第5話 欲は増していく…
閉店時間を迎えたので、俺と桜さんは閉店作業に入る。作業が終わって帰る時に、彼女にリクエストされた写真を見せるつもりだ。
桜さんはまだ準備してないと思うけど、同時に見せる必要はない。彼女の方が忙しいし“若い頃の写真を観たい”というお願いは後回しにされるだろう。
閉店作業を終え、俺と桜さんは荷物を持って更衣室を出る。普段はこのまま帰るだけだが…。
「桜さん。あの時言われた写真持ってきましたよ」
「早いわね。わたしも持ってるわ」
「えっ? もう準備してくれたんですか?」
「当たり前じゃない。健一君のお願いだもの」
…変な意味はないはずだ。勘違いするな俺!
互いにカバンを休憩室にある長椅子に置いた後、写真を取り出す事にした。
「ねぇ。せっかくだから同時に見せない?」
そう言う桜さんは、いつもより子供っぽく見える。ワクワクというか、無邪気な様子を隠せないようだ。
「良いですよ」
…互いに準備を終え、写真を裏向きに持って向き合う。
「良い? せーの…」
桜さんの一声で、俺達は同時に表向きにする。
俺が選んだのは、幼稚園の入園式の時だ。正門にある『入園式』の看板そばに、俺と母さんが並んで映っている。撮ったのはもちろん父さんだ。
桜さんが幼稚園~小学校低学年をリクエストしたからな。応えるのは当然だろう。
一方の桜さんは…、ウエディングドレス姿だ。彼女1人だけが映ってるので、邪魔なものが一切ない。
それにしても何て美しさだ。写真の桜さんと今の桜さん、どっちも良い! 歳を良い意味で重ねた感じが伝わってくる。彼女を選んだ晴彦さんは見る目があるな~。
「女が一番輝くのは、ウエディングドレスを着てる時だからね。見栄張って持ってきちゃった」
「……」
「ちょっと健一君。何か言ってよ~」
明らかに恥ずかしそうな桜さん。なら言わなきゃ良いのに…。
「桜さん、本当に輝いてます。見惚れて言葉が出ません」
「もう! おばさんを褒めても何も出ないわよ」
何て言う割には、すごく嬉しそうだ。褒められて気分が良いようだ。
「幼稚園の時の健一君、可愛い~♡」
今度は俺の写真に話題が移る。
「幼稚園の時って、誰でも可愛いのでは?」
反抗期は早すぎるからな。
「健一君は特に可愛いの。目の感じとか微笑んでる時は、今も変わらないわね~」
そうなんだろうか? 自分ではよくわからないぞ…。
桜さんが持ってきてくれた写真により、昔の彼女も良いのが分かった。だが、正直なところ物足りない。
というのも、ウエディングドレスは露出しないからだ。水着姿の写真があれば良いんだが…。せめて、もっと露出してる写真が見たいぞ!
それをどうやって桜さんに言えば良いのか? 俺なりに考えるとしよう…。
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