第参拾玖話:雪女と杉村家の令嬢(杉村真紀視点)

ワンボックスカーで教頭先生と例の中国人女性が取引を行うであろう現場に向かっている最中、暇つぶしにと父さんがつけてくれたテレビには、人相が悪そうな人たちがどこかの事務所らしき場所から警察に一斉検挙されている映像だった。


「お父さん、これってもしかして。」


「ああ、虎之助の仲間だろうな。字幕にも布田月組って出てるし。」


この映像をみたら和瑠男が騒ぎ出すかもだけど、彼はいま警護車の中で二人の警察官に挟まれているだろう。しばらくあそこで反省してもらいたいものだわ。


「すごい、もう拠点を抑えたのね。さすがお父さん!」


「いやなに、そこにいる恐山由紀子が情報提供をしてくれたんだ。」


同乗している雪女の方を見ると勝ち誇ったような顔をしている。


「あなたって確か布田月組の仲間だったわよね?どうして・・・。」


「彼らを仲間だと思ったことは一度もないわ。私はただ、幼馴染の英武君が心配であの組織に入っただけ。」


英武と呼ばれたそのおじさんは恥ずかしそうにうつむいた。


「幼馴染ねー。」


「あなたにもいるでしょ?生涯をともにしたいと思っている男が。」


「んなっ!!」


体がだんだん熱くなるのを感じた。


「あらー、図星かしら?」


「そ、そんなことないわ。多分・・・。」


「まー、無理もないわね。本来熟練冒険者でも入手が非常に困難な神秘薬を幼馴染が非常に強力な呪い(笑)に掛かっているからって、魑魅魍魎がはびこる迷宮に入って本当に取ってくる。ホレない理由なんてこれっぽっちもないもんね。」


「だっ!誰から聞いたのよそんなこと!?」


雪女は口角を上げたまま、あざとく口に人差し指に手を当てた。


「んー、お互いに有益な情報を交換してくれた人?」


「お父様~~?」


「いっ、いやー・・・ハハハ。情報提供の見返りとしては安いだろうと思ってな~。」


「うぐぐっ!・・・ていうか恐山さんって言ったかしら?幼馴染が心配ってだけであんな極悪非道な組織に入るなんて常識的に考えてどうなんですの!」


「もちろん、それだけじゃないわ。単刀直入に言うと、私が本当に所属している秘密結社『ズールード』のメンバーの一人にとって、彼らはあのお方の名を汚す邪魔な存在だからよ。」


「ひ、秘密結社『ズールード』。構成員の数、仕事内容、拠点が一切謎に包まれている都市伝説上の組織。まさか実在していたなんて・・・。」


「私は布田月虎之介の抹殺命令を遂行するために此処まで来たの。誰にも邪魔はさせないわ。」


そう言った彼女の眼は雪女の名に恥じないほど凍てついていて思わず身震いをしてしまった。


それに、まさか彼女の口からあの組織の名が出るとは思わなかったわ。


車内の空気に緊張が走った。


「・・・殺害方法が死刑でも構わないなら協力しよう。ダメならどんな手を使ってでもこの場でお前を殺す。」


お父様、顔が怖いですわ!


「あらそう?あなた方が彼を殺すんだったら私は何もしないわ。ちなみに死刑方法は?死刑は確定するんでしょうね。」


それでも彼女は動じずキョトンとしていた。そこはさすが妖怪と言ったところね。


「外患誘致罪が適用されるからまず死刑は免れない。そして死刑内容は閲覧希望者同伴での銃殺刑だ。この場合は楽には殺さない。」


「まあ!それを聞いて安心しましたわ。その時はぜひわたくしを通してズールード社を呼んでくださいな。」


「で、その布田月家を邪魔に思っている奴は誰なんだ?」


「あなたたちには教える必要はあるわね。秘密結社『ズールード』の副社長で布田月家を一番邪魔だと思っている男、表向きでは宗端學園の学園長として君臨している大魔法使い、その名は・・・古田凡十郎よ。」

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