その七

 どうやら美咲さんは僕よりは歳が下のように感じる。


 女の子らしいといえばよいのか、少し可愛い文字で色ペンも使われて。なんというか若々しくて気恥ずかしい気持ちがした。中学生か高校生か。その頃のクラスの女の子たちが、何やら手紙などを回していた記憶があるけれどこんな感じだったんだろうか?

 

 対局者が女の子に変わったことを葉月さんに伝えると少しだけ機嫌が悪くなってちょっと嬉しかった。まぁ、会いたいとかそういうのではないので勘弁していただこう。

 

 対局は大分進んで今は中盤戦だ。形勢は多分僕が悪い。

 

「多分?」

「ざっくりしか計算してないけど、なんとなく」

「計算なんてするんだ」

 

 葉月さんは全く囲碁を知らない人なので話を聞くのは新鮮で楽しいらしい。

 

「囲碁はどっちが陣地を多く取るかのゲームだけど、陣地は飛び飛びにできるんだよね。ここに11、こっちに13って」

「うわ、めんどくさ〜」

 

 葉月さんは計算って苦手なのよねと、ほんとに嫌そうな顔をしていて面白かった。

 

「僕もあまり得意じゃないよ。だからざっくり計算。囲碁のAIとかで調べたら形勢はわかるんだけど、それは味気なくて」

「なんかズルしてるみたいな?」

「そう。そんな感じかな」

 

 今はコンピュータに判断させればどちらが有利か判る時代だ。囲碁の世界は、今はプロ棋士よりもAIのほうが強い。TVの囲碁放送でもAIによるグラフや候補手が視聴者には表示されている。それは言ってみれば「解答」だ。

 

 郵便碁は普通より着手に時間が使えるので定石書を見たり、碁盤で検討するのもありらしい。

 覚えていることを表現するのではなく、自分の考えていることを表現するのだ。

 

 人に聞いてしまったりAIで答えを求めてしまうようなら、こんな手間を掛けて碁を打つ必要もない。自分の持っている知識を深めながら一手一手に向き合う。それこそが楽しみなのだ。


 候補手から選びたい訳では無い。

 自分で候補手を見つけ、そこから選びたいのだ。

 

「まあ、今は私を見なさいな」


 葉月さんを見ると、少し顔を赤らめていた。自分で言って照れたみたいで僕は笑った。

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