アドリブの演技
昼食は海鮮パスタをいただき、読書の時間。私が読んでいるのは決まってミステリー小説だが、和咲が読んでいるのは恋愛小説だ。二人の読書の時間は少々特別で、決まってあることをすることになっていた。
「全部……今までのことが全部、偽りだったというの?」
スイッチが入った。私は今までページをめくってきた小説の文章を思い出し、これはと思う言葉を返した。
「偽りとは失敬な! 私はただ、勘違いをしていただけで……ほ、本当だ! わ、私は誓って犯人などではない!」
和咲が後を続ける。
「いいえ。あなたはひどい人。財産も地位も名誉も好きにしてよかった。だけど、私のこの心をも盗んだあなたを許しておくことはできないわ!」
アドリブでの掛け合い。お互いにジャンルも内容も全く違う小説の中の台詞をまるで一本のストーリーのように繋げる遊びだ。
「……推理、というほどでもないのですけれどね。真犯人はあなたではありませんよ。……そう、今回の一連の事件の犯人は、別にいるんです!」
「あなたの口から言い訳など聞きたくなんてありませんでした。好きか嫌いかどちらかしかないはずでしょう? この際、ハッキリとおっしゃってください。私のことは好きですか? それとも嫌いになられたのですか?」
いよいよ演技に拍車がかかる──というところで和咲はハードカバーの本を閉じた。ふーっと息を吐くと、にこやかに笑って私の方を見る。
「実に気になるところですが、物語の結末は明日に取っておきましょう」
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