第11話「ホームルーム」
2060年4月8日
「はーい、皆さん。今日から新しく特待生として急遽、編入生が入ることになりました。11人からのスタートかと思いきや、12人体制のスタートとなるので、よろしく頼むぞ。ほら、式波。自己紹介してくれ」
異能専校の学び舎。「一年生教室」の表札が書かれた教室の中で編入生の紹介が、
「はい。えーっと、今日から編入しました。式波誠です。よろしくお願いします」
誠は黒板に自分の名前を書いて自己紹介した。特にこれといった特徴もない自己紹介ではあったが、チョークで書かれた彼の名前は綺麗な字で書かれていた。
彼の今の格好は異能専校・東京校の指定の制服だった。急遽入学が決まったこともあって標準の白が基調のダブル型のブレザーを着ている。
制服はある程度デザインをカスタマイズできるらしく、誠以外の12人の生徒たちの制服はそれぞれデザインが違った。これは個性を引き立たせるための仕組みらしく、生徒たちの「キャラクター性」を前面に押し出させるためのものでもあるらしい。
“本当に僕含めて12人なのか……”
教室全体を見渡しながら、誠は内心で思った。
木造建築の校舎なせいか、どことなくレトロな雰囲気のある教室で使われている机も木製だ。だがエアコンを始めとした冷暖房設備などはキチンと完備されていて、まだ冬の寒さが残っていることもあって、暖房が良い感じに教室を温めている。
その教室内にいる、今日から同級生となる11人の生徒たちは一様に誠を見ている。
彩羽を除けば、誠の「特待生」という肩書に様々な種類の視線を向けている。
好奇心から。もしくは物珍しさから。そんないくつものの視線に誠は少しばかりアウェーな気持ちになる。
「式波、お前は飛高の隣の席だ」
「あ、はい」
三郎に言われ、誠は真っすぐに彩羽の隣の席に座る。
教室に入る前に名簿を見せてもらっていたが、出席番号の割り振られる基準とかそういうのは特にないらしい。だが誠の場合は特待生としての入学に加え、編入生という形なので出席番号は後ろの12番だ。
「これで今年の入学生はそろった。例年と比べると少し多い人数だが、俺たち教師陣はお前らを徹底的に教育していく。……だが、不思議なことに今年の新入生たちは全員軒並みヒーロー志望者だという」
“マジ!? ここにいる人たち、全員ヒーロー志望なの!?”
まさかの同期生たち、全員がヒーロー志望ということに誠は衝撃を受けた。
異能専校はヒーローになるための者たちが入る学校ではなく、あくまで「
だがヒーロー制度は
誠は銀司がヒーローをやっているという関係から、制度についての仕組みを独自に勉強したり、銀司のヒーロー活動やタレント活動の障害にならないように生活をしていたこともあったので、そこら辺はよく理解していたのだが、まさか同期生全員がヒーロー志望というのは流石に想定外だった。
「そんなわけでだ。俺がお前たちの担任を務めるからには手抜きとかそういうのはするつもりはない。先に言っておくが、俺に家柄とかそういうの全く関係ないからぞ」
三郎の言葉に教室内の生徒たちに程よい緊張感がはしる。
“思い出した。「蓼科」ってあの六師家の「蓼科家」だ。道理で根回しが出来ていたわけだ……”
誠は三郎の言葉を聞いて、蓼科という名前が六師家の一つであることを思いだした。
日本には数多くの
先の「大崩壊」の際に日本の復興などにも関わり、
「それは置いといて、だ。お前たちは自分の
そう。ヒーローはただメトゥスと戦うだけではない。メトゥスの脅威に怯える人たちの心を安心させるため、そしてヒーローとしての自分の力を高めるために芸能人としても活動しなければならない。
身近にヒーローとして活動する、兄弟子の
『三年以内に異能専校でヒーローにならなかったら逮捕する』
本来なら昨日の時点で捕まっていた誠にチャンスと猶予が与えられ、そして自分でもう一度ヒーローを目指すと決めた。間違いだとしても、自分で歩むと校長に啖呵切った。
傍から見れば強制的なものだとしても、それでも自分で選んだ道だと、誠は再び気を引き締める。
「以上。HR《ホームルーム》はこれにて終了だ。この後、休憩時間を少し挟んだ後、お前たちの現時点での実力を計る実技テストを行う。支給された体操服を更衣室で着替えて、こっちの指示があるまで教室で待機しておくように。トイレにも行っとくんだぞ」
そう言うと、三郎は教室から出て行った。
「ねぇ、君」
「ん?」
直後、誠は一人の男子生徒に声をかけられた。
「おっと、ごめんよ。オレの名前は
「あ、ああ。よろしく」
“これ、アレかな? 典型的なナルシストとかそういうヤツ?”
青い鳥の刺繍が刻まれた制服に身を包んだ、キザっぽい印象の男、那須義隆にそんな自己紹介をされ、誠は頭の中で若干困惑した。
義隆は顔立ちも非常に整っており、それでいて鋭い目つきをしていた。青い髪は艶があり綺麗にセットされていて、全体的に細身に見える体つきをしているが、誠には一目で彼も武道の心得があることを見抜いた。
“あれ……。この顔と特徴、なんか見覚えがある気が……”
誠は義隆の顔を見て、どこかで見覚えがあるような気がしたのだが、なかなか思い出せない。思い出せないというより、“こんな感じの人だったっけ?”というような、あやふやな印象だった。
「ヨッシー、いきなりそんなキャラで絡むとかコミュ障っす。もっとノーマルに挨拶するべきってウチ思うんすけど~」
灰色のセミロングに垂れ目のどこかニヒルな笑みが特徴的な女子が言った。
「何言っているんだい、幽子。さっきも言ったけど、僕はいずれお茶の間で知らない者のいないスターヒーローになる男さ。同期であろうとファンを増やすに越したことはないだろう?」
「うーん、初っ端でその挨拶でファンが増えると思える強メンタル。あ、アタシは
義隆をさらっとスルーして、狩野幽子はそんな自己紹介をした。
「よ、よろしく」
そんな彼女に誠は一言そう言った。
「ほら、みんな! 早く更衣室に行って着替えるわよ! 蓼科先生がいつ戻ってくるかわからないんだから!」
そう言ったのは、カスタマイズしていない制服に身を包んだ、キリッとした鋭い顔つきと紺色のショートヘアが特徴の女子だった。誠が名簿で見た記憶によれば、彼女は
「は、はーい! ほら、みんな急ごう!」
彩羽はそう言って、慌てて教室を出ていった。
「おい、オレたちもさっさと行くぞ。ボケーとしていたら、女子たちに先を越されるんぞ」
制服を着崩し、筋肉質な体つきに右手首に梵字が刻まれた数珠をつけた、髪を赤黒く染めた男子、
“……なんか、みんな個性が強いなぁ”
これから3年間を共にするであろう、同期生の面々を見て誠は内心圧倒されながらも、急いで更衣室に向かうのだった。
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