押しと推しに弱い冷酷超美人教師はお隣さんで、ぼっち陰キャの僕がグイグイ行ったら好かれちゃった話
佐波彗
プロローグ
ワンルームアパートの一室の台所で、食器を洗って片付けをしていた時だ。
ローテーブルの前でくつろいでいた
「河井くん。あなたは意外と料理の腕前は悪くないのね」
「一人暮らしをしているわけですから、基本的なものは作れますよ」
その日、僕――
アパートがお隣同士ということを知って以降、僕らはよくお互いの行き来するようになった。
クラスではぼっちの僕なので、クラスメイト以上に交流が深い相手かもしれない。
陽香さんは、僕より年上の女の人で、とある出来事をきっかけに深く関わるようになった。
長い黒髪の美人で、スタイルがよく、胸も大きい。
見た目だけで言えば、文句のつけようがない。
そんな陽香さんは社会人だ。
仕事熱心で真面目な人なのだけれど、その熱意が行き過ぎて誤解されてしまっている。
そこで僕は、陽香さんと約束をした。
僕の前にいる時だけは、社会人としての顔を忘れて自然体でいてください、と。
家でも外でも仕事中の顔を保とうとすれば、どこかで無理が生じる。
だから僕は、陽香さんが気軽に過ごすことができる友達のような関係性になろうとした。
陽香さんとのそんな関係を、僕は息抜き友達……「抜きフレ」と呼んでいる。
けれど陽香さんは抜きフレという言葉を嫌がり、僕が口に出すたびに怖い顔をする。
なんでですか? どうして? 別に変な意味じゃないと思うんですけど? と追求した結果、般若の形相で睨まれたので、それ以来しつこく言わないように気をつけている。
洗い物を済ませた僕は、陽香さんのそばへ向かう。
「陽香さん、他に僕にしてほしいことないですか?」
「料理の手間を省いてくれただけでも十分よ」
「遠慮しなくていいんですよ?」
「そうは言ってもね」
「そうですか……まあ、今日は夕食の時に陽香さんに、あーんってしてもらったり、口元のご飯粒をぱくりとやってもらったりしたので、結構自然体で過ごせたから良しとしますか」
「過去を捏造しないでくれる? そんなこと一度もやったことがないわ」
「ごめんなさい」
仕事中の顔で凄んだ時の陽香さんは迫力満点で、自分が悪いと思っていなくてもつい謝ってしまう。
ちなみに、僕が口にしたような事実はない。
僕自身の願望である。
陽香さんのために! と決意した僕だが、陽香さんは誇り高いのでなかなか僕に甘えるようなことはしてくれないのだ。
まあ、それも無理ないことなのかもしれない。
だって陽香さんの仕事は、教師なのだから。
いわば、教師と生徒が放課後に互いの部屋に上がり込んで過ごしているわけで、これが学校関係者に見つかったら大きな問題になってしまう。
そんなリスクがあるからこそ、僕の前で気を許すことも難しいのだろう。
そもそも、クラス担任としての陽香さんの顔は、『女帝』として君臨していて、生徒に圧政を強いている、それはそれは怖い存在として有名なのだ。
僕の料理を褒めてくれて、油断しきった部屋着姿で僕の部屋にいてくれるだけでも奇跡というもの。
それでも、欲張りな僕は、陽香さんが無理をしないで済むような存在になりたかった。
諸事情からクラスでぼっちになってしまった地味な僕が、そんな怖い存在として知られる陽香さんと学校外でこうして過ごせているのか。
それは、僕がまだ、陽香さんを物凄く恐ろしい人だとしか思っていない頃に起きた出来事がきっかけだった――
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