第十四話:ストーキング
「先輩、これは一体どういうことですか?」
明けて月曜日。俺は登校するなり、後輩である葉月優梨奈によって詰められていた。一体どうしてこうなったのか、その原因は彼女の持つスマホにあった。
「な、何故そんな写真を持っているんだ…………」
正確に言えば、スマホの中に収められた複数の写真が原因だった。そこには土日に行った俺と霜月のお試しデートの様子がバッチリと写っていた。
「そんなの私が先輩達をストーキング…………偶然、お見かけしたから、思わず撮っちゃったに決まっているじゃないですか」
「いや、間に合ってないから!思いっきり、ストーキングって言ってたから!!」
「そんなことはどうでもいいんです!!これはどういうことかって訊いているんです!!」
現在、俺達がいる場所は昇降口である。その為、そこは登校する生徒達で溢れ返り、そんな中で優梨奈のような美少女が大きな声を出して異性に詰め寄っていたら、目立ってしょうがなかった。現に通り過ぎていく生徒達が何事かと横目でチラチラと見てきた……………ちっ、見せ物じゃねぇぞこの野郎!!
「で?どうなんです?」
「いや、あの優梨奈さん」
「はい?」
「仮にそれが本当にデートだったとして、どうしてあなたが気にするんでしょうか?」
「先輩、以前自分が何言ったか覚えてないんですか?」
「ん?」
「拓也先輩は以前、こう仰いました。"霜月先輩とはそういう関係ではない"と」
「ん〜?…………ああっ、確かにそんなこと言ったかもな」
「私は嘘を付かれるのが大嫌いなんです。お婆ちゃんも言ってました。"嘘を一度つけば、その大きさに応じた災いが降りかかる"と」
「おおっ。相変わらず、ご立派なお婆さんだ」
「そこんとこを踏まえた上で先輩にお訊きします……………先輩は私に嘘を付いたんですか?」
まだ付き合いが短いながらも彼女は元来、とても明るい人間だということは分かっている。それなのに今、目の前にいる葉月優梨奈は俯いて肩を小刻みに震わせていた。
「いや、あのな優梨奈。これには深いワケが……………」
「如月、そんなところで一体何をしているのかしら?」
そんな優梨奈に俺がほとほと困り果てていると横から声が掛かった。見れば、霜月が怪訝そうな顔をしている。
「霜月!いや、実はな」
突然、やってきた霜月が女神のように感じた俺は縋るような面持ちで霜月へと状況説明をしようとした。ところが……………
「葉月さん。そこにいるアホと私は別に恋人でも何でもないわよ」
「霜月さん!?あなた、聞いてらしたんですか!?」
「当たり前じゃない。あんな声で騒いでたら、誰だって気が付くわよ」
こいつは女神でも何でもなかった。わざと知らないフリをして近付いてきたんだ。つまるところ、悪魔だ!!
「これで安心した?」
「っ!?べ、別に私は……………それに霜月先輩が嘘を付いている可能性だって」
「あら、そう。本当のことなのに。というか、私の方が心外よ。こんな奴と付き合っていると思われる方が」
「っ!?今すぐ取り消して下さい!!」
「ん?」
霜月の言葉に困り顔から一転、憤慨した表情を見せた優梨奈は霜月へと食ってかかった。
「拓也先輩はアホじゃないですし、"こんな奴"なんて彼女じゃないなら呼ばれる筋合いはありません」
「別にどう呼ぼうが私の自由でしょ?」
「いいえ!あなたのその言葉によって、傷付く人だっているんです!!現に私だって許せません!!だから、取り消して下さい」
優梨奈は一歩も譲らないというスタンスで霜月の目を見ながら言った。その言葉が響いたのか、霜月は数秒後には軽く息を吸ってから、なんと俺達に頭を下げた。
「如月、葉月さん。酷い言い方をして、ごめんなさい。さっきの言葉を取り消すわ」
「っ!?お、おい霜月!?」
「っ!?霜月先輩!?」
俺達はまだ霜月が言い返してくると思っていただけにかなり驚いた。そして、俺はそこに若干の違和感を覚えた。
「あ、頭を上げて下さい!!わ、分かりましたから!!」
「許してくれるの?」
「許すも許さないも私は別に……………それにどちらかというと私の方が言い過ぎたかなって」
「あら、そうなの」
「へ?」
優梨奈の謝罪とも取れる言葉を聞いた直後、霜月は頭を上げて、ニヤニヤとし始めた。
「悪いと思っているのなら、償いをしてもらわなくちゃね。そうね…………何がいいかしら?」
「え?え?」
「そうだわ。今日のお昼、一緒に食べましょう。それで手を打ってあげるわ」
「あれっ!?なんか立場が逆転しているような…………」
「葉月さん、ストーキングは立派な犯罪よ」
「っ!?うわ〜ん!!そこもちゃんと聞かれてた〜!!」
この後、霜月の脅迫?のような提案により、昼飯を一緒に食べることになった俺達。去りゆく優梨奈を見送りながら、霜月はポツリと呟いた。
「葉月さん、とても良い子ね。それになんだか放っておけないわ」
霜月は優梨奈を見ていると同時にどこか遠くを見ているような気がしたがあえて、そこは気にせずに俺は言った。
「意外だな、霜月がそんなことを言うなんて」
「?」
「いや、前みたいな感じで突っかかったのかと思ってさ……………それに長月にはあんなこと言ったんだし」
「私にだって、好き嫌いはあるわよ。その点でいえば、葉月さんは結構好きよ。素直で真っ直ぐだし、一本芯が通ってる」
「確かにな……………ん?その理論でいくと長月はそうじゃないのか?」
「……………あなたにはまだ分からないわ」
「?」
霜月は怪訝な表情の俺を放置して、そのままスタスタと歩き始めた。俺はその後を慌てて追いかけていた為、気が付いていなかった。陰から俺達のやり取りを一部始終、見ていた者がいたということに……………
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