悪の組織の幹部の俺はいつも心で叫んでる 〜戦闘能力皆無だけどヒロインぐらいは助けたい〜
TKあかちゃん
第1話 第1部 竜に見初められた少女と終わらせる者たち プロローグ その1
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◯
「ああっ、くそっ!なんて日なの!援軍!援軍はまだぁ!!なんなのあのバケモノ!なんで死なないのよ!」
誰かが恐怖の声を上げていた。
銃砲撃から身を守るために掘った塹壕の下から私はカメラを構え、周囲では味方たちの銃弾が飛んでいる。
敵軍側の向こう側からの発砲音は聞こえない。
それは圧倒的有利な状況。本来であれば勝利である状況だ。しかし、敵からの降伏もなく。
そして、こちらも誰も終わったと思っていない。
そらじゅうに味方の兵士が倒れている。見知った人もいれば知らない人もいた。
もう少なくなった味方達はありったけの弾薬を持って撃ち続けていた。
理由は明白、敵軍側に一人……いや一匹のバケモノがゆっくりと近づいてきている。仲間たちは撤退しながら攻撃しているが猛攻は止まらない。
バケモノの大きさは私たちの身長の3倍ほどの大きさであり、2足歩行をしていた。手にはハルバードを持っていて、全体が銀の甲殻のように覆われている。
まるで人と昆虫のハイブリットのような巨人だ。
でも、明らかに人間ではない。みんなもそれはわかっている。理由は単純明快。顔がまるでワラスボのような見た目で目が無く、牙がびっしりと生えていた。
「ミア様!あんまり身を乗り出しちゃだめです!あいつ、銃撃が効いていません!!危ないです!逃げましょう!」
誰かがは恐怖に負けて、叫んでいた。
わかる……私も叫びたいけど、ぐっと我慢する。
だが、その恐怖をかき消すように凛々しく響く声が鼓膜に入った。
「安心しなさい!!この私を誰だと思っているの?聖騎士学園中等部主席でしたミア・スィーマなのよ!初陣にしては退屈すぎて暇してた所なのに、強そうな生物兵器が現れて、これで名を上げれるってものだわ!それにアナタしっかり見て見なさい」
彼女は金色のツインテールを戦場でなびかせ、軽やかにライフルを持ち、バケモノの頭に全弾命中させている。
遠目だが、その鉛の雨にバケモノは手で顔を覆って少しひるんでいるように見えた。
流石、パラデイン聖騎士学園の主席。私と同じ15歳とは思えないほど銃の腕がいい。
私とは段違いだ……
「どんな生物にもウィークポイントはある!」
ミア様はバケモノの頭に再び銃弾を当てると、バケモノは武器を持っていない方の手で再び顔を覆った。
「あいつは頭が弱点だわ!弱点じゃなければカバーはしない!みんな!頭を狙って!勝てない戦いじゃないわ!」
その姿は誰より美しく見えた。
「流石ミア様ですわ!ワタクシたちも行きますわ!」
周囲の取り巻きでろう女の子たちもこぞって前のめりに撃ち始めた。そして、その銃弾はしっかりとバケモノの頭に打ち当てている。
怪物に立ち向かう少女たち。
母国のために戦いの技術を幼少の頃から研鑽を積んでいる彼女たちは古代の戦士になぞらえて『ヴァルキリー』と呼ばれた。
貴族としての美貌と勇敢に戦う様はまるで、幼少の頃連れてってもらった美術館に飾ってあった絵画のようだ。
エリート学園のヴァルキリーは一般的な私と違ってとても勇敢で可憐で美しい。
それによい物を食べているのか肉付きもいい。ふと、私の胸と彼女の胸を見比べてしまった。その圧倒的な格差にぐすんとちょっと涙が出そうになった。
「セカンドであるアナタはちゃんと、あのミア様の有志を記録しなさい!それが新聞係の仕事でしょう」
取り巻きの一人が私に声をかけてきた。
新聞係、そう言われて少し落ち込みそうになるけど、それが私の立場であり、役目だ。
私は彼女たちから少し離れて全体が撮影できるような位置に行き、カメラを回し始める。
私たちヴァルキリーは愛する国を守り、市民たちの為に育てられた貴族の少女たち。幼少から教養と勉学とマナー。そして戦闘技術を磨いてきたエリートだ。
そして、この場は私たちの舞踏会。つまりは戦場。
ファーストと呼ばれる戦闘部隊は強く美しく可憐であり、みんなの憧れ。つまり一番という事。主役だ。
セカンドは2番目。セカンドの役目はファーストの補佐。影の薄い役割だ。
でも、銃弾を供給したり、ファーストが傷を負えば治療をしたりしている。ファーストたちの活躍を支える影の功労者たち。皆が誇りを持って仕事をしている。
だが、どこの世界にも落ちこぼれはいる。銃を撃っても100発1中ぐらいだとか、命令違反ばっかりだとか敵前逃亡ばかりだとか……
そういう娘たちは戦場でファーストの優美さ可憐さ清楚さを記録し、後継に受け継ぐ役目が与えられる。
つまり、いてもいなくても変わらない立場。ファーストの有志は皆が知っている。だから、居ても居なくても変わらない。ゆえに新聞係として揶揄される。
超落ちこぼれたちだ。
そして、私も落ちこぼれの新聞係……
「流石、聖騎士学園の主席。アイアンヴァルキリーの称号に一番に近いと言われているだけありますね。味方の鼓舞の仕方がわかってます。でもマズいです」
「どういう事ゼーアちゃん?」
隣にいた同じく新聞係の後輩、ゼーア・エーレントちゃんが呟いた。
「みてください。あのバケモノ。全然ひるんでいません。22口径の集中砲火。生身なら少しでも掠れば致命傷の威力にもかかわらず……」
「えっ、ここからそう見えるの。遠目には頭を手で塞いでいてひるみながら進んでいるように見えるけど……」
「ちがいます。あの感じは顔のまわりで羽虫が飛んで鬱陶しいと思っている感じです。それに小さいですがあのバケモノには目があります。
その目はギョロギョロとひっきりなしに動いていて、こちらの様子を伺って、観察している。あの余裕。
バケモノはその銃弾では死なないってわかっているんです」
「ゼーアちゃんは目がいいねえ」
私は彼女の小さくてかわいい頭をヨシヨシとなでる。
「先輩。前から頭なでないでくださいって言ってますよね」
「ダメです。可愛い後輩を褒めるのは先輩の役目です!」
可愛い後輩の顔が少し赤くなっていたが、私は気にしないで頭をなでた。
「っもう。褒めてくれるのは嬉しいですが、そろそろやめてくだい!このピンチ。この状況があのエリート様に伝わる頃の距離にはバケモノの射程圏内と思われます」
「つまり、あのバケモノは演技をしているってコト!?そうすれば一気に全滅じゃない?それってヤバいじゃん!ゼーアちゃんミア様に言おう!」
足を踏み出してミア様のところに駆け寄ろうとすると首根っこを掴まれて後ろに倒れてしまった。
「いたた……どうしてゼーアちゃん私を……」
「新聞係の私たちが行ってもすぐには信じて貰えないでしょう。説得している間に時間切れです」
「じゃあ、どうすれば!」
「私に考えがあります。だから先輩は時間を稼いでください」
「わかった!じゃあ、先輩である私がなんとかしよう!じゃん!カメラ2台持ちー!これでゼーアちゃんの分の撮影ノルマをカバーできるよ」
私はゼーアの持っていたカメラを奪うと両手で構えた。結構な重さがあってちょっとキツイけど……
「……」
「ゼーアちゃん?」
「先輩は私が逃げるって思わないんですか?」
ゼーアの顔は少し後悔があるような悲しげな表情をしていた。
「大丈夫!私、ゼーアちゃんがそういう娘じゃないって知っているから!でもゼーアちゃんみたいな娘が新聞係っておかしな話だよね。射撃訓練も戦闘訓練も優秀だった……」
ゼーアはにやりと笑って走っていった。
「最後まで褒めさせてよ……自慢の後輩ちゃん……」
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