その九

「まだ続いてるんだ?」

 

 飲み干したジョッキを店員に渡して、おかわりを注文しながら葉月は少し驚いたように言った。

 

「うん。でももうすぐ終わりそう。年内か年明けかな」

 

 今日は僕も葉月も就職が決まって落ち着いたので、お祝いということでモツ鍋屋に来ていた。旨味をたっぷりと吸い込んでくたりとしたキャベツを口に放り込むと、身体の中からぽかぽかと暖かくなる。寒くなると鍋が美味しい。

 

 対局について葉月が驚くのも無理はないと思う。僕が打ち継いでから一年を越えて続く対局だ。祖父たちが打ち始めた頃から考えると、もうすぐ二年に届きそうだ。それだけの間、一局の対局が続いているというのはとても特殊な状況だ。

 

「結局、彼女は高校生?」

 

 葉月は僕の表情を伺いながら聞いてくる。

 

「さあ、どっちなんだろう? 僕もわざわざ聞いてないし、あっちもそこまでプライベートな話題には触れてこないから。食べ物とかテレビや映画の話とか。何気ない雑談に近いかな」

 

 はがきのやりとりはちょっとした話題だけだったので、あまり突っ込んだことはお互い書いていない。封書だと少し違うのかもしれないけれど。例えば、僕は最近就職が決まったけれども、そういったことも美咲さんには特に伝えていなかった。


「会いたいとか、ないの?」


 葉月の口調から、これが聞きたかったんだなと思った。

 

「うーん、会いたいというか、碁は打ってみたいかな。多分同じくらいの強さなんだよね」

「……そんなものなんだ」

「大丈夫。僕は葉月一筋だから」

 

 にこりと笑うと、テーブルの下で葉月の足がひゅんと飛んできた。いてて。

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