第30話 見えてきた犯人⁈
昔から神崎家は器量筋と呼ばれている。どうもロシアの血が流れているのではと言われている。日本とロシアがはじめて国交に向けて交渉を始めたのは1770年代だから、かなり昔の事だ。だから…ロシアの血はあちらこちらに紛れている。
一方の近藤家に嫁いだ混血児エリはアメリカ人と日本人のハ-フだ。だから…その娘梨香子(ヤエ)も当然アメリカ人の血が混ざっている。このような経緯から、次郎の娘ヤスとエリの娘ヤエが似ていても不思議はない。ましてや汚いボロ着を着ていたので尚更の事だ。
エリの想い人で軍人藤本が、エリから手紙を受け取り神崎家に馳せ参じ、エリの忘れ形見を貰い受けて行ったが、その時次郎は自分の娘ヤスとエリの娘ヤエを交換して藤本に渡してしまった。
(そうだ!ヤエと我が娘ヤスを交換して渡せば、ヤスは一生幸せな人生を歩めるに違いない)
★☆
軍人藤本省吾がエリの遺志を引継ぎ、エリの娘ヤエと取り替えたヤスをエリの忘れ形見と信じて引き取った。
省吾はいつまでもエリが忘れられなく、エリによく似たヤエに成り済ましたヤスにエリを重ね合わっせていた。こうしてヤエと偽ってヤスは年齢差27歳の藤本省吾と結婚した。省吾が47歳でヤス20歳の結婚だったので2人の間には子供は娘イトだけだった。
やがてイトは縁あって教員と結婚した。そして。その娘百合子も父の勧めで将来有望な教員と結婚した。その間に誕生したのが娘恵子だ。
戦後の復興期、誰もかれも生活苦に喘いでいた時代に、母百合子はまだ結婚して日も浅いので生活の足しにでもと思い、神崎家にお手伝いとして働き出した。その時に運悪く神崎家の長男で跡継ぎに強姦されてしまった。この事件は悲劇としか言いようが無いが、それでも…恵子が何故そんな仇と言ってもいい、神崎家の長男茂と結婚したのか理解に苦しむ。
恵子は母から全てを聞かされていなかったのだろうか?
「恵子は神崎家の跡取り息子との間に出来た子供だ!」とは到底言えないだろう。
母にすればそんな恐ろしい事口が裂けても話せたものではない。そんな事が夫に知れたら夫と即離婚になってしまう。戦後5年目の復興期に離婚されたらどうして生きて行けようか、こうして母は恐ろしい秘密をあの世まで持って行ったのだ。
GHQ最高司令官のダグラス・マッカーサーが、地主たちから所有地を買い上げ、小作人に安価に売り渡す「農地改革」を1946年から行った事により神崎家は、一気に勢いづいた
小作農家だった神崎家は器量良しの娘たちのお金で潤いを増し、土地を少しづつ買い占め地主に上り詰めていたが、「農地改革」で一気に大地主の仲間入りを果たした。
そんな大地主神崎家は従業員を多く雇っていた。だから跡取り息子にすれば、女中はしょっちゅう入れ替わるので百合子の事など頭の隅にない。地主の息子が女中に手を出す事はあの時代当たり前のように行われていた。幾ら親戚と言っても代が変わればそんな親戚の事など忘れている。百合子は、「はとこ」に当たるのでもう親戚とは言い難い。
興信所を使ったところで恵子の母百合子は教員の妻だ。まさか茂と亮兄弟の父で神崎家の当主と恵子の母がそんな関係に有った事など誰が知ろうか?
それでも…茂と亮と恵子は紛れもなく血の繋がった異母兄弟なのだ。まさかそんな恐ろしい現実が有ろうとは誰が想像出来ただろうか?ましてや恵子が中学3年生の時に父は交通事故で他界。
一方の母が神崎家の息子との結婚と聞けば、過去の秘密は絶対に口が裂けても言えないだろうが、反対は出来ただろうに何故反対しなかったのか?
実は母百合子は長年に渡り大きなストレスを抱えていた。それは恵子の友達の事だった。高校生の恵子から神崎兄弟と東京デズニランドに遊びに行くと聞いて卒倒しそうになった。大反対をしたが、恵子は反対する理由を母に突き付けた。
「あんなにお金持ちの優秀な兄弟と、もう1人女のお友達と4人で出掛けるのに何故反対なの?」と、しつこく聞いたが理由は「男の子と出掛けては何が起こるか分からないから危険よ!」と言う事だった。
それでも…恵子と茂亮兄弟の友達関係は反対されれば余計に強くなった。母百合子はこのお友達関係を何とか止めさせようと必死になった。そんなある日恵子から相談を受けた。
「私神崎兄弟の兄茂に結婚しようと告白されたの」と母に話した。
母百合子は暫くして、ストレスが原因で心筋梗塞で倒れ、帰らぬ人となってしまった。母の死は耐え難いものでは有ったが、それでも…母の死から1年後に結婚した茂と恵子だった。
「フッフッフッフ……よくも……よくも……こんな所に……閉じ込めやがって……一家諸共……殺してくれるわ——ッ!嗚呼……嗚呼……血が……血が……もっともっとクッフッフッフ……ワッハッハッハ————ッ!」暗闇で恐ろしい言葉を吐くこの人物は一体誰なのか………?
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