第54話 お忍び旅行 4

 侵略を受けた側は、たとえ戦闘に大勝利を収めたとしても「後始末」をすることが優先される。


 ある意味で男爵領は騎馬民族から襲撃を受けることに慣れていた。


 まるで台風が去った後の片付けをするかのごとく、息子達は手分けして各村の長老達と被害状況の確認や回復の手立てを講じることになった。この辺りの手順は、ほぼルーティン。


 それに男爵の息子達は能力も高いらしく、やるべき分担もハッキリしているらしい。南の村を長男、東の村を次男、西の村を三男という風に担当が決まって、テキパキと準備を進めている。


 ドサクサに紛れてお暇したいところだが「このまま、お帰ししたのでは面目が立ちませぬ」と言われてしまった。


 貴族として、その言葉の意味が痛いほどにわかる。


 今まで略奪を受けていた領地だったのだろう。領民からすれば、一方的な災害に遭っていたようなものだ。ところが、今回は望外に「勝った」のだ。領民達から見れば、勝ったという実感を「形」として得ないと納得できないものだ。こういう時って、どうしても「祭」が必要なんだ。


 しかも、今回は、急場をしのぐためにオレが指示を出す姿が目に見えすぎた。ここまでしゃしゃり出てしまったのに、勝利の立役者が「祭」に顔を出さなければ、領主に対する民からの白い目だってありうる。


 極端な話「とても優秀で、素晴らしい子爵様と不仲になられたのでは?」というウワサが言葉にならないまでも、民達にジンワリと黒い感情をもたらさないとも限らないんだよ。


 ここは、どれだけウソを交えようとも、領民達の前で抱き合ってみせねばならない。それが貴族というもの。オッサンと抱き合わねばならないというのも、貴族ならではの義務とも言えるし、男爵がオレに差配を任せてくれた以上は、勝利の後の義務も大事なんだ。


 こういう義務をおざなりにすると、逆に怨みに変わるものなんだよね。歴史上、負け戦から内紛が起きた国よりも、勝った後に内紛が起きた国の方が多いくらいだ。

 

 だから、男爵の勧めるまま、お風呂をいただいたのも、ある意味仕方のないこと。貴族の風呂と言えばメイドが付きっきりになるものだし、まして、自分よりも上位のであれば、その屋敷一番の者が担当するのも当然なんだよ。


「でも、だからと言って、アーシュライラちゃんがしなくても」

「いいえ。この家では私が一番年上です。子爵様のお身体に触れて良いのは、私だけですから」


 一応ね、仕来りとして「人妻」は、こういう仕事をしないんだよ。あ、メイドは別だけどね。それとね、高位貴族が来た場合は、なるべく未婚の身内が務めに混ざるっていうのは西部の小領主地帯の古い仕来りで存在するのも、事前に聞かされていたよ?


 でも、それがオレよりも二歳年下の子、単独でされちゃうって何!


 これ、オレの理性を試しているってよりも「理性を捨てろ」って言ってるほど露骨なんだよ。


 しかも、まとっている薄物がビッショリになってるから、目のやり場に…… いや、見ちゃうけどね? でも、これは、わざとと言うよりも、慣れないことをやっているからだ。


 一生懸命に頑張ってくれる人を拒否しにくいのは、THE、日本人だよね?


 わざとじゃないのに「濡れ透け」が出現しちゃったら、そりゃ、普通よりもエロさが倍加するわけで。


 目が離せなくなるのも、これ、男だよね!

 

 あ、ピンクが……


「あぁ~ えっと、アーシュライラちゃん」

「はい。あのぉ、できましたら、アーシュラとか、アシュラってお呼びいただけると嬉しいです」


 え? アシュラ? あれ、この家は男爵…… だ、だめだ、だめ、しかもこの家は「ブロック」男爵家。伯爵じゃないけどw


 束の間、ヤバい連想をしつつも、頭のどこかが冷静だったんだと思う。

 

 オレは、表情をできるだけ優しくしながら「アーシュラちゃんは、こういうことをしたことがないんだろ?」と小さな声。


 どのみち、お風呂の外ではメイド達が耳を澄ませてるからね。ギリになったら、きっと「ベッドはこちら」をするつもりでスタンバってるに違いないよ。でも、せめてもの抵抗として聞かれないようにはしておこう。


「はい。殿方のお風呂を務めさせて頂くのは初めてでございます」


 恥ずかしそうだけど、自分の貞淑性をアピールできて、嬉しそう。


「じゃ、さ、? その方が、ほら、オレも恥ずかしくないし」

「え! 一緒に!」


 しー


 と指で唇を押さえてあげる。ことここに至って「儀式」は仕方ないと腹をくくろう。西部のオキテだ。


 でも、それならば、夜になってからのベッドランプだけの寝室ではなくて、強い日差しが入ってくるお風呂でやるべきことがあるんだよね。


「ナイショだよ、洗いっこ!」


 真っ赤になったアーシュラちゃんだけど、もともと「そのつもり」だったのだろう。張り付いた薄物を脱いで、全てをさらけ出してくれた。


 真っ赤になりながらも、隠せない。恥ずかしさで胸やらどこやらを手で隠そうとするけど「見せて」と、そっと退けると従ってくれるのは、この世界の女の子のお約束みたいなモノだ。


 全身の柔らかな肌を撫で回すようにして洗い尽くす。もう、舐めるみたいにね。


 恥ずかしがるけど「お風呂だから」で押し切った。


 まあ、理性が5割も残っていたから、何とか乗り切れたよ。


 可愛らしくて華奢な肩にも、すっべすべの背中にも、そして、既にクッキリとした女性の形になってる前側にも、可愛らしい脇も脇腹も、それにキュートなお尻も……


 あとは、自主規制だよ! ともかくも、全身くまなく楽しm、げっふんげっふん、オレはくまなく石けんをなすったんだ。


 何度も切ない声を漏らしながら、アーシュラちゃんは羞恥と、身体にこみ上げてくる何かに耐えてくれた。


 最後に、髪の毛をシャンプーしてあげてからだった。


「子爵様」


 真っ赤な顔をしつつも、ニッコリと見上げてくる目。


 ちょっと潤んでいるのは、恥ずかしかったせいなのか、それとも女性としてのあれなのかは知らないけどさ。


 すごく可愛らしいのは事実だ。


「ありがとう。ちょっと、ヤリ過ぎちゃってごめんね? 最高だったよ」

「いえ。私の方こそありがとうございました」


 コクンと小首をかしげた後で、上目遣い。


「あの、これで、お確かめいただけましたね?」

「え?」

「どこにも入れ墨が無いことは、ご納得いただけましたか?」

「!!!!」


 あくまでも魅惑的な笑顔を見せるアーシュラちゃん。


 何だよ、バレテーラw


 それなら、いっそ正直に尋ねることに作戦変更したら、素直に答えてくれたよ。


「グレーヌの教えには敬意を払いますけれど、我が家は誰一人、グレーヌ教の入れ墨など入れておりません」


 キッパリ。


「それであっても領民達の中には入れ墨を入れているモノが多数おります」

 

 おかげで、男爵家は全員グレーヌ教徒ではないと言うことがわかったんだ。


「つまり、領民に対する気遣いだと?」

「はい。領民の半分以上がグレーヌ教の民なので、祖父はあのように言うしかなかったのだと思います」


 ホッとしたと言うべきなんだよね。でも「半分以上がグレーヌ教徒」っていう絶望的な情報に、少しもホッとできないオレがいたんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

作者より

短くてすみません!

明日、補筆して頑張ります!

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