ドキッ☆ 男だらけの健康診断。ラッキースケベは絶対回避! その2

 係になってしまった俺は、とりあえず猫汰に連れられて保健室へと向かった。てか、学校の健康診断って保健委員が係として手伝うんじゃないのか?


「なぁ猫汰、係って何をやらされんだ?」

「……そうだね。御竿くんは去年のこと、覚えてないからね」


 去年というより、一ヶ月前のことすら覚えてないが。


「健康診断、それは別名“シード争奪戦”。十月に行われる文化祭のシード権を獲得出来るんだよ」

「ふ、ふぅん、そっか……。それで? 係は何をすればいいんだ?」

「何を、か。別に普通だよ。測定して記入していくんだけど、僕はある項目があまり好きではなくてね……」


 説明しかけた猫汰を遮るように、がらりと保健室の扉が開かれた。立っていたのは鏡華ちゃん、ではなく、我が生徒会の会長サマである。


「か、会長……」

「やぁ、待ちくたびれたよ、御竿くん。それから……、猫汰くんだったね。今年はキミたちが係なんだね」


 俺たちは会長の無言の圧力とも言える微笑みの前に何も言えず、俺は苦笑いを、猫汰は顔を引きつらせることしか出来ない。


「さ、早く入りたまえ。早速説明に入ろう」

「っす……」

「はい」


 不安を前に、しかし俺は逃げることすら許されず。ぴしゃりと背後で無慈悲に閉まった扉に、冷や汗を隠しきれなかった。


 保健室の中には、朝飯と思われる鮭茶漬けをかき込む鏡華ちゃん。それから会長、俺たち二人と、あの巨大な一年生がいた。


「あ! 御竿先輩!」

「よぉ、久しぶりだな」


 軽く手を上げて返してやれば、下獄は嬉しそうに笑みを深くして、俺の両手を掴んで上下に思いっきり振った。痛いかと思ったが、見た目に反してあまり力はないようで、肩の関節が外れることはなく、俺は胸を撫で下ろす。


「んじゃ、会長。説明よろ」

「鏡華。仮にも保健医を自負しているのなら、生徒を頼るのもどうかと思うのだが? ふっ、まぁ、いい」


 会長は持っていた紙の束を俺たちに配っていく。一番上には自分の名前が書かれてある。ずらりと並ぶ項目を見るに、どうやら健康診断の用紙らしい。

 この短時間で俺らの名前入りの用紙を出すとか……。まじで会長怖い、人間じゃない気がしてきた。

 上から順に、よくある身長体重、視力聴力と続き、尿検査やら血液検査やら小難しいのを受け……ん? 俺は最後の二項目で、走らせていた目をぴたりと止めた。


「ポージング? セリフ? なんだこりゃ……」

「いつもやっているじゃないか。って、あぁごめん、覚えてないんだよね」

「あ、あぁ。すまん」


 申し訳なく頭を掻けば、猫汰はいつもの感情が読めない声色で「いや、構わないよ」と下獄へ自分の用紙を手渡した。


「実践したほうが早いかな。下獄くん、僕の項目の記入を頼めるかな」

「はい、お任せください!」


 にっこり笑う下獄とは反対に、猫汰はまるで試合前のような緊張した面持ちで、息をひとつ吐いて、何か覚悟を決めたように俺を正面から見据えた。その目に少し艶が見え、俺は嫌な悪寒が全身を襲ってくるのを実感した。


「ま、待て猫汰、やっぱ……ぐえっ」


 まだブレザー姿だった俺は、猫汰にネクタイを引っ張られ、無理矢理屈む形になる。少しばかり近くなった猫汰に、俺の背中から滝のように汗が流れ出した。そうしてやけに形のいい口から零れた、


「上だけじゃ、満足出来ないのかい?」

「ヒッ」


 俺は顔を引きつらせて、とっさに猫汰を引き剥がそうとした。しかし流石は柔道部。俺のか弱い(結構まじだ)力じゃ、案外どっしり構えた猫汰は引き剥がせず。


「はわわぁ、流石は猫汰先輩です! 次期生徒会長だと噂されるだけはありますね!」


 はしゃぐ下獄に「よしてくれ」と言い、猫汰は俺から離れた。恐怖やら気持ち悪さやらで、俺は足ががくがくになっているのだが。


「去年の会長のほうがすごかったよ。何せ、見学している女子だけでなく、係の生徒まで失神させたんだから」

「な、なぁ、まさかポージングとセリフって……」

「あぁ。係に対して、さっきみたいなことをやっていくんだよ。本当面倒くさいなぁ」


 面倒くさい。俺はそれだけで済ませられない、いや済ませたくない。

 なんつっても、俺は、今から男に口説かれなければならないからだ。あぁ嫌だ、そんなの絶対に!


「嫌だあああ!」

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