ベネフィセント・ルシーダ学園へようこそ! その3
「あっふ!」
揚げから滲み出た出汁に苦言を漏らす。けれども、なかなか意外にも美味しいおでんに俺は箸が止まらず、牧地に「おかわりいいっすか」と敬語を使うのも忘れて、
「もちろんよ!」
「おい、俺様の飯だぞ。これで三日は凌ぐ予定だったんだからな」
「いいじゃない。美味しいって言ってくれてるんだからぁ」
牧地は「どうぞ♪」とお代わりのお椀を渡してくれた。時計はまだ八時前、始業の鐘は八時半だから、まだ余裕はある。制服ももう乾燥だけだ。なんとか間に合うだろう。
「なんで鏡華先生は
大根をはふはふしながら聞くと、鏡華ちゃんは「あぁ?」と顔をしかめた。けれど話してくれる気はあるらしく、冷たい麦茶を一口飲んでから、
「そりゃお前、俺様は保健の先生だぞ? 二十四時間体制で、生徒の体調、怪我、心のケア、いつでも出来るようにしておかねぇとだろ」
「あー、はぁ……」
「風邪引いた奴にはお粥も作ってやれるし、いいことずくめだ。ま、たまにお前みたいな腹を空かせた奴も来るが」
「いや、俺は別に……。あ、いえ、食べたいです、美味しいなぁ」
睨まれたのを無視して、俺は二杯目の汁をずずずと飲み干した。
「でも意外ですね。先生はタバコを吸っていたり、もっと暴力的な人かと思っていました」
「ぁんだって?」
うわぁ。その顔だよ、その顔。タバコを咥えてすごんだらただのヤンキーなんだよなぁ。だけど、鏡華ちゃんはそんな俺の考えとは逆に、
「保健の先生がんな不健康なこと、するわきゃねぇだろ」
と平然と……ん?
「って、はぁ!? いや、だって、じゃあ髪! 髪はなんで染めてるんすか!?」
俺の質問に、鏡華ちゃんは今度こそ面倒くさそうに舌打ちして、それから三人分の食器を持って奥へ行ってしまった。
「んもぅ。
「ははは……」
かちゃかちゃと食器の洗う音に、俺は思わず苦笑いをする。いくら本人が気を使っても、鏡華ちゃんの中身があれじゃあ、男女問わず皆保健室に来そうなものだ。
「鏡華先生、いい人なんすね」
「でしょー! やっぱり御竿ちゃんは、アタシが見込んだだけあるわ!」
「見込まれても困るんすけどね」
ピーッピーッと乾燥機の止まった音が聞こえた。続いて、食器を洗い終わった鏡華ちゃんが扉から顔だけ出す。
「御竿、終わったぞ。早く着替えて教室に向かえ。おらカマ野郎、お前も早く行け。始業だろ」
「はぁい! さ、御竿ちゃん。また教室でね!」
そうして我が担任は、ウインクをして華麗に保健室を後にした。
「おい御竿」
「は、はい。今受け取ります!」
ふかふかのブレザーに袖を通せば、なんだか縮んでるような気がした。
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