魔女の嫁入り

ふぁる

プロローグ

 赤みがかった栗色の髪が太陽の光を浴びて透き通る様に美しく、穏やかな笑みをその顔に浮かべ、少年は泣きじゃくるあたしの前でそっと膝をついた。


「ご、ごめんなさい……」


すっかり泣き癖がつき、しゃくりあげながらも謝ったあたしに、彼は小首を傾げながら「何がですか?」と問いかけた。

 まだ十歳にもなっていなそうな年齢の割に嫌に大人びた声色と話し方で、あたしは大人相手に話している様な気分になり、すっかりと怯え切った。


――大人は、皆あたしをぶつから……。


「だって、な……泣いちゃったから」


怯えているせいで声が震えている。そんなみっともないあたしに、彼は動じた様子も無く問いかけた。


「泣くと、謝らなければならないのですか?」

「泣く子は悪い子だもの……」


 彼は少し考えた後再び小首を傾げた。


「では、私は一生誰かに謝る必要は無さそうですね」

「どうして?」


あたしの問いかけに、彼は笑顔のまま表情を変える事なく頷いて、自らの頬に手を当てた。


「私のは、最早外す事のできない仮面です」

「あたしも、それ欲しいっ!!」


 あまりに必死になって懇願したせいで、あたしの声は裏返った。彼は少し考えた後、小さな包みを取り出した。中を開き、キラキラと輝く色とりどりの宝石の様な物をあたしに見せた。


「口を開いてください」


 言われるがままに開いたあたしの口に、彼はポンとその宝石を放り込んだ。甘さがふわりと口の中に広がり、舌の上で転がすと、カラコロと歯に当たって良い音が鳴った。


「ほら、一時的ですが、貴方は今笑顔の仮面を手に入れました」


——これは忘れてしまう程に遠く、優しく、悲しいあたしの記憶だ……。

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