魔導師の月

@kaju100

旅路開幕

第1話


『すべてのものは月に帰す。』

これは古くから伝わる魔導の掟であると両親は云った。


─月に行っちゃうの。

そう両親に聞いた僕は少し不安な気持ちだった。月に行ってしまったら、僕たちはもう家族にはなれないのではないか。そういった考えがよぎったからだ。


しかし、両親の反応は違かった。

母はベッドの中にいる僕の頭を撫で下ろし、父は僕の背中をさすった。


「それは違う。死んでしまっても、月に帰るということは本来のいた場所に戻るというだけだ。」


「そうよ。そうしたら私たちは、また同じ場所で幸せに暮らせるわ。」


父の言葉に続いて、母の賛同する言葉が伝わった。


──ふうん。じゃあ、僕たちはずっと仲良しでいられるんだ!


「ええ、絶対にね。」

「ああ、絶対にだ。」


両親の声が同時に聞こえてきた瞬間、あたりは光に包まれていった──




───────────────────




『もう朝か。』

テレスの顔にはカーテンの隙間から差していた光がかかり、眩しさから目を何度も擦りながら体を起こす。


顔を洗い、コーヒーメイカーでお気に入りのキリマンジャロと自分で焙煎したオリジナルをブレンドする。

余裕のない朝はキリマンジャロだけだが、今日は太陽に起こされたので朝は早い。


朝食はシリアル派?ドーナツ派?

どっちもいいよね。私は普通にパン派。


トースターに入れていた8枚切りのパン2枚が出来上がったのでマーガリンを塗っていく。


いや、『塗る』のではない。『乗せる』のである。食べている間に溶けるさまを眺めるのも食事の楽しみのひとつなのである。


もう一つはスライスチーズを載せてマヨネーズをかけていただく。

コーヒーと一緒にいただくとたまらなく美味しい。


「ん……。」


社会はこので変わった。らしい。

私はまだ、十六年しか生きてないからわからないけど、百年ちょい前まで『魔導』が存在しなかったらしい。


建物を建てたり、取り壊すのも『重機』というものを使っていたり、手術も人の手でおこなっていたという。


…今考えると恐ろしいような。


それはそうと、魔導が発展した世界ではいかなるリスクが低減されているのだとか!


それに連なって教育機関も変化していった。

学校の形態は変わってはいないが、大体の学校教育に『魔導』が組み込まれ、『魔導学校』と名前を改めていった。


魔導が優秀な生徒は一時的な旅をすることができ、魔導力の強化と称し、授業の一環として他の区を回ることが許可されるとか。


「さて、そろそろ行こうかな。時間的には全然間に合うみたいだし?」


私自身も魔導学校に通っている身。生徒のかがみとして一度も遅れてはならないのだ。なんたって模範生徒ですから!


そう言いつつ、時計の方に目をやる。


が、先程の起床した時間と全く同じ時刻で秒針が反復しているのを確認してしまう。


─あ、あぁああ……!!


「時計直すの忘れてたああああ!!!!」


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