第62話 縮圧元次

§  §  §




海波は遊園地跡に来て廃棄された自動車や廃棄されていた粗大ゴミに対して八つ当たりをしていた。

粗大ゴミを本気で殴り、吹き飛ばした後ギフトで粉にまとめて変え、感情の赴くままにあたりを破壊しつくしていた。


ドコン!! ガラガラガラ……


「くそっ! くそっ!!」


(……もうその辺にしておいた方が良いと思うんだけど……)

(もう少し俺が……俺が早く転生していればこんな事には!!)


バリバリバリ……ドガン!!  


海波は怒りに任せて、腹パンの時に使う雷をまとわせた拳で自動車を吹き飛ばしていた。


ドーン!!!


(流石にこんなに音だしたら……山奥でも人来ちゃうよ!)

(ぐっ……)

(ほら、後ろから人が……)


「……大分ストレスが溜まっているようだな……」


(え? この人……)

(この気配は……時空騎士……)


「ディムメス卿か……」

「覚えてくれているとはな……記憶はかなり戻っているようだな」


長髪長身美麗とモデルの様な容姿をした縮圧元次しゅくあつげんじが彼らの後ろから気配も無く近づいてくる。


「……確かに、早とちりをして暴走しがち……と言われていた気がするが……本当にその様だな」

「……何が言いたい?」

「警告に来ただけだ。強い魔力反応があるから様子を見に来れば……仮面もかぶらずに何をやっているのだ……」

「……」


(……あ、完全に忘れてた……)

(ぐ……余計にイライラが……)

(少しは抑えて!!)


「……うるさいな……」

「大分ご機嫌斜めの様だな……美来みくの……ラケシスがらみか?」

「……ああ、そうだ。俺がもう少し早く転生していれば……」


縮圧元次しゅくあつげんじは海波の答えに意外そうな表情をする。


「君たちを守るために彼女は命を捧げたのだ……同時期に転生しては……彼女が浮かばれないだろう」


(……正論だけど……)

(俺は……)

「望んでいなかった……彼女が死に、いなくなる世界なんて……」


「なるほど……だから死に急いだか……」


「貴様……」

「あまり派手に暴れるな……我々は日陰者だ。世にばれたら……」


海波は魔力を込めた拳で縮圧元次しゅくあつげんじに殴りかかる。凄まじい速さだったが、彼は軽々と受け流す。完全に予測していた動きだった。


「……いいだろう。あの時出来なかった決着をつけようではないか」


(抑えて! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!?)

(……そうだったな……まともにやりあう機会は無かったな……)


「望むところだ!」

(ああっ!!! もう! 知らないよっ!)



それから海波と縮圧元次しゅくあつげんじは拳と蹴りの応酬となった。二人ともギフトも武器も使わずに、魔力による身体強化のみでの殴り合いをしていた。


ただ、二人の強力な魔力をまとった殴り合いは、人知を超えた戦いとなり、手足が相手に当たれば爆音が発生し、組んで投げ飛ばせば周囲の廃屋の壁をぶち抜いたり、外れた蹴りは地面を割ったりしていた。


(やはり強い!!)

(でもギフト無しなら……いけそうだね! って、なんで使ってこないんだろ? 魔法も?)

(ふんっ! 今頃騎士らしく正々堂々かっ!)


時間が経過するにつれ、海波の一方的な展開となっていた。

縮圧元次しゅくあつげんじは驚きの表情をしながら、海波の色々な流派から派生する多彩な攻撃をしのぐだけになっていた。


縮圧元次しゅくあつげんじの動きの悪くなってきたところに、止めと言わんばかりの腹パンを両手でガードするが、魔力が尽きかけていたので易々とガードを貫通し、腹に直撃を受けてよろよろとした後、腹を抑えながら地面にあおむけに倒れてしまう。


激しすぎる試合で、お互い服はボロボロになっていたが、多少の傷を負った海波に対し、縮圧元次しゅくあつげんじの顔が膨れ、至る所にあざが出来ていて見る影もなかった。

あまりの一撃の強さに上手に息が出来ていない様だった。


「ごほっ……ごほっ……」


海波は相手の限界を悟り戦いの構えを解き、その場を去ろうとしていた。


「……ラケシスに治してもらうんだな……」

「……信じられない強さだな……あの時は、ここまでの差は……なかったと思うのだが……」


海波は一番注意すべきギフト「次元圧縮」を使わずに殴りに来た縮圧元次しゅくあつげんじの発言に呆れていた。


「ギフトも使わずに何を言っているんだ……」

「君も使わなかっただろう? だから私も使わなかった……」


(俺のギフトと違い、格闘の時も有効だろうに……)

(いきなり空間がグシャッてなるやつだよね……躱せないよね……)

(ああ、あれは非常に厄介だ……使ってこないと分かれば後は簡単だった……そうか……)


「罪滅ぼしのつもりか?」

「……何のことだ?」


「ラケシスと……美来みくと一緒に……結婚するんだろう?」


縮圧元次しゅくあつげんじは暫く考えた後納得する。なぜ海波の怒りの沸点が低く、かなり本気で殴ってきたかを理解した。


「……ああ、そうか。君は本当に勘違いして暴走するな」

「……何を言っている?」


美来みくの相手は私ではない」

「な?」

(え?)


縮圧元次しゅくあつげんじはひどい痛みで体を動かす事が出来なかったので目だけで海波を追う。


「何を驚いているのだか……君は前世で……自分を殺した相手と付き合おうとか思ったりするのか?」


「なに?」

(え? どういうこと?)


「はははっ! ごふっ……彼女の本気で殺しに来る目……最後に微笑みながら私を拘束し海へと……ふぅ……思い出しただけで寒気が走るな……私はおかげで……現世で女性恐怖症になったよ……」


(物凄くモテそうなのに……)

(……たしか前世でも女泣かせと有名な御仁だったな……ハニートラップを仕掛けようとしたくらいだ)


「そんな目で見るな……前世で女遊びが過ぎた罰を受けていると思っているよ……」


ウー……ピーポーピーポー


遠くの方からサイレンを鳴らした緊急車両の音が近づいてきていた。


(……流石に騒ぎを大きくしすぎたか)

(ディムメスさん動けないんじゃ……)

(仕方がが無い……)


海波は縮圧元次しゅくあつげんじに近づき、荷物のように肩に抱える。


「……すまないな……しばらく動けそうにない」

「気にするな」

「ぐっ……もう少し優しくしてくれると嬉しいのだが……」


海波は体中に余力のある魔力を込めて高速でその場を離脱していった。

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