第8話 佐々木さんはHですね~

 ランチタイムの忙しさを乗り越えた俺と東雲さん。後は彼女のワンオペで何とかなるだろう。施錠は桜さんが店に来てやってくれるから問題ない。


「お疲れ様でした~!!」


帰る準備を済ませて休憩室を出た途端、東雲さんが元気に挨拶してくれた。


「東雲さんこそお疲れ。まだまだ余裕そうだな」


「はい! あたしの高校はバイト禁止だったので、この喫茶店が初バイトなんですよ! 働くのって楽しいです!」


良い笑顔をしているな。彼女は1歳下だから、情けないところは見せられないぞ。


「そうか、でも無理はしないでくれよ。桜さんに続いて東雲さんにも何かあったらヤバいからさ…」


後藤君に、俺と東雲さんレベルの内容を求めるのは酷だし…。


「わかってますよ。心配しないで下さい」


念を押したし、これで大丈夫だろう。


「それじゃ、後は頼んだよ」


「はい!」


俺はキッチンにいる東雲さんに見守られる形で店を出た。



 店を出た後は大学の講義を受ける俺。今の講義はぶっちゃけつまらないんだよな~。単位のためとはいえ、辛いものがある。


退屈な講義を受けるんだったら、バイトしてたほうが良い。やはり金は原動力になる…。



 頑張ってこの日の講義を受け終わった俺は、自室に戻ってきた。疲れている桜さんを癒す手段として『温泉』と『マッサージ』が候補になった。


多くの女性が温泉好きだろうし、先に温泉を調べるか。俺は自宅を中心に〇ーグルマップで検索する。この辺は温泉地じゃないし、見つかる訳ないよな…。


と思ったら、電車で数駅のところにある“銭湯『千夏と千春』”というところが温泉を提供してるようだ。ここなら桜さんも気軽に行けそうだぞ。


温泉はこれで良いや、次はマッサージ店だ。同じように調べたが、近隣に該当する店はなかった。


マッサージのほうが直接的だから効果が出やすいと思ったが、ないものは仕方がない。桜さんに勧められるのは温泉だけだな。



 夕食と風呂を済ませた、午後8時ちょい過ぎ。自室でやってるゲームが佳境を迎えている時に携帯が鳴る。


相手は東雲さんか。俺はゲームを中断して出る事にした。


「もしもし? 東雲さん、どうかした?」


「佐々木さん、今時間大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


「桜さんの疲れを取る方法、調べてもらえました?」


「その事か、ちゃんと調べたよ。温泉は意外に近場にあるんだけど、マッサージ店はなかったね。他は思い付かなかったよ」


「そうなんですか。温泉地じゃないところの温泉って結構高いイメージなんですけど、そこはいくらで利用できるんです?」


「あ、値段は確認してない。うっかりしてた…」

近場にあっても、高ければ意味がない。


「佐々木さんのせいじゃないですが、やっぱりあたしがマッサージを覚えたほうが経済的ですかね~? お母さんにやってあげたりできますので」


「俺も東雲さんと同じ感じにしようかな? ちょっとした親孝行になりそうだし」


「…佐々木さんのH♡」


「えっ?」

俺、変な事言ったか?


「お母さんはともかく、佐々木さんが桜さんにマッサージするつもりなんですよね? それはちょっと…」


「やっぱり厳しい?」


「あたしは厳しいと思います。と思われても文句言えませんよ?」


実際下心はあるが、桜さんに嫌悪感を抱かれるのはマズイ。本人に言う前に指摘されて良かったが…。


「東雲さん、あのさぁ…」


「安心して下さい。今のは2人だけの秘密にしますから」


「本当にありがとう」

俺は良い後輩を持ったな。


「あたしが気にし過ぎかもしれないので、桜さんにさりげなく訊くのもアリかもしれませんね」


桜さんが許可してくれたら、腕とか脚あたりをマッサージしてあげられそうだ。距離が縮まれば、もイケるかも?



 「それじゃ、用件は済んだので失礼しますね。…お休みなさい」


「お休み」


俺は東雲さんとの電話を切った。


俺が桜さんにマッサージ…。想像するだけでテンションが上がるぞ!


…って、夜にテンションを上げてどうするんだ! 寝れなくなるだけだろ!


寝るその時まで、エロくないマッサージの妄想をしておくか。で、はこの間のように夢で見れる事に期待しよう。


そうと決まったら、早めに就寝するか。夢を1秒でも長く見るために。

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