千春くんは等分できない

Zoisite

0.17β






 【あなたのアカウントは停止されました。】



『ゲーム内で不適切な言動を行ったことが確認されたため、ゲームマスターによる審判の結果、あなたのアカウントは14日間の利用停止処分となりました。


あなたは過去に利用停止処分を二回受けているため、今回から警戒対象となります。

警戒対象はペナルティの解除後、指定された期間中に再びペナルティを受けた場合、最低でも90日間のアカウント停止となります。


また、あまりにもゲーム内でのふるまいに改善が見られないようであれば、アカウント永久停止処分もありえますので、ご注意ください』



 アカウント停止を知らせる文章が目の前に広がる。

 

「はー? あの程度でBANとかバカかよ」


 アカウントをBAN(利用停止)された男は、悪態をつきながら覚醒する。

 男は頭に被さっているヘルメット型のVR機器を乱暴に外して立ち上がると、大きく伸びをした。


 ぽーん。

 メッセージの通知を知らせるサウンドが、ベッドの傍に置いてあったスマートフォンから鳴り響く。


『ちはー』


 友人の女の子からのメッセージ。

 間髪入れず、男は巧みなフリック操作でメッセージを返す。


『なにー?』


 メッセージを入力中……。


『ゲームしよ』


『アカウントBANされたから無理』


『え

有害なプレイヤー

さいてい』


 酷い罵倒の言葉が帰ってくる。涙が出そうだった。


『リアルで遊ぼう』


 釈明の言葉を入力していると、メッセージを返す前に次の言葉がやって来る。


『シャワー浴びてくる』


『やだ

なう

なうなうなう

なう~!!』


 あまりにも我が儘すぎる返事。

 シャワーくらい浴びさせろと内心思いつつも、メッセージの送り主に良い顔したい男は、承諾して返す。


『分かった』


『なう

いそげ~

出雲自然公園』


『分かった』


 待ち合わせ場所を確認し、いったんスマートフォンを置く。

 男は余所行きの服に着替えると、駆け足でマンションの一室を出た。


 少し小走りになりながら、目的地である出雲自然公園へと向かった。


 十五分ほど掛けて到着した時、公園にいる人々の視線ですぐに彼女の居場所が分かった。

 皆の視線を一身に受けて噴水前に佇んでいる、儚げな銀髪の少女を見つけ、男は足を速める。

 近づいてくる男を見つけ、少女は花が咲いたような笑顔を浮かべ、小走りで駆け寄った。


「ちはるー!」


 ウェーブの掛かったふわふわの銀髪を跳ねさせながら、少女は男に抱きついた。

 抱きつかれた男は間違いなく身長170台後半はあるが、少女もその男と同じくらいに背が高かった。

 同じくらいの身長の少女に飛び掛かられ、”ちはる”と呼ばれた男は上半身を仰け反らせながら受け止める。


「お待たせ、ソフィア」


「待った」


 ソフィアと呼ばれた銀髪の少女は、美しい顔立ちに愛嬌を備えた最強の顔を綻ばせて、ちはるの髪にキスを落とす。

 地に降ろされて、改めてソフィアはちはるの頬にキスをする。


「デート」


「分かった」


 まだ待ち合わせたばかりだというのに、既に楽しそうなソフィアに手を引っ張られながら、ちはるも釣られるように軽い足取りでついていく。


 異国の我が儘お姫様に振り回されるのも慣れたものだ。


 なんてことはない。

 いつも通りの日常。



 ぽーん。



 小さな通知音と共に、ちはるの携帯がポケットの中で振動した。

 ソフィアと話していた彼は、携帯の通知に気が付かなかった。



『千春くん。今から、お家に行ってもいいですか?』


 我が儘なお姫様の相手で手いっぱいなのに、別の女の子からも容赦なく連絡が来る。

 

 いつも通りの日常。


 千春が女の子を相手にできる時間は限られている。


 彼女たちは、その限られた時間を奪い合う。





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