天津エビ炒飯(2)
「はい、万理」
「仕事が済んだらシャワー浴びるから、俺が出てくる頃に消毒済ませて寝室に来い」
「はい、わかりました。では、僕もそれまでは家事技能の向上につとめます」
瞳孔を点滅させながら喋っている。処理速度が速くなっているように見えた。
意味を理解しているのかもしれないし、理解を後回しにして、了承を先にした可能性もある。
ログを確認すれば判ることだが、とりあえず、そのつもりはなかった。
「HGB023」
制御室の椅子にドカリと腰を下ろし、机に肘をついて眉間を揉む。
『はい、樋口博士』
「プロジェクト“H型003”に手ェ入れるぞ」
『はい。プジェクト“H型003”を編集します。ディレクトリアンロック。すべてのファイルとデータを参照、編集いただけます』
「モニター」
『はい。モニターを立ち上げます』
音もなく、身を起こした目の高さに板状のホログラフィが起ち上がる。内容を指示していない、中身はまだ空だ。
「まず前提として、現在までのH型003プロジェクトのコピーを作成。説明すっから実行するなよ」
『わかりました。実行が告げられるまでは、実行の準備と待機をします』
うん、とひとつ頷き。頭の中でうごめく情報をつかまえようと、顎を撫でて考えに集中する。
「コピーしたプロジェクトにつけるタイトルは“バトラープロジェクト”」
『はい』
「プロジェクト“H型003”から性的要素を排除して、商品用の
『わかりました』
どこから手を着けるかは決めている。だが、どのように切り分けていくか。
思考に集中するため、両肘を着き、額を押さえて目を閉じた。
「性器の搭載を禁止」
『はい。性別を想起させる外見を禁止しますか?』
「……いや。性器以外の外見はOK。性機能がNG」
『わかりました』
「目的に関わる項目から“ユーザーの幸福”を示すものを削除。目的の設定は“快適”までに留め、“快感”が絡む場合、慎重に性的要素を回避。トッププライベートを尊重し、相談等があった場合の会話と検索以外を禁止」
『はい。トッププライベートである個人の性に踏み込まないよう、ユーザーの快適と快感を追求する場合に、条件設定を設け禁止ラインを引きます。目的から“ユーザーの幸福の追求”を削除し、日常生活の快適のサポートまでに留め、逸脱を防止します』
「OK」
他にこの項目に関わってきそうなもんあるか、と、顔を上げてHGB023に投げかけ。
これはどうか、これとこれの可能性は、とHGB023が挙げ、モニターに表示されていく項目や説明、あるいは図を確認しながら詰めていく。
もちろん、有意義な検証だったと考えている。
現在ほとんどの機器がそうであるように、市場に出れば、バトラープロジェクトのヒューマノイドは、
頭脳部分はイノヴァティオハウジング社か、もしくは外注のコンピューティング会社の大型コンピュータで一手に預かり、各家庭で稼働するヒューマノイド達は、通信によってそれぞれの仕事をする。
丸ごと個人所有だとしても、買った後は責任持ちませんというわけではないが、頭脳をメーカーで管理している端末の行動となれば、問題が発生した場合に、それが自分との関わりで生じたもので、仕方がないと捉えるユーザーは少ない。
人は、痛みの補償を誰かに託したいと思うものだ。
ならば、損害を込みで商品を出す選択などないのだ。
『プロジェクト“H型003”の修正はどうしますか? あるいはH型003での“バトラープロジェクト”への移行、もしくは停止もできます』
「……」
先に、バトラープロジェクトについて、考え得るだけのシミュレーションをHGB023に命じ。
「――イグニスは元々、俺の私財の範囲でまかなってる私物だ。個人的研究として、このまま続行する」
わかりました、というHGB023の声に、後を任せ。
腕組みして椅子の背もたれに深く身を預け、大きく息をついた。
「万理、準備ができました」
扉の向こうから完璧なタイミングで掛けられた声に、数日前と同じよう、バスタオルを椅子に放り出す。
「ああ。入ってこい」
「はい。入ります」
寝室の扉が開き、記憶が曖昧だが多分、昼間とは違う服を着たイグニスが現れる。
「ベッドの前へ」
「はい」
ベッド前まで移動して、こちらに向き直るイグニスの前に立つ。
「服を脱ぎますか?」
「いや、じっとしてろ」
シャツの合わせに手を掛け、隠しボタンではなくファスナーだと初めて気づいた。
一枚一枚、じっくりと楽しんで剥ぎ取り。
「万理、照明の出力を下げますか?」
奪った服をベッドに放り投げていく。
「いいや。恥ずかしいか?」
「いいえ」
「お前にとって、裸を見られるってどんな気分なんだ?」
室内を暗くしておらず、止める必要のない、水色の点滅を見る。
「万理以外でしたら、特に感想はありません。隠さなければいけないと判断はしますが」
手を伸ばして、腰に触れる。
腰骨の上に滑らかな皮膚をまとう感触は心地良く、じっくりと掌で楽しんで、裏まで撫で。
「俺だとなんか感想があるんだ?」
言い回しに、ちょっと笑ってしまった。
「見たいと求められたのなら、嬉しいです」
ああ、と腹落ちしながら、だが、もっと抉りたいのを隠さず。
「まだ褒めてない」
「はい」
声の色は変わらず、表情もただ穏やかなまま。
腰から手を離し、えら骨の辺りに両手をかけ。首筋から肩へ、腕から脇へ、ウエストからまた腰へと、掌でなぞって下ろし。
「よく出来てる。きれいだ」
「ありがとうございます」
顔を、見て確かめることはしなかった。
背から腰を抱き寄せ、鎖骨に唇を捺せば、頭と肩に腕が絡まってくる。
軽く抱き上げるようにしてベッドに引き倒す。
想像よりは重くなく、少し笑えた。
「イグニス」
撫でるようにして髪を退け、顔を出させる。
「はい、万理」
額からこめかみに、まなじりから頬骨に唇を滑らせ。
可愛い。
俺のものだ、と。
揺るぎない数少ない事実に、心は縋りたがる。
「イグニス、」
目を閉じていると人間と区別のつかない、鎖骨のなめらかな感触に額をつけ。
「はい、万理」
髪に指を通して撫でられ、胸に頬を擦りつける。
「イグニス……」
「はい、万理。――万理」
両手で頭を抱いて髪にくちづけられ、身を起こしてその唇を奪った。
舌を絡め合う間も惜しく、互いに全身をまさぐり合い、濡れた舌と乾いた舌をそこら中に這わせまくる。
かすかに漂う消毒剤の匂いを塗りつぶすよう、耳の下から首筋へ、胸へと舐め回し。
交替のように身体をずらされ、肌に触れるのはぬるい掌や指の感触と、乾いてなめらかな、シルクやベルベットを思わせる柔らかい舌。
熱を帯びた肌は敏感で、触れられるたび息が上がるのに、大人しく組み敷かれている彼はそうではないと知っている。
「はっ、」
ツルリと乳首を舐められて、背が反る。
身が浮いた隙をつくように脇を支えられ、促されて四つん這いにシーツの上を這い上がった。
腹の下に潜ってしまった顔を、背を丸めるようにして探す。
しずくを垂らすという量ではない、ボトルを絞って潤滑ゼリーを口に含むのを目にすれば、ゾワと首の裏が鳥肌立ち。
尻を抱き寄せられ、期待に目を伏せながら、ゼリーの沼にチンコを押し込まされる。
「は、ァ……冷て、」
脈打つのが伝わるほどだった勃起は、その感触に少し縮むが。
「ァ、ああ、ハ……」
動きというよりは振動に近いような細やかさで舌先を使っていじられ、濡れてうごめく口の中に弄ばれて、腰の裏がしびれる。
「は、あァ、……ん、」
抱き寄せるようにして促されれば、それをやめて欲しくなくて、されるがままにイグニスの上から退いてベッドに転がった。
「あっ、ン、はア」
絞り上げてはゆるめて焦らされ、こぼす恍惚の息が、濡れた指で乳首をつままれ乱れる。
「ぁっ」
ひどく慎重に、尻の穴にじっくりと指を挿し込まれ、みっともなく喘ぎながら、けれど腹の内では少し面白がる。
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