第38話(ソフィア視点⑥)
「あははは! でも本当に君も馬鹿だねぇ、アタシが強いなんてもうわかってた事じゃん? それなのによくアタシを殴る気になったよねぇ……?」
「……」
きっとこれも私の心をボロボロにしたいためだけの口撃なんだと思った。だから私は……。
「ねぇねぇ、なんで逃げるの止めちゃったの? お兄ちゃんに教えて貰わなかったの? ヤバそうな奴と遭遇したら逃げろってさぁ……?」
「……」
だから私はこの化物が喋る事に対して無言を貫く事にした。本当は悔しいし怖いし、それに涙も流しそうになっていたのだけども……それでもなんとか我慢して私は無言を貫いていった。
だって最後までこの化物の思い通りにはさせたくなかったから……だからこれは私の小さな意地だった。
「……ねぇ、聞いてるのかなぁ?」
「……」
予想した通り蛇の化物は次第にイライラとしだしてきた。どうやらコイツは無視される事を非常に嫌がる性質を持っているようだ。 だから私はひたすらと無視を貫く事を決めていったのだが、しかし……。
「ねぇねぇ妹ちゃん、少しは私のお喋りに付き合ってよー。なんで私の事を無視するのよ? 妹ちゃんはそんなに酷い子だったのかなぁ……? はぁ全くもう、妹ちゃんはもっと優しい子だと思ってたんだけど……ふふ、まぁでもあの馬鹿男の妹だしそれじゃあ仕方ないかもしれないねぇ!!」
「……ぐっ……!」
私から想像していた反応が何も得られなかったのが相当ムカついたらしく、蛇の化物は満面の笑みを浮かべたまま私の胸倉を思いっきり掴んできた。
「ふふ、それにしても本当にさ……人間って馬鹿ばっかりだよねぇ? 君のお兄ちゃんもそうだったし、今日アタシが殺してきた人間も全員馬鹿ばっかりで……あぁ、本当に苛つく……本当にもうイライラするよなぁ!!」
「……ぐ……ぐはっ……」
蛇の化物の胸倉を掴む力は徐々に強くなっていき、私はどんどんと息苦しくなってきた。
「まぁでも弱いのは仕方ないよ、だって人間って非力で弱いんだもん。でも弱いクセにアタシに喧嘩を打ってくるのは何なの? アタシが弱いと思ったわけ? それとも何? 本当に皆死に急いでたの? それなら人間って本当にただの馬鹿で無能な集団って事になるよね! ぷぷ、ぷははははは!」
「ぐっ……ぐぐっ……馬鹿……なんかじゃ……ない……」
胸倉を思いっきり掴まれたその時、私はついにこの化物に殺されるんだと思った。本当は一矢報いてやりたかったけど……でも実力差が違いすぎてもう私にはどうする事も出来ない。
でも最後に……私は殺されてしまうその前に……先ほどから何度も言い放ってきているその言葉だけは……はっきりと“違う”と言ってやりたかった……! 兄も……それに他の人達も皆……馬鹿では決して無いんだと……!
「ぷははははっ……って、はぁ?? いや何言ってんの? どう考えても馬鹿だろうがよ!!」
「ぐはっ……ぐっ……馬鹿なんかじゃ……絶対にない……!」
蛇の化物はまさか死にかけの私が命乞いではなく、言い返すような言葉を投げかけた事にビックリしたような表情をしていた。でもすぐに下卑た笑みを浮かべながら私の胸倉をさらに締め上げてきた。
「ぷはははっ、いやいや誰がどう考えても馬鹿じゃんね? 力の差がわからないで戦いに来てる時点でさぁ! 弱いなら弱いらしくアタシに見つからないように最初から視界に入らないようにコソコソとみすぼらしく逃げ回っていればいいのにさぁ!」
「ぐっ……」
蛇の化物は満面の笑みを浮かべているのだけど、しかし言動はとてもイラついている様子だった。どうやら私が命乞いをせずに言い返してきたのが相当気に喰わなかったみたいだ。
「君のお兄ちゃんだってさぁ、妹ちゃんを逃がすためとかカッコつけてたけど弱すぎて話になんなかったんだよ?? ねぇ、妹ちゃんだって本当はもう気づいてるんでしょ? そうなんでしょ? ふふ、いいよ、それじゃあさぁ……頭の悪いアンタのためにさぁ……最後にもう一度だけ言ってやるよ!!」
「……うぐっ……」
蛇の化物に胸倉を掴まれていた私は、そのまま強い力で化物の顔の前へと引き寄せられた。
「てめぇの兄貴はなぁ……馬鹿だから死んだんだよ!!」
「違う!!」
蛇の化物は私に怒鳴りつけてきた。私は涙が出そうになった……それでも私は必死に涙を堪えた。涙を堪えて私は喋り続けた。
「……私のお兄ちゃんは……馬鹿なんかじゃ……絶対に無い!」
私の頭の中は恐怖や悔しさ、悲しさ……それに手足の痛みによる苦痛などの様々な感情が巡り廻っていた。でも私はそれらの感情を決して顔には出さないでそう言い切ってみせた。
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