第48話

イヴリン姉様とアルフレッド兄様はやはり顔見知りらしく、顔を合わせればいつもキャイキャイじゃれ合っている。

そう。アルフレッド兄様も領に戻ってきてから毎日遊びに来てくれているのだ。

マリウス兄様とも会ったらしいのだけど、マリウス兄様は次期領主のためお客様の対応もしなければならず、かなり多忙で会えてもほんの少し会話するくらいなのだとか。

多分だから私のところに遊びに来てくれているのだが、部屋に引きこもりの身なのでそれでも嬉しい。

今日は12月25日。

毎年12月25日は、1年の慰労の意を込めてパーティがある。

去年私も初めて参加して、イヴァン様から「ライブラリアンなんてどんな役に立つのか」と聞かれたあのパーティだ。

さすがにこれは欠席できないらしく、久しぶりにドレスに腕を通す。

社交は苦手なんだけどな・・・

今日まで表に出なかったのは、きっと私がライブラリアンであることに不快感を持っている人がいるからだ。

私が嫌われるのはいいけれど…お父様やお兄様の足は引っ張りたくないな。

どう話したらいいのだろう?

あぁ!社交は苦手なのに!

そうこう悩んでいる間にも時間は刻々と過ぎていき、入場の時になってしまった。

「ドレイト家ベルン様、ラティス様、マリウス様、テルミス様 入場!」

大丈夫。

みんながいるわ。ここまで来たら落ち着くしかないわ。

大丈夫。大丈夫。

マリウス兄様はもちろん、アルフレッド兄様も、領主邸に滞在しているイヴリン姉様も(そういえば有名な冒険者と父様が言っていたわね)出席なのだ。

味方はいっぱいいる。

入場すると去年と同じくドラステア男爵が1番に挨拶に来て、他の人もその列に並ぶ…そう思ったのだが、今年は違うみたい。

誰だろう?

お父様との会話を聞いていると、男性はタフェット伯爵と言うらしい。

マナーの授業で習ったわ。

確か…領地はお持ちになっていないけれど、魔導具の生産のほとんどすべてを担う有力貴族だ。

そんな人がなぜ…こんな田舎の慰労パーティに…?

お父様とは一見和やかに話しているけれど、言葉の端々に棘を感じる。

一瞬目があったような気がした。

…何だか嫌な感じだわ。

一通り参加者すべてと挨拶を終えると、昨年同様自然と大人と子供に分かれていく。

「テルミスちゃん、今日は本当に素敵だわ!」と言うのはイヴリン姉様。

「ありがとうございます。お姉様もとっても素敵!」

イヴリン姉様は着飾らなくても美女なので、今日は輝きすぎて眩しい。

当然イヴリン姉様とお近づきになりたい男性の視線もバシバシなので、面倒で子供たちゾーンに来たらしい。

ちなみに私は、夜のように深い濃紺のAラインドレス。

腰から下はふわっと柔らかいシフォンの生地が何重にもなっていて、腰の切り返し部分には、銀糸をたっぷり使って刺繍されたリボンをまいている。

昨年の私は、ピンクのフリフリの可愛らしいドレスを着ていた。

可愛いけれど、侮られやすい…と思う。

ソフィア夫人曰く、ドレスは戦闘服であり、なりたい私を演出するためのモノ。

今日のドレスは「知的な私」を目指して、作ってみた。

ライブラリアンという私の弱みを、知的というメリットに見せれたらなと思ったのだ。

早速イヴァン様とレイモンド様がやってくる。

マリウス兄様とは普通に話している。

私には話しかけない。

話が終わり、去り際に「それでは、物騒な噂もありますのでテルミス様もお気をつけて。」と言われた。

勘違いかもしれないが、その瞬間空気が凍った気がした。

まぁ…今年は何事もなく終わってよかったわ。


**********


パーティが終われば、王都で冬の社交が始まる。

お父様とお母様はパーティの翌々日には王都へ旅立って行った。

もちろん大量のプリンを持って。

毎日遊びに来てくれたイヴリン姉様も、何やらギルドから緊急招集がかかったとかで出て行ってしまった。

はぁ…静かだわ。

ちなみに護身術やマナー、ダンスのレッスンも年末だからお休み。

パーティの前は来客が多いので、部屋にいるようにと言われていたけれど、パーティも終わり、人も少ない今はどこでも行き放題だ。

王都へ行く両親に護衛もたくさん割り振ってあるので、去年同様屋敷の外へは行けないのだが…

久しぶりに庭でも行ってみようかしら?

やっぱり寒いかしら?

それでもずっと部屋に引きこもっていたのだ。

久しぶりに外に出たい!

その気持ちが勝り、庭へ。

わぁ!すごい!

去年はイヴァン様の発言にダメージを受けて引きこもっていたから、冬の庭は初めてだ。

冬は花が少ない…だから庭を見ても楽しくないと思っていたのだが、これはこれで…素敵。

花も葉もついてない枝だけの低木が小道の両脇に並んでいるのだが、その枝が中心近くは鮮やかな黄色で先になるにつれ夕焼け色に輝いている。

なんて素敵なグラデーション。

その小道を通り抜け庭の奥へ通った時、なんだか呼ばれたような気がした。

キョロキョロと辺りを見回すと柵の向こうにレアがいた。

会いに来てくれたんだ!!

ずっと屋敷から出れなかった私は、孤児院に行きたくても行けず、孤児院のみんなからももうとっくに愛想がつかされているかと思っていたから本当に嬉しい!

「レア!久しぶりね。」

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