同人少女は脱がせたい。~人気エロ漫画家のクラスメイトに目を付けられた俺、今にも脱がされそうです~
成瀬イサ
ep1 茅ヶ崎渚沙は触りたい。
4月7日、入学式。
エロ同人誌が、体育館に舞った。
「――私の同人誌になりたい人は、手を上げてくれるかな」
友達出来るかなぁ、とか。
担任の先生は美人がいいなぁ、とか。
そんな具合のことに頭を使っていた生徒が大多数だった。
その意識が、一気に彼女に持っていかれた。
壇上に立つその水色髪の少女は、堂々とした佇まいで、なおも同人誌をばらまき続けている。
教師たちは、ただ愕然とするほかなかった。
そりゃそうだ。
いったいどんな思考をしていれば、入学式の代表挨拶でエロ漫画をぶちまけられるのか。
170センチはありそうな高身長。低めの位置で結んだツインテールの上に、ちょこんと乗せられている色の白色のベレー帽。
そいつを被りなおして、少女は続けた。
「あなた達で、同人誌を作ってあげる」
(なぜ上から目線……)
俺も周りの奴らと似たような反応で、訳の分からん行動をやってのける新入生代表を、ただただ呆然と見つめるしかなかった。
ふと、俺の手元にその一冊が舞い落ちた。
開いてみれば、がっつり、裸体。
それもかなり犯罪臭のする裸体の描き方だった。言ってしまえばロリだった。
ひとしきり同人誌をばらまき終えると、彼女は満足した表情で一礼する。
「みんな、よろしくね」
挨拶を終えた彼女は、壇上から降りて自分の席に戻――ろうとしたところを、ガタイのいい先生に捕まえられ、体育館の外へ連行された。
ざわめく生徒。慌てる教師。同人誌を読む俺。
前代未聞。
衝撃の幕開けとなった代表挨拶は、教頭のアナウンスで締めくくられた。
「い、以上。し、新入生代表――」
名前は、
******
『150センチ以上は人権ナシ』。
これは俺を語る上で、まず外せない言葉、いわゆるモットーというやつだ。
俺より身長高い奴は全員爆ぜろ。
さて、次だ。
以下に挙げる特徴の女の子を想像してみてほしい。
『高校一年生。身長149センチ、体重40キロ。体格は華奢で、おまけに可愛い顔ときた』
男子諸君。キミたちの思考が手に取るように分かるぞ。
あわよくばお話しできたら。お友達になれたら。お付き合いできたら。そしてその先も……という妄想は、高校生男子ならあって当然のモノだ。何も恥じることはない。
では、この特徴を、男の子に当てはめるとしよう。
『高校一年生。身長149センチ、体重40キロ。体格は華奢で、おまけに可愛い顔ときた』
一気にその価値がなくなるのを感じるだろうか。
そう、悲しいかなそれがこの世の現実であり、さらに悲しいかなそれがこの俺――
最後にもう1つ特徴を挙げるとすれば、俺はぼっちだ。
家から遠いこの学校を選んだのがそもそも失敗だったかもしれないが、それを差し引いても俺は元来、人付き合いが苦手――というか嫌いなのだ。
そうでなきゃ現にこうして昼休みに、机に突っ伏して寝たふりをしながら、誰に宛てるでもなく脳内自己紹介をしている訳がない。
そんな俺の高校での目標は『女扱いされないこと』だ。
もうかつての俺ではない。たとえ人に嫌われようとも、舐められるような行動は起こさない。そう決意したのだ。
今日は4月10日。
1年3組の教室は、幸いなことにクラスメイトとの関係構築が割と早くに済んでいた(俺を除く)。
だから、まだ入学式から3日しか経っていないのに、皆が比較的居心地よく過ごせている(俺を除く)。
だがしかし、例外もいる。
「ねえキミ。ちょっと、同人誌にならない?」
彼女がひと声発するだけで、その空間は一気に崩れる。
「ち、茅ヶ崎さん……いや、私はちょっと……」
腕のすき間から、茅ヶ崎に話しかけられた女子生徒を見やる。苦笑いを浮かべて茅ヶ崎から離れていく様子が見て取れた。
(まあそりゃこうなるわな)
実際、大概のクラスメイトの反応はこんな感じだ。
関わったら負け、下手したら同人誌にされる。皆そう思っていた。
「そっかあ、残念」
要するに入学早々、茅ヶ崎渚沙は浮いてしまったのだ。
まあ友達の数で言えば俺も変わらないのだが、彼女との違いは避けられているかどうか、だ。
因果応報。そう思うとともに、それが少し不憫でもあった。
「ねえ、キミ。同人誌にならない?」
これがいじめなどに発展すれば、ただでさえ俺にとっては居心地の悪い教室が、もっと居づらくなる。是非ともそれだけは避けたい。
「もしもーし」
いじめ、かあ。
学生には切っても切り離せない問題だよなあ。最近だと、いじめられる方にも原因があるとか言うよな。
「旭くーん」
(あーやっぱこれ俺に対して言ってるよねえ……)
現実逃避していたが、名前を呼ばれることでそれは抗えないものとなった。
クラスメイトに話しかけられるのが久々すぎて、なんて返すべきか分からない。
数秒考えたのち、俺が選んだ答えはこれだった。
「……ん……ふぁ」
題して『今、起きたけど、なんて言った?』作戦。
イキり中学生が休み時間の度にやってそうなことランキング一位に選ばれそうな作戦だが、そんなことは気にせず、俺はぐいぃっと背を伸ばした。
「あ、なんか、用。俺、トイレ行くわ」
喋り方がキモくなってしまったが、とりあえずこれでこの場はしのごう。同人誌にされるのは御免だ。
俺は席を立ち、廊下に向かって歩き出した。
そして、教室のドアに手をかけたとき。
「……え?」
不意に、茅ヶ崎が俺の手首をつかんだのだ。
「あの……なにか?」
振り返って、茅ヶ崎の方を見やる。
「…………」
彼女は黙りこくって、神妙な表情をしていた。
沈黙が続く。
その間、どうしたらいいのか分からず、俺はただ彼女の顔を遠慮がちに見つめるだけだった。
(綺麗な顔だな……)
綺麗な水色の瞳は吸い込まれそうだし、睫毛はモデル顔負けなほど長く、端正だ。あと、肌が白い。白人みたいだ。
そんなことを思っていた。
その次の瞬間。
「え、ちょっ……!?」
あろうことか茅ヶ崎は、俺の手首を人差し指でなぞり始めた。
ぞわり。
一気に鳥肌が立った。
微かに香る花の匂いや、その柔い指の感触が、『女子』というものを否応なしに感じさせてくる。
じっと美少女の見つめるその先が自分であることに、なんだかむず痒さを感じた。
胸のメトロノームのテンポは乱れ、ドキドキと騒いで鳴り止まなかった。
「……うん。行っていいよ」
何秒か触ったのちにようやく満足したのか、茅ヶ崎は再び微笑を灯らせると、その手を離した。
「あ……ぇぁ、はぃ……」
(おいやめろ、なんだその情けない話し方は。童貞かお前は。童貞だけど)
自分がいかに女子慣れしていないかを改めて自覚した俺は、顔を赤くして、急いでトイレへ駆け込んだ。
触れられた手首は、まだ少し暖かかった。
******
この時はまだ、知る由もなかった。
「じゃ、じゃあ脱ぐぞ……」
まさか彼女に、自らの初めてを捧げることになるだなんて。
「うん。見せて――旭くん」
甘ったるい彼女の声が、耳の中で何度も反響した。
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