【完結保証】宇宙で旗本やっている〜俺はあの子と結婚したいのに〜
行徳のり君
第1話 無茶振り
行き過ぎたサスティナブルが人類を地球から叩き出して数世紀。
人類は太陽系からの脱出に成功した。
そうして火星で農園を作り、金星を洗濯しタオルをかけた。
水星にだって日傘を差すことに成功し、木星まで手が届く。
―――人類の黄金期。
遂に人は他の星腕にすら手を伸ばした。
文字通りの新世界を広げつつ、人類は更なる繁栄を勝ち取っていた。
にも拘わらず、だ。
人類発祥の太陽系圏の政治形態は封建制度に似たものへと退化していた。
――――緑青社 自費出版作品:太陽幕府の穿った歴史 より抜粋
■■■
ある一室である。三人の男が詰めていた。
役人風の成人、正装した成人、正装の成人に似た年若い少年。
その年若い少年が、青い顔で脂汗を流していた。
彼の年齢は15を超えたくらいであろう。
金星の主要人種である黄色人種の傾向が色濃い。
そうした形質を受け継ぎつつも、何世紀にも渡る混血の結果だろうか?
骨太で大柄な少年であった。
やや明るい黒褐色の髪は縮毛矯正され短く切りそろえられていた。
礼服の代わりだろう。
幼年学校のカーキ色の詰襟制服を着用している。
ただ急いで新品を仕立てたのか、サイズが合っていなかった。
丈の合わない姿も併せて、似合っているとはとても言えない有様である。
彼は周囲を見渡す。
極度の緊張と場所柄からか、目を動かすのみであるが。
彼が正装し訪れた場所こそ金星の首府かつその中枢。
端白大陸の中京城であった。
威信と威厳をかけて築かれた城内。
そこは見事な和洋折衷の装飾があしらわれていた。
それがまた歴史と権威と豪華さで、少年の精神に正しく圧迫と威圧をかける。
恐らく単なる会議室か控室であろう。
それでも少年の感覚からして信じられないほど煌びやかだ。
このように内装に贅を凝らしているのだ。
座らされた椅子の座り心地も、当然良いのだろう。
が、少年には良し悪しすら判断する余裕がなかった。
……余談だが、装飾の系統すら彼は記憶できていなかった。
もし仮に、一市民が表彰され地方自治体の役所に招かれる。
そんな、よくある単純な話であれば彼はここまで緊張しなかっただろう。
だが少年は表彰された訳ではない。
彼の緊張を他所に役人風の男が言い切った。
「………以上をもって、
役人風の男は、やはり中京城に詰める役人であった。
金星の幕政を担う、端白星探題である御三家、辰星金元家。
その家に連なる役方にして、名を
見るからに能吏と言う彼は、黒髪黒目の冷たい表情を少しも動かさない。
そして林は二人の反応を一切気にせず言い切った。
「幕府の仕置きである。旗本十六万機の一家として励むように」
その後、林は柳井少年が中京城へ登城する理由と、以後の義務を伝える。
会話を聞くにつれ、残る一人も表情を険しくした。
柳井少年の保護者の父親である。
息子によく似た、スーツ姿が浮く
柳井親子は無言で受け入れるしかなかった。
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