第8話

 パパ活の話を聞いてからというもの、自分はそういう類の人間ではないと思うがどうなのだろうと不安になり、気づいたらネットで調べていた。

 美沙との歳の差は親子ほど離れているわけではない。パパ活という括りには入らないはずだ。

 琴音と迅が就寝した後にリビングで一人、携帯と向き合う。

 パパ活とは、若い女性がパパと呼ばれるような年齢の男性と食事やデートをすることで金銭を得ること。

 援助交際とは違うのか、と思いきや性行為をすることもあるようだ。どこが違うのかと深く掘り下げていくと、パパ活は食事やデートを目的としている。女性によっては性行為をすることで金額を高く設定しているらしい。援助交際は性行為を目的としているから、その点が違う。

 なるほど、ではパパ活の方が清らかということか。

 金額はピンキリで、記事によって違う。五千円、二万円、五万円、十万円。男性側の経済力や女性側の提示額が一定ではないためだ。

 念のため、起きて来た琴音に見られないよう、ソファに仰向けになる。

 画面に視線を戻し、自分ならばいくら出せるかを考えてみる。女性の年齢や教養によるが、多くて一万までなら出せる。若さだけが取り柄の馬鹿であるなら払いたくないが、それなりに教養があり、楽しませてくれるのなら五千円から一万円くらいが妥当だ。

 では、そのパパ活女子とどうやって出会うのか。読み進めていくと、どうやら専用のサイトがあるようだった。又はSNSでパパを求めている女子を探し、メッセージを送る。

 専用サイトの方が信用はあるが、この女性たち、税金の支払いは大丈夫なのだろうか。パパ活で得た金は収入になるだろうから、一定の金額を超えたら申告しなければならないと思うが、絶対にしていないだろうな。

 専用サイトに入り、どんなものか見ようとしたが、会員登録をしなければ先へ進めない。パパ活をしたいわけではないが、どうしても気になる。パパ活はしない、するつもりはない、そう言い訳して会員登録のボタンを押した。

 個人情報の入力には気が引けたが、さすがに流出することはないだろう。躊躇いながらも免許証の写真を撮り、運営に送る。本人確認ができたら始めることができるようで、今すぐにはできなかった。

 拍子抜けし、取り敢えずサイトの使い方を調べる。


「ふうん」


 智之から声をかけなければパパ活はできないと思っていたのだが、どうやら女性側からもアクションがあるらしい。智之のプロフィールを見て、この人ならいいだろうと思ったら女性側からいいねが送られてくることもある。最終的に二人がいいねを送り合えばメッセージのやり取りができるようだ。

 ただデートをするだけで金を払わなければならないのだから、教養と容姿を兼ね備えた女性がいいに決まっている。美沙が二十六歳であるので、美沙よりも年下がいい。十八歳以上二十六歳未満。性行為を含むと金額が高くなるとネットに書かれていたので、性行為抜きがいい。

 明日になれば本人確認が終わっているだろうし、五千円から一万円くらいで女性を探してみよう。

 財布の中身が寂しくなるかもしれないが、大事な勉強代だ。

 パパ活をしない、という選択肢がこの時智之の中にはなかった。

 気になっているだけ、と言い訳を自分にしながらこの日は就寝した。


 翌日、いつものように無駄な残業をしていると部下が缶コーヒーをデスクに置いてくれた。


「課長、いつも残業してますけど、そんなに仕事があるんですか?」


 今年の新入社員だ。名前は山崎という。

 大学を卒業したばかりの山崎は幼さを残し丸い顔立ちをしている。きっと結婚すればこの仕事を辞めるだろう。長く働くことに期待をしていないが、新人には嫌われたくないという思いがある。


「そんなに大した仕事ってわけではないけど、気になるんでね」

「手伝える仕事があれば手伝います」


 新人故の気遣いが眩しい。

 まだ入社して半年も経っていない。君が手伝えるような仕事はない、とはっきり言う必要はないので「大丈夫だ、ありがとう」と言って会話を終わらせた。

 必死で残業しているように見えただろうか。もう少し、ゆっくりしているところを見せた方がいいかもしれない。残って仕事をしている奴は仕事ができない奴、といつしか他部署の役職者が大声で話していた。

 新人にそんなことを思われたくはないので、必死に終わらせようとしているわけではないぞ、家に帰りたくないだけだぞ、というアピールすべく、背もたれに体重をかけてパソコンから目を離す。伸びをしたり、肩を叩いたり、携帯をいじったり。

 そんな行動をとっていると、新人には休憩中に見えたようで、笑みを浮かべて近づいて来た。

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