Chapter 1-5 弓を使ってみます

「そうよーう……。ゆっくり、しっかりと……」

「うん……」

「あっ……だめよーう、まだ離しちゃ……ちゃんと、狙いを付けて……」

「ドラ……」

「んっ……? なによーう、きらめ」


 きらめは後ろから手を重ねているドラを、肩越しに振り返る。


「近すぎてやりにくいよ」

「しょ、しょうがないのよーう! きらめの方が身体が大きいんだから!」


 さて、解説するっしょ。

 弓の練習をするきらめに、ドラが後ろからくっついていたんだっしょ。以上っしょ。

 だから別にみんなが考えてることはなんにもしてないっしょ。はい。解説のルフェでしたっしょ」


「みんなの考えてることってなんだしー」

「ディーはまだ知らなくていいっしょ」

「僕も気になるんだけど」

「きらめもいいのよーう!」


 それはさておき。きらめたちは今、うっそうと生い茂る樹海の中にいた。

 空を見上げると、遥か雲の彼方まで伸びる大樹が否応なしに視界に飛び込んでくる。この大樹の枝にきらめたちの住むコテージがあり、妖精たちの隠れ里となっていた。


 つまりきらめたちは今、里のある大樹のふもとに降りてきていた。きらめにとってはこの世界に転生してから初めてのことである。


 転生してからの六年間、きらめは妖精たちの庇護の下で暮らしてきた。生後数か月の時に妖精たちに拾われたきらめには、この世界での両親も、名前も分からなかった。更に言えば、その容姿も前世とさして変わらない。だからきらめは、この世界でもきらめでいる。


 そんなきらめだが、里の下に降りてみたいと思ったのは一度や二度ではない。憧れの物語『スターライト・ファンタジア』の世界にやってきたのだ。冒険してみたいと願うのは悪いことではあるまい。

 しかし妖精たち――特にきらめを拾い、面倒をみてきたドラは、下は危険だからと決して許可しなかった。せめて、きらめがもっと大きくなるまで待てと言われ続けてきたのだ。


 だから今、きらめは初めての里の下にわくわくすると同時に、六歳でというのは思っていたよりずいぶん早かったなと驚いていた。きらめとしては十歳くらいまではダメかなと思っていたところだった。

 これは妖精たちよりもきらめの方が大きくなっていたこと、きらめの身体能力が非常に高いことが大きい。六歳というのは妖精たちにとってはそれなりの年齢なので、人間の感覚が分からない妖精たちにはそれで充分だったのだ。

 最も、それでも世話係を自称するドラは最後まで渋っていた。決め手になったのは、きらめの食べる量が妖精たちのそれより遥かに多くなりつつあったことだ。


 と、自分が一番渋っていたことも忘れてきらめといちゃつくドラを抑え込みつつ、妖精たちはきらめに狩りの基本を教えていく。きらめの弓の腕はすさまじく、狙った場所に寸分違わず当てることができていた。


「きらめには、弓の神様の加護があるのかもっしょ」

「神様……」


 神様と聞いて、きらめの脳裏にはあのあごひげの老人が浮かんでいた。

 なんとなく、きらめは心の中でお礼を言って、頭を下げるのであった。

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