第60話
また朝になり、ご飯を作り、歩き、ロバに乗り、昼になり、ご飯を作り、歩き、ロバに乗り…夜になった。
今日の成果は、ローリエの葉となんと!なんと!ナランハ!
ナランハとは、簡単に言えばとーっても香り高い黄色いオレンジだ。
ナランハの黄色を見た時、嬉しくて泣きそうだった。
魔法の制御の練習も兼ねて、風魔法で1つずつ収穫した。
結構難しく、何個か落としそうになったところをイヴがキャッチしてくれた。
大量に収穫したので、今日は夕飯も食べたというのにその半量を使ってグツグツとジャムを作っているのである。
ジャムにしておけば、ナランハソースも時短で作れそうだし(多分)何よりポシェットの空間の節約にもなる。
これで明日からも何か見つけたら収穫できるというものだ。
ドロドロとなり始めたジャムをまたかき混ぜながら煮込む。
もう一方の手には本を持ち、『聖女マリアベル』の伝記を読み進める。
一度読んだ内容なのでささーっと、あくまで魔法陣のヒントを見つけるために読む。
ジャムが出来上がる頃には本も読み終わった。
瓶に目一杯ジャムを入れ、逆さにむける。
あぁこの輝かしい色…素敵。
まだ旅に出て数日だけど、甘い物は一切取っていなかった
サリーが作ってくれたプリンもあるけど、数量限定でなくなったらいつ食べられるかわからないものね。
だからこそ拾ったナランハで作ったジャムが光り輝いて見える。
伝記に話を戻そう。
全部目を通したが結界に関して大した知識は得られなかった。
というのも結界と思われるシーンでは必ず「天に祈った」となっているのである。
その祈りの内容が知りたいのに!
唯一それらしき記述があったのが昨日読んだ聖女誕生のシーンで、現代語では『邪なる物、悪き物を祓給へ 清め給へ』と口にしている。
昨日も思ったが、これは癒しの呪文に近い。
マリアベル様が現代語でこう唱えたのか、古代語で唱えたのか…古代語ならば正確に翻訳できているのか…
そこら辺はわからないけれど…これは試すしかない。
「邪なる物、悪き物を祓給へ 清め給へ」
金の光が一瞬舞い散ったような気がした。
輝く魔力が自分の周囲をふよふよ漂っている。
あ、この感覚…何かに似てる…。
あ、そうか。
魔力操作の練習に似ているんだ。
そこで魔力を完全なる球体にするようイメージすると球体になった。
でもこれでは、攻撃されないので何から守られてるのかわからないわね。
魔力を手のひらに集めて外に放出する練習をしたときのように、私はその魔力を掌から横にあるベンチに移す。
すっぽり覆われたところで、その状態を維持しつつ、攻撃をかける。
もちろん大袈裟にならないように威力低めだ。
土の雨を降らせても、火の玉を打っても、高圧の水を出してもベンチにあたる前に何かにぶつかったように跳ね返ったり、逸れたりする。
これは!これこそ!結界では?
そもそも触れられるのだろうか?と恐る恐る触ってみると、手は結界をすり抜け、ベンチに触れられた。
では物理攻撃は効かないのか?と思ったが、近くの木の枝を持って叩こうとすると阻まれた。
念の為素手でも殴ろうとしてみたが、私の手が痛いだけだった。
マリアベル様はその時々の状況を判断して、あらゆる防御壁を張っているのかも…とも思ったけれど、そうではなかったらしい。
よかった。
もしあらゆる防御壁を駆使していたのだとしたら、クロスアーマーに魔法陣を描く際に何に対する防御にするか選ばなければならなかった。
そろそろ魔力が切れそうになる。
見張りが魔力切れでは意味がない。
今日の実験はここまで。
ジャムを煮込んだ鍋に水を足す。
よかった。
まだお鍋洗ってなかったからナランハ湯が飲める。
鍋に残るジャムの残りを湯で溶かして、飲む。
ふぁー。美味しい。
これ交代の時イヴにも飲ませてあげよう。
ゆったりした体勢で甘く温かい飲み物を飲む。
ちょっとだけメリンダが入れてくれるチャイを思い出した。
魔力枯渇になりかける度に作ってもらったんだよね…
魔力回復を待つ間ぼんやり考える。
癒しの呪文が結界だった。
いやむしろ、こっちが元で状態回復用に(我が身を阻む)と入れたのかもしれない。
いやいや原文は『四柱帰依 祓清邪悪願 癒守温光願』だ。
(我が身)なんて一言も入っていない。
悪いものを祓って清めて、癒やし守るのだ。
それは病や毒物だけじゃなかったのだ。
対象への攻撃も含まれていた…ううん。それ以外にも何かあるかもしれない。
とにかく対象にとって悪いものを祓い、清め、守る。
それがこの呪文の真価ってこと?
ということは現代語訳が過剰に訳されてたということかしら?
それとも病に対する呪文だとしか知らなかった?
考えてもわからないけれど…一つわかった。
本にはたくさん魔法陣も載っているけど、まだまだ魔法には知らないことがありそうだ。
悪いものを祓い、清め、守る…か。
癒しの呪文というよりは、浄化と守護の呪文ね。
国中の危険地帯に赴き、瘴気を抑え、民を守ったマリアベル様みたいな呪文だわ。
ん?
ぼーっと辺りを見ていたら、何か違和感を感じた。
なんだろう?
何かが違う気がする。
このタイミングで違うとなればベンチだろうが…何が違うかわからない。
わからないけど何か違う。
うーん。
結局そのまま分からずじまいで交代の時間になった。
ナランハ湯をイヴに渡して就寝だ。
一日中歩いた上、魔力もたくさん使ったのでテントに入るとすぐに寝入ってしまった。
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