49.プラドの部屋で

 

 プラドの部屋に行く最中、お互い一言も話さなかった。

 部屋に着き、ソラの手を引いて招き入れ、立ったままでキスをした。


「──……嫌か?」


「……ビックリした」


 抱きしめるでもなく頬に触れるでもなく、唯一繋がれた手だけはそのままに。唇だけを寄せるキスを、ソラは受け入れた。

 コツンと一度額を合わせ、またどちらともなく唇を寄せる。

 次第に深くなる口づけにソラの体がよろければ、プラドの体もそれを追う。

 気づけばドアと自分の間にソラを閉じ込め逃げ場を奪うようにして、何度も角度を変えながら舌を絡めて貪っていた。


「ん……ふぅっ」


 ソラの吐息すらも飲み込むような激しい口付けを交わす。

 握られていたはずの手は、いつの間にか細い腰を抱いて体を密着させていた。


「んっ、ん……っ」


 舌先を絡め、歯列をなぞり、上顎を擦れば、びくりと跳ねる体。

 それでも拒む事のないソラにプラドの心は歓喜し、ますます体は熱くなる。

 夢中で貪っていると、ソラが身じろぐ。

 そこでやっと少し苦しそうに眉を寄せたソラに気づき、プラドは慌てて顔を離した。

 透明の糸が二人を繋ぎ、すぐに切れる。

 頬をつたう唾液を指先で拭ってやれば、ソラの瞳は涙の膜で潤み、苦しそうに熱い呼吸を繰り返す。


「すまない、つい……」


「いや……上手く出来なくて、すまない……」


 まだキスをしていたかったのがソラにも分かっているのだろう。

 けれど相変わらず呼吸がうまく出来ないようで、熱い呼吸を繰り返しながら謝るソラ。

 その弱った姿すら、体を昂らせる。

 紅潮した頬は白い肌に色を添え、うるんだ瞳は庇護欲と嗜虐心が煽られる。

 もっと触れたい。もっともっと深くまで──。

 そう思うのは自然な事で。


「……っ、嫌なら殴ってくれ」


「……!」


 ソラの体を抱え上げ、大股でベッドに向かう。

 広くない部屋は数歩でベッドに着き、ソラを下ろしたプラドは着ていたローブを床に脱ぎ捨てた。

 靴も履いたままベッドに下ろされたソラは、一瞬何が起こったか分からなかったようで目を瞬く。

 だがプラドの様子に状況を理解したようで、ソラも自らローブを脱いだ。

 その間にプラドはソラの靴を脱がせる。そのまま流れるように靴下も脱がせ、足の甲に口づけを落とした。


「……っ、プラド、それは、恥ずかしい……」


「嫌なら殴って良い」


「嫌、では……ないんだが……」


 頬を染めて困ったように俯き呟くソラの姿に、プラドの中の何かが振り切れそうになる。

 ずるい言い方だと己でも分かっているが、こんなに可愛い反応をされてはクセになりそうだ。

 もっといじめたい欲をコクリと飲み込み、上半身を起こしていたソラをベッドに押し倒す。

 そのまま深いキスを交わし、時折呼吸の隙を与えてあげながら、片手でゆっくりとボタンを外した。

 キスだけでいっぱいいっぱいのソラは、おそらく脱がされていると気づいていないだろう。

 全てのボタンを外し終え、唇を解放してやる頃にはすっかり息が上がり瞳も潤んでいた。

 その様子に満足げな笑みを浮かべるプラドは、耳元へ顔を寄せ囁く。


「メルランダ、愛している」


 ピクリと、ソラの体が揺れる。

 愛してるなんてキザなセリフを自分が吐くなんて、昔なら想像も出来なかった。

 けれどソラには、確かにこの言葉がピッタリだとプラドは思った。


「ん……私も、愛してる」


 そう言って微笑むソラは、言い表せないほど綺麗だった。

 もう一度唇を合わせれば「ふ、ん……」と鼻を抜ける甘い声。

 普段からは想像出来ないような艶っぽい姿に、プラドの中でまた理性が崩れかける。

 それを何とか抑え込み、口づけを終えて首筋から鎖骨にかけて舌を這わせた。

 そこでソラはやっと自分が脱がされている事に気づいたようだ。


「あ、の……プラド。それは必要か……?」


 脱がされているのにも驚いたようだが、それより肌に舌を這わせられた事にも驚いているようだ。

 予測はしていたが、やはりソラは色事の知識がまったく無いのだと確信する。

 そうなるとますます興奮しそうになるが、知らないからこそ、優しくしたいとも思う。

 自分の手で、すべてを教えたい。ソラの快楽は、自分が教え込みたい。


「俺が……したいんだ」


「……そうなのか」


 また「嫌なら──」といじわるしそうになるのをグッと押し込み、出来る限り、穏やかな声で言った。

 ソラはその言葉に納得したのかしていないのか分からないが、それ以上何も言わなかった。

 そのまま、胸元へと唇を落としていく。


「ん……」


 少しくすぐったいのか、ピクリと身体が小さく跳ねた。外気に晒され固く尖っている突起を口に含み舌先で転がすと、ソラが小さく息を飲むのを感じた。


「は、ぁ……プラド、私は、どうするのが、正しいん、だ……?」


 吐息を吐きながら、そしてプラドの指先や舌の僅かな動き一つ一つに敏感に反応しながら、ソラが問う。


「二人の秘事なんだ。何が正しいかは二人で決めれば良い……メルランダはどうしたい?」


 そう言いながら、今度は反対側の乳首を口に含む。

 ちゅっ、じゅる……っ、と、わざと音を立て吸い付けば、ソラから切なげな声が上がる。「ん、ん……」と我慢出来ない声を漏らしながらも、ソラは懸命に口を開いた。


「……私も、プラドを脱がしたい……」


 恋人の可愛らしいおねだりに、プラドは喜んで応えた。

 少し名残惜しいが、白い肌から一度体を離してソラが動きやすいようにする。

 距離ができた事でプラドの視界も広がり、美しく愛しい人を己のベッドに押し倒している事実を今さら実感した。この光景だけで、下半身がはしたなく反応してしまう。

 そんな我慢を強いているとは知らないソラは、たどたどしい動きでプラドのシャツに手をかけた。

 少し恥ずかしそうに、それでも真剣な眼差しで己を脱がそうとするソラに、期待は膨らむ。

 そして、ソラの指先が少し光ったかと思うと……


 スパァーーーーン──ッ


 ……と、プラドのシャツが粉々に弾け飛んだ。

 下半身が少し縮こまった。

 

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