52.知りたい

 

「……ッ、ん……くぅっ」


 くぐもった声と、荒い息づかい。そしてくちゅくちゅと響く粘着質な水音。

 そのどれもがプラドの耳を犯し、興奮を昂めた。

 排泄しか知らなかったソラの秘所。今はプラドの指が二本入り込み、わざと音を立てるように抜き差しされている。


 初めは戸惑い足を閉じそうになったソラだが、大丈夫だとキスをしながらなだめたら、素直にしたがった。

 ソラは想像もしていなかった行為と快楽に、怯えたように体を震わせたが、プラドを止める事はなかったのだ。

 それはおそらく、プラドを絶対的に信用しているからなのだろう。


 そして今は、控えめに足を開いて声を抑えながら、与えられる快楽に耐えていた。

 ソラは両手で口を塞ぎ必死に声を抑えるが、瞳からは抑えられなかった涙がこぼれていた。


「はぁ……っ、メルランダ、大丈夫か……?」


 こぼれる涙を舐め取りながら、荒い息のプラドが問う。

 優しい声につられて開いたまぶた。長いまつ毛の隙間から潤んだ瞳がのぞき、ランプの灯りできらめいた。


 日が沈んでようやく、明かりも付けずにベッドに入ったのだと気付いた。

 気づいてすぐにランプへ火を灯したが、ソラはいやいやと首を振った。

 おそらく羞恥心からか明かりを嫌がったのだろうが、暗いと何も出来ないだろうと説明すれば、少し悩みながらも納得してくれた。

 正直、暗闇でもかわいがれる自信はあるが、今のソラを一つも見逃したくなかった。


 だってこんなにも美しいのに。


 恋人に嘘をついてでも眺めていたいなんて、我ながら浅ましい。自嘲し、それでも止められずに見つめながら、三本目の指をゆっくり挿れていった。


「ふぅ……んっ」


 とろとろにとろけたソラは、指が増えた事に気づかないようだ。

 ただ中を擦る刺激が僅かに強くなって、また体を跳ねさせた。


 プラドが用意していたローションは、ポーションの成分が入っている。痛みを和らげリラックスさせる効果がある物だ。

 ソラに苦痛を与えないように、気持ちよさだけを拾えるように。ゆっくり時間をかけて愛撫を続け、ソラが快楽でトロトロになった頃に、プラドはソラ自身にも手を伸ばす。


「ぅん……っ、はっ、ぷらど……」


 それはすっかり熱く硬くなり、透明な液で濡れそぼっていたが、まだ後ろだけの刺激ではイケないようだ。

 しかし確実に快楽を覚えようとしている。指を出し入れするたびに腰が揺れ、それに合わせてピクピクと脈打つ。

 ソラの中は熱く、柔らかい肉壁できゅうっと締め付けてくる。

 ここに自身を埋めたら、どれほど満たされるだろうか。

 だが──


「──……はぁ、メルランダ……ッ」


「ぅ、あ……?」


 プラドは強く奥歯を噛み締め、何かに耐えるような顔をしてソラの体をうつ伏せにした。

 突然体の向きを変えられたソラは、とろけきった顔のまま頬をシーツに沈めて、ぼんやりとプラドを見上げる。

 長い髪が背中に汗で張り付き、体のラインを流れる様すら艶めかしい。

 速い呼吸で上下する背中をつーっと指で辿れば、大袈裟なほどソラの体が反応する。

 腰を掴んで体の下に枕を入れれば、指を抜かれた穴がひくひくと卑猥な姿をプラドに見せつけた。


 ふぅっ、ふぅっ、と、プラドは食いしばった歯から野獣のような息を吐く。

 ジー……、とズボンのジッパーを下ろせば、痛いほど勃ったものが待ち望んでいたかのように勢いよく飛び出してきた。

 触ってもいないのに先走りで濡れたそれは、目の前の恋人を欲して脈打つ。


「……っ、あともう少しだけ……付き合ってくれ」


「……プラド……──?」


 プラドのどこか苦しそうな声が気になったのか、ソラは囁くような小さな声で名を呼ぶ。

 しかしプラドは返事をすることもなく、ソラの細い腰を掴んでさらに上げさせ、自身をあてがった。

 そして……


「ふ、ぁ……!? んっ、んっ!」


「はぁっ、はっ、く……っ!」


 閉じた太ももの隙間にねじ込み、激しく腰を振った。

 固く熱いものがソラの陰囊と裏筋を擦り上げ、強い刺激に思わずソラの体は逃げそうになる。

 しかしプラドはそんなソラの体に背後から覆いかぶさり、逃すまいと腕の中に閉じ込めた。

 獣のように荒々しく呼吸を繰り返しながら、ひたすら己の快楽のために体を動かす。

 その動きに合わせて、胸の中の細い体が跳ねた。


「んんっ、 はぁっ、ぅんん……っ」


「……ッ、はぁ……っ!」


 ぐちゅぐちゅという水音と共に、二人の体液が混ざって床に落ちていく。それが潤滑油となって滑りが良くなり、さらに激しくなる快楽。

 ソラは声を出すことを耐えるように、必死に唇を強く噛む。

 だがそれでも零れる吐息は熱を帯びていて、十分すぎるほど甘い。

 やがて限界を迎えたプラドが一層強く腰を押し付けた瞬間、ソラの背中が大きく仰け反った。


「ん……っ! ふ、ぅ……っ」


 プラドがソラの太ももに欲を吐き出せば、腕の中の体も大きく跳ね、余韻に浸るようにぴくぴくと痙攣する。

 プラドは密着させていた体を一度離し、ハッハッ、と速い呼吸を繰り返すソラの額にキスを落とした。


「悪い……無理をさせた」


 慣れない快楽に耐えられず流した涙を優しくぬぐってやり、乱れた髪を撫でる。


「もう終わったからな……泣かせて悪かった」


 まだ呼吸が整わないソラの耳元で囁やき、よく頑張ったと頭を優しく撫で続ける。

 ソラの体が落ち着いたら隅々まで洗浄してやって、自分の服を着せて抱きしめて寝よう。

 そう、プラドが考えていたら、ソラがぼんやりと自分を見ている事に気付いた。


「……おわり……、なのか?」


「あぁ……もう何もしないから安心しろ」


「……」


 そう伝えて、もう休んで良いと安心させるように頭をぽんぽん撫でる。

 しかしソラは、ぼんやりしているはずなのに、何かを訴えるような視線をプラドに送る。


「プラド……」


「うん?」


 腕の中で動こうとするから体を離してやれば、ソラはシーツを握りしめていた手を後ろに伸ばした。


「ここを……あつかったのは何故だ……?」


「……っ!」


 そして、あろうことか、ソラは自身の尻に手を当てた。

 プラドが息を呑むなか、ソラは上げられた白く柔らかな尻たぶに指を食い込ませ、見せつけるように割り開く。白い肌に赤く色づいた秘肉が、震えながら姿を現す。


「……なぁ、プラド……」


 駄目だ、とプラドは叫びそうになる。


「私は、何も分からないが……ここに入れたかったんじゃないのか……」


 違う、なんて、言えるはずもなく。けれど──


「プラド、教えてほしい……」


 ──やめろ、駄目だ、と歯を食いしばる。

 お前から誘われたら、俺はただの馬鹿な男になってしまう。

 何も知らない無垢で綺麗なソラ。

 いきなり男を教え込むなんて、酷なことはしたくない。

 傷つけたくない、怖がらせたくない、なのに──


「私はプラドと、すべてを知りたい……」


「……クッソ……ッ!!」


 ──人の気も知らないで……っ!

 抵抗できるはずがない誘いに激怒する中、プラドの理性を繋ぎ止めていた最後の糸が、プツリと切れた。


 

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