第54話 風間家の最も長い夜

「は〜い風間さん落ち着いて安静にしていてね!」


「よ、よろしくお願いします!」


 現在俺達は美和子さんの出産に立ち会う為家族全員で県立〇〇病院に来ていた。


「み、美和子〜!」


「貴方落ち着いて、しっかり産んで見せますから」


「はい、旦那さんはここでお待ちくださいね」


 ストレッチャーで運ばれた美和子さんは分娩室に入っていきます


「ああ、美和子、頑張ってくれ」


「今から何時間も掛かるんだから父さんは落ち着いて座ってな!」


 誠司が落ち着かせようとしますが、耳に入って無い模様です、高齢出産になるから心配するのもわかる、俺だって実は心配で落ち着かないもの


「由佳さんは俺と小次郎の時には立ち会ったの?」


「ああ特に大輔の時は初参だったからな、すごい時間かかって心配で泣いちまったよ、あの時ほど泰子姉がカッコよく見えた事はなかった、旦那はオロオロするばっかだったしな」


「親父か〜、殆ど記憶に残って無いんだよな〜」


「小次郎がお腹にいる時に事故で亡くなったからな、まだ大輔は小さかったから仕方ねぇ〜よ」


 小次郎と誠司と永遠が興味深そうに聞いてる、俺が薄っすら覚えているのは抱き上げられた記憶と、風呂に一緒に入った記憶だ


「美和子さん、大変だったんだろうな?」


「そりゃあな、ただお腹に残された小次郎と何より大輔、お前が居たからな、落ち込んでる暇もなかったろうよ、でも私は美和子姉のそんな強い背中に憧れたな」


 そうやって昔の会話を由佳さんとしたりして時間は流れていった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 美和子さんが分娩室に入り9時間が経った、経産にしては長い、心配になって来たぞ?


「遅い、幾ら何でも遅すぎる!」


 晴彦さんも気が気じゃない様子、そんな時医師の先生が出て来た


「先生!」


「風間さんね、臍帯巻絡になってまして臍の緒が2回程絡まってましてね、今慎重に進めていますのでもう少し掛かります落ち着いてお待ちください」


「先生、美和子は大丈夫なんですか?」


「体力の消耗が激しいのですが、本人が絶対に産むと言っております、ただ最悪の場合は帝王切開も考えて下さい」


「ああ、先生、美和子をどうかよろしくお願いします!」


「全力を尽くしますので」


 そう言って医師の先生は分娩室に戻って行った、嘘だろ、不安がドンドン増して来た


 小次郎も、兄貴〜と不安な様子


「安心しろ、俺等2人を産んでくれた母ちゃんだぞ!」


 そうやって不安を表に出さずに励ます


 更に1時間が流れて深夜3時を回った、落ち着かずにぐるぐる動き回っていた晴彦さんが突然


「やっぱり高齢出産は諦めて貰うべきだった、産んで貰うべきではなかったんだ」


 そうやって泣き崩れた晴彦さんにブチ切れた俺は思わず晴彦さんを張り飛ばす


「ふざけるな小僧! 俺の母ちゃんが今必死になって戦ってる時に貴様が真っ先に諦めるのか!」


「だが美和子がもし……」


「母ちゃんが戦ってる今、風間の家を守るのはあんたしかいないんだぞ親父!」


 俺が初めて晴彦さんを親父って言った事で、家族全員が驚く


「誰よりもアンタが風間と山名の血を受け継ぐ者の誕生を願わないでどうするんだ親父!」


 俺の発言を聞いて、はっとした晴彦さんはようやく目が覚めたのか


「わかったよ、大輔く……いや大輔、美和子が諦めてないのに幾ら何でも不甲斐なさ過ぎたな、俺ももう諦めない」


 そうしてようやく芯が入ったのか晴彦さんの表情が変わる、そんな瞬間


「オギャー オギャー」


「「「「「「?!」」」」」」


「産まれました元気な女の子ですよ、母子共に無事です!」


 真っ先に駆け込む晴彦さん、その後を追って皆で分娩室に入って行く、そこに天使がいた


 こうして風間家の最も長い夜が明けたのであった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る