59.魔術が役に立たないのはキミのせい
先程よりも強くなった刺激に、ソラは目を見開いて甘い声を上げた。
舌先で転がすように舐められれば、快感が全身を走り抜け逃げ出したくなる。
だというのに、空いている手でもう一方の胸も弄られてしまい、更に強い刺激となって襲いかかった。
「ぷ、らどっ、やめ……っ」
制止の声を上げてもプラドは全く聞く耳を持ってくれない。それどころか、執拗にそこばかりを攻めてくる。
激しさを増す愛撫に思考が溶けていく。
「も、や……だっ」
こんな所、今まで意識した事も無かったのに。
変わっていく自分の体が滑稽に思えて、けれどこんな時は魔術は何の役にも立たなくて。
今まで何でも魔術で解決してきたのに、この熱はどうすれば解決出来るのか検討もつかない。
だからだろう、プラドから与えられるものはいつまで経っても、縋り付きたくも泣いて逃げ出したくもなる。
持て余した感情が涙になって流れれば、気づいたプラドがそっとぬぐった。
「──ンな泣くな。お前は……ソラは何も変じゃないから」
胸元から顔を上げたプラドが、ソラの前髪をかき上げて額にキスを落とす。
「ソラは綺麗だ」
「……今は、変だ」
「変じゃない、ますます綺麗だ」
「……じゃあプラドが変なのか?」
「……このやろう」
頑なに認めないソラに、プラドが吹き出しコツンと額を合わせる。
「お前は何もかも綺麗だよ。綺麗すぎて困るのに、どんどん綺麗になりやがって……」
そういうプラドの瞳は、綺麗なものを、ずっと手の中に閉じ込めておきたいほど繊細で綺麗なものを見る目をしていた。
綺麗だと言葉をかけられた事はある。
その者の主観ではそうなのか、と考えるだけでそれ以上の感情は芽生えなかった。
けれど、プラドに綺麗と言われるのは、困るくらいに心が揺さぶられる。
「……プラドが変わり者で良かった」
「まだ言うか」
「プラドには綺麗と思われていたい」
「……」
プラドの目が細められる。
そして「じゃあ一生変わり者でいてやる」と、熱い吐息を吐いてソラの体に手を這わせた。
もっともっと、綺麗なお前見せてくれ、と言いながら。
* * *
ソラが目覚めると、カーテンから白い日の光が差し込んでいた。
窓が開けられているようで、風になびくカーテンをぼんやり眺めながら背中の温もりを感じる。
ここはベッドの上だがソラは横になっておらず、背後からたくましい腕に抱かれて上半身を預けている姿だった。
背後の彼ごとシーツに包まれて、大きな手はソラの腹部に添えられ治癒魔術をかけている最中のようだ。
「……おはようプラド」
「あぁ、起きたか。おはようソラ」
眠気が抜け意識がしっかりしてきたので、先程からソラの背もたれになっているプラドに声をかける。
そして座り直そうと体をもぞもぞ動かし、あまり体勢の変わらないまま諦めたようにプラドの胸にもたれかかった。
「……悪い」
「……」
プラドに謝られたのは、今回もやり過ぎた自覚があるからなのだろう。
軋む体で思うように動けなかったソラは、一つ息を吐いて返事をする。
「プラドが止めてくれと言っても止められないのはもう理解している」
「……すまん」
叱られた飼い犬のようにシュンとしたプラドは、甲斐甲斐しく治癒魔術をかけながら謝罪を繰り返した。
そんなプラドに怒る気にはなれず、少し体をずらして斜め上にあるプラドの顔と視線を合わせた。
「私も反省すべき点はある」
「どんなだ?」
「理論上、魔術でプラドを止められるはずなんだ。だがそれができない」
「……何でできないんだ?」
「プラドに触れられるとプラドの事で頭がいっぱいになって魔術どころではなくなる」
「……っ」
「私の鍛錬が足りていないのだろう」
困ったもんだ、とプラドの頬に頬ずりするが、本当に困っているのはおそらくプラドの下半身だ。
「……あー、誘ってるわけじゃないんだよな?」
「誘う? 朝食にか?」
「いや、何でも無い……ちょっと素数数えるから朝食は待ってくれ」
「ふむ?」
ソラの肩に顔を埋めてブツブツ呟き出したプラド。
変わった朝のルーティンだなと思いながら、ソラは治癒が終えるまで暇なので頬ずりしながら待つことにした。
そのおかけでプラドの邪念がなかなか振り払えず、二人は遅い朝食をとることになった。
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