第72話

朝、村を出発し半日歩いてウォービーズに出会ったところまで戻る。

戦闘でひらけてしまった場所で簡単に昼ごはんを食べ、それからもともと歩いていたルートを歩く。

そして夜が来て、朝が来て、ただひたすら歩いて、また夜になる。

たった1週間半だったけど、村での定住生活がちょっぴり恋しくなった。

4日ほど歩いていると街が見えてきた。

ドレイト領の領都と同じくらいだから、都会ってわけではない。

けれどもここ数ヶ月ずっと山の中だから、私の目には大都会だ。

たどり着いたのは国境の街ビジャソン。

街に入るとまず冒険者ギルドを探す。

魔石とヤローナ草を売るためだ。

魔物を倒すと時々キラキラ光った宝石のような石が落ちていることがある。

その石は魔力を高濃度で含有しており、色々な魔導具に使われている。

私たちも旅をする過程で魔物を倒し、この数ヶ月で23個貯まっていた。

まぁ…そのうち17個はウォービーズの時のだけど。

あの時はアイリーンのことでいっぱいで魔石のことまで頭が回らなかったが、ロバを連れてきてくれた2人が全部集めて持ってきてくれたのだ。

村でよくしてもらったので、村にも置いていこうとしたけど断られ、結局3人で山分けすることになった。

というわけで、ドレスや宝石を売る場所は無さそうなビジャソンで手持ちのお金が一切ないアイリーンは、魔石を全て売り、必要物資を揃える予定だ。

ギルドは門を入ってすぐのところにあった。

そういえばドレイト領も門の近くにあったな…

「こんにちは。御用はなんですか?」

「魔石とヤローナ草の買取をお願い。」

「承知しました!

わぁ!結構大量ですね〜。

ちょっと待って下さい。

多いので奥の部屋でやりましょうか。」

「えっとー。

まずヤローナ草ですが…状態がいいですね!

これは1株3ペルですね。

1.2.3.…13.14.15…28.29.30…36株ですので、全部で108ペルになります。

いかがでしょう?」

「それでいいわ〜。

それ3等分にして、私の分はカードにつけておいてね♪

アイリーンはこの後買い物行くし、現金でもらうでいい?

テルーはどうする?

まだ手持ちの現金あるでしょ?素材のまま持ってるほうがいいかしら?

ほら、ポーションの素材で使うこともあるし」

「確かにそうですね。

これでポーション作りの練習するのもいいかもしれません。

すみません。私の分は買取キャンセルで。」

「構いませんよ!査定だけ受ける方も多いですから!

さて、魔石ですが…これはまた多い。

気になるのがこの黄色の魔石なのですが、17個も色形、大きさが似通ってるのですが…何か群れにでも会いました?」

「そうなのよ〜。

ウォービーズの群れにあたっちゃって、結構大変だったの。

近くの村の人曰くいつもより多かったみたいよ。」

「ウォービーズですか!

大丈夫でした?ちなみに数をお聞きしても?」

「100くらいかしら」

「100!通常の3倍…いや4倍じゃないですか!

よくご無事で。

それならこの魔石の数も納得です!

それにしてもウォービーズの数が多すぎますね…

報告ありがとうございます。

ギルドでも調べてみます。

買取価格ですが、このウォービーズの魔石は1つ10ペル。

残りの6個のうち、これとこれは1つ15ペル。

こちら4つは1つ6ペルでいかがでしょう?」

「魔石もそれでいいわ!

テルーは魔石のまま持ってる?

割り切れない分は今日のディナー代にしましょうね〜♪」

「はい。私の分は魔石のままにしたいと思います。

えっと、この15ペルの魔石2つとウォービーズの魔石2つ、それから6ペルのも2つ買取キャンセルで、残りの分はカードにつけてください。」

それからイヴ、アイリーン、私のカードにお金を振り込み、ギルドを出る。

初めて残高確認してびっくりした。

そう。いつの間にかいっぱい入っていたのだ。

これは…プリンのお店も靴のお店も多分私がオーナーのままなのでは?

後でお母様に聞いてみよう。

ギルドを出ると、次は宿探しだ。

イヴがギルドで聞いていたところに行ってみる。

清潔感のある小さな宿だった。

冒険者にとっては少し高めの宿らしいけれど、そのかわり荒くれ者もいないし、知らない人と相部屋にもならない。

荷物を置くと、買い出しだ。

明日には国境を越えるから、今のうちに必要なものを買い足さなくては。

というのも…ここは国境の街なんて言われているけれど、実際国境があるのはここから馬車で2時間ほど行った山中だ。

国境を超えた先もしばらく山の中なので、買い物できないのだ。

「テルー!準備いい?もういくわよ!」

まず行った先は服屋だった。

確かに。ずっとイヴの借り物だったもんね。

最低限の服と下着を買って、次は武器屋。

アイリーンはずっと魔法で戦闘していたから武器使わないと思ってた。

武器は全くわからないけど、投げられる小さいナイフをいくつも買ってた。

私は武器は扱えないからうろちょろ珍しそうにみてたんだけど、店の隅で渦高く盛ってある乾燥した白い葉に気がついた。

あれ?これって…

「お嬢ちゃんこれが気になるのかい?

これは乾燥させた白サルヴィアの葉だよ。

野営の時なんかに、木と一緒に燃やすと魔除けになるんだよ。

強い魔物には効かんが、弱い魔物程度なら避けてくれる。

まぁまぁ便利だよ」

やっぱり白サルヴィアだった。

これ欲しいと思ってたんだ!

アイリーンがナイフを買う隣で私も白サルヴィアを買うことにした。

その後雑貨屋にもよって、食材も買い足した。

夕飯は、雑貨屋のお姉さんが美味しいと言っていたお店に来た。

「かんぱーい!」

イヴとアイリーンはお酒、私は葡萄のジュースだ。

お姉さんおすすめのお店は繁盛しているらしく、早めにきたのに席も8割埋まっている。

わいわいがやがや人々が陽気に話している声をバックミュージックに先に出してもらったナッツと飲み物を楽しむ。

「お待たせしました〜。

こちらが鶏のミラネサ、うちの看板メニューよ。

ミラネサは、薄くスライスしたチキンカツだ。

その上にトマトのソースとチーズがかかっている。

あとこれがサラダね。

はい。これオイルと塩ね。

お好みでサラダにかけてね。

きのこのソテーは、6種類のきのこを使ってるの。

ここら辺にしかないきのこもあるらしくって、旅の人はみんな珍しいみたい。

それじゃ、楽しんでね。」

「ありがとう」

料理が来て、改めて乾杯する。

わいわいがやがや

「お店で食べるなんてひっさしぶりね〜」

わいわいがやがや

「んんんー!このキノコソテー美味しい。

テルーこの黒いキノコ明日買いに行きましょうよ」

わいわいがやがや

「お姉ちゃんたち一緒に食べるかいー?」

「ありがとうね〜。でも今日は女子会なのー」

わいわいがやがや

久しぶりだ。

こんな普通の食事。

たくさんの人が行き交う街で、普通にやり取りして、美味しいもの食べて。

かと言って長居すれば、どこかからスキルのことが漏れてしまうかもしれない。

この街に留まるのは1日だけ。

明日の朝一番の馬車で国境に向かう。

もうちょっとこの普通の暮らしをしたい気もする。

人目を避けて山の中を歩かなくてもいい生活。

普通にご飯を食べて、普通に買い物する。

いいな。

もっとここにいたいな…そう思うけれど、ぐっと飲み込む。

大丈夫。

明日からは普通の暮らしだ。

明日帝国に入ったら、もうスキル狩りを恐れる必要はないし、アイリーンも無事国を出れて、私たちは晴れて逃亡生活に終止符を打つ。

やっとだ。

その日はいつもよりたくさん話して、たくさん笑って、楽しくて、嬉しくて希望いっぱいでぐっすり眠った。












◇お知らせ◇

南の月です。

いつもライブラリアンをお読みくださり、ありがとうございます。

新エッセイ『旅と暮らす』を投稿しました。

近況ノートも更新しましたので、詳しくは近況ノートをご確認ください。

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