妻が自称ユーチューバーになった話
@kkkkk_
第1話 妻がユーチューバーになると言い出したら、どうするのが正解か?
「今日はどんな感じ?」妻は私に尋ねた。
私はスマホからYouTube Studioを確認する。
「雨は伸びてるけど、他のはそんなにやなー」と私は妻に返す。
何の話かというと、YouTubeの再生回数だ。
***
この前、妻が「ユーチューバーしてみようか、思うんやけど。どう思う?」と言い出した。
私の「どんな系?」という質問に対して、妻は「顔出ししなくて、簡単に作れるやつ」と言う。そんなものがあれば私も作ってみたい。
ちなみに、今の会話は「ユーチューバーするからアイデアを出せ!」という意味だ。
女性の「どう思う?」は私の意見を聞いていない。妻の結論は既に決まっていて、私は同意することだけを求められている。
私は妻ができそうな顔出しなしのYouTubeのコンテンツを考える。ピアノの演奏動画はよくポストされている。でも、妻のピアノ演奏のレベルは普通だ。広く世間に聞いていただくのは申し訳ない。
妻の特技を私は考えた。書道はどこかの流派(聞いたことあるけど、覚えていない)で習っていたと聞いたことがある。文字を書くところだけビデオに撮れば顔出ししなくていい。私は書道を妻に勧めることにした。
私が「書道の動画は?」と確認したら、妻は「それでいいこか」と承諾した。
早速ダイニングテーブルに半紙を広げ、墨汁を含ませた筆を構える妻。その横でスマホを構える私。
「何がいい?」と妻が私に尋ねる。
考えてなかったんかい……
しかたないから、私は「牛(ぎゅう)」と答える。
「なんで?」
「なんでもええやん」
“ピロン”
ビデオ録画開始の音を合図に、妻が牛を書き始めた。
“ピロン”
これで1つ目が終了した。1文字書くのに掛る時間は約30秒。
「次は?」
「皿(さら)」
「なんで?」
「ええやん、皿で。はい、いくで!」
こんな感じで妻は10文字を書き上げた。私は録画したデータを妻に見せる。
「手、若く見える?」
妻の興味は字が上手くかけたかどうかではない。動画に映る自分の手が若く見えるか否か。そこだけだ。
私は撮り直しを要求されることを避けるため、こう答える。
「大丈夫やって! 若く見える」
「まあ、これでええか」
妻は納得したようだ。続いて妻は言った。
「じゃあ、YouTubeにアップしといて」
「え?」
「「え?」ってなに? 作業分担やん。私が書くから、アンタはアップしたらいいやん」
どうやら、私はユーチューバー(妻)をサポートする役目を負っているらしい。
私は妻をサポートする担当者として考える。
スマホの動画をそのままYouTubeにアップロードしてはダメだろう。
まず、動画の説明(字幕)が必要だ。音楽も入れた方がいい。
次に、この動画(書道)を子供の学習に利用する日本人の親がいるだろうか? 日本人が見るとは思えない。外国人向けにするにはタイトル、字幕、概要を英語にしないといけない。
私は問題にぶち当たる。
―― 一連の作業手順を伝えたとして、妻はできるだろうか?
私はどれくらいの作業なのかを調べるために自分でやってみた。
書道の動画をYouTubeで配信する手順と作業時間はこんな感じだ。
・スマホの動画をラップトップに取り込む:30秒
・動画編集ソフトで動画を開く:30秒
・動画に字幕(英語)を追加する:5分
・動画に音楽を入れる:1分
・作成したファイルをエクスポートする:1分
・YouTubeにファイルをアップロードする:1分
・タイトル、説明(英語)で作って配信する:3分
トータル12分の作業。妻がやると2~3倍は掛るかもしれない。教えるのも時間が掛かるし、私が編集した方がいいのだろう。
片や妻は文字を書く30秒だけ。
――これ、不公平じゃない?
確かに、妻の書道スキルがないと動画は作れない。でも、私の作業時間は妻の24倍。
状況を勘案すれば、私がユーチューバー?と思う。
私のアカウントにアップロードしているわけだし……
こうして、妻は面倒な編集作業を全て私に丸投げし、ユーチューバーとしてデビューした。
私はそれから数日間で動画を10個くらいアップロードした。
そして、その後も妻は毎日1~2個のアップロードをノルマとして私に課してくる。
私としては編集時間が少なくてすむ簡単な漢字を書いてほしいから「数字(一~十)とかどう?」と提案するのだが、割と画数の多い漢字しか書かない。
きっとプライドが許さないのだ。実に、つまらないプライドだ……
「今日はどんな感じ?」
妻は毎日私に動画再生回数を聞いてくる。自分の作品との自負があるからだ。
そのうち、「動画再生回数を伸ばしたいんやけど」と言ってきそうな気がする。
これは我が家だけではなく、どの家庭にでも生じる問題だと思う。
【妻がユーチューバーになると言い出したら、どうするのが正解か?】
あなたの妻に言われる前に、どうするかをシミュレーションしておいた方がいいかもしれません。
<続く>
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