平凡な大学生が人気女優に恋した結果

第1話

　大都市の喧騒から少し離れた、のどかなカフェに遠山拓海はいた。午後の穏やかな光が窓ガラスを通して室内に柔らかく差し込んでいる。カフェの中は、軽食を摂る人よりも勉強や読書に没頭する人が多く、拓海もその一人だった。彼のテーブルの上には散らばったノートと教科書があり、ノートパソコンの画面には複雑なグラフやデータが映し出されている。

　拓海は深く研究に没頭していた。彼の眼鏡には画面の文字が反射し、彼の顔は熱心な表情で照らされている。

　その時、カフェの入り口が開く音が静かな空間に響いた。入ってきたのは、帽子と大きなサングラスで顔を隠した女性。長い栗色の髪を揺らしながら彼女は周りを慎重に見回し、空いている席を探していた。

　カフェ内はほぼ満席で、空いている席は拓海の隣の席だけだった。女性は躊躇いながらもその席に腰を下ろし、コートを脱いでリラックスしようとした。その時、彼女の腕が拓海のテーブルに置かれていた書類に触れ、それらが床に散らばってしまった。

「あ、ごめんなさい！気を取られていて……」彼女の声には、申し訳なさがこもっていた。

　拓海は一瞬驚いたが、すぐに笑顔を浮かべ、優しく答えた。「いえ、大丈夫ですよ。こちらこそ、散らかっていてすみません。」

　二人は共に床に落ちた書類を拾い始めた。女性のサングラスの隙間から彼女の瞳が見えた。深い緑色。拓海はその瞳に見惚れた。

　女性がこちらの視線を気にせず拾っているのを見て拓海も慌てて残りを拾う。その短い間、小さな会話が生まれ、お互いに自然な笑顔が交わされた。

「ここはいつもこんなに穏やかなんですか？」女性が軽い口調で尋ねる。

「はい、いつも静かで集中しやすいんです。勉強には最適な場所ですね」拓海は温かい笑顔で答えた。

　会話が続くにつれ、二人は共通の趣味、特に芸術や映画についての興味を共有していることに気づき、話は自然に盛り上がった。拓海は彼女に対してはとても話しやすいと感じ始めていた。

「えっと、僕、遠山拓海と言います。この近くの大学生です」拓海は緊張しつつ自己紹介する。

「星野美咲です」女性は小さく頭を下げた。拓海はその名前を聞いて一瞬硬直する。彼女は女優だ。それも普段テレビを見ない拓海が知ってるレベルの。

　拓海は何か言おうと思ったが、プライベートの時間だろうとそのことに触れるのをやめる。美咲は拓海の表情を見て察したがその心遣いに微笑みを向ける。

　窓の外では、街の景色がゆっくりと夕暮れに染まっていく。カフェの中では、二人の新しい友情が芽生え始めていた。