やっぱな~お前そういうの得意だろ?やれるタイミングでどんどんやったれ」

キツイところもあるが、タクヤのアドバイスは的確だった。マイとレイと、それぞれの個性に合わせたパフォーマンスを考えてくれている。ファンとステージのことをより深く真剣に考えているからこそ、ファンも演者も楽しめるアイデアが浮かぶのだろう。これは一朝一夕で身につくものではなく、培った経験を惜しみなく今マイとレイに与えてくれている。レイが信頼するのも納得だった。ただの友達同士というわけではないだろう二人に少し緊張していたが、レイに大切な人ができて良かったと思う。

「女装の時ってパンツどういうのはいてんの?ブラつけてんの?」

ただ、気を抜くといちゃつき始める二人に、マイはやはり気まずかった。タクヤはレイの肩を抱いて絡んでいる。そういうことは家でやっていただきたい。レイは返事をしなかった。

「教えろよ、レイ、どういうのつけてんの?レイ~?聞いてる?ガン無視?…やべ…キレてんな、これ…おい、ごめんて、レイ?レイさーん?」

しかしレイは真っ直ぐ前を向いて無言だった。本当に怒っているのだろうか、表情のないレイからは何も読み取れない。ダンスや歌のことは素直に聞くのに普段はこの調子のようだ。タクヤのなさけない姿は正直見たくなかった。あまりにもしょっぱい対応に、マイはレイらしいな、と、二人を眺めていた。




マイとレイはマリアにメイクをしてもらい、パイプ椅子に座って出番を待っていた。久しぶりのステージにどうしても緊張してしまう。マイはソワソワと落ち着かないが、レイは相変わらず表情を変えずに椅子に腰掛けていた。タクヤも予定を合わせて見に来てくれている。

「まいまい、あんまりカチカチだと変なとこに皺よっちゃうわよぉリラックス♡」

「でも、マリアさ…久々で、やばいっす、緊張が…」

「お前、めちゃくちゃ緊張してんな」

「だから、久々で、」

マイがタクヤに答えると、タクヤはレイの前に立ってレイを見ていた。

「こ~んな可愛いらしいレイたん初めて見るんですけど。ガッチガチじゃん」

「…」

レイはやっと、笑うタクヤに視線を合わせた。その顔は青ざめているような怒りを含んだような表情に見えるが、やはり普段と変わらない。クールなレイだ。タクヤは少し屈んで、座っているレイに目線を合わせた。

「今日のお前、めちゃくちゃ可愛い。ダンスも歌もあれだけ練習した。絶対ファンに伝わる。失敗しても堂々としとけ。楽しめ」

タクヤは珍しく真剣にレイに語りかけた。

「そうよ~このマリアさんがヘアセットもメイクもしてるんだもの。今日の二人はとっても綺麗よ?自信持って。頑張ってきた二人を、みんな待ってるわ」

マリアはマイの両肩を叩いた。今日のメイクはもちろん、カツラと衣装まで一緒に準備してくれた。タクヤとマリアだけじゃない。社長も復帰ステージのために尽力してくれた。ファンが待っている。マイとレイは、たくさんの仲間に支えられている。レイはタクヤの拳に拳を突き当てる。マイはマリアに大きく頷いた。

「最高のパフォーマンス、見せつけてこい」

「大丈夫。今日のツインズは最強よ」

開場の時間が迫っていた。マイとレイはタクヤとマリアと別れ、舞台袖へ向かう。

「久しぶりだな、この感じ」

「緊張、する」

「見えねぇよ~さすが、クールビューティー担当のレイだな」

「…お前は元気っ子、だもんな。から元気が上手い」

マイとレイは顔を見合わせて笑う。

「楽しませよう、ファンのみんなを」

「あぁ。全力、出し切る」

ツインズに声がかかった。二人はきつく手を繋いでステージに向かって歩く。小さくても大切なステージは、ファン達で満員になっていた。大歓声の中、二人のステージは始まった。

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