17.思わせぶり

 

 またもやプラドの口から出てきたとは思えない言葉を投げられたが、ソラはもう戸惑わない。

 やはりまだ妙な魔術にかかったままなのだろうと確信を深めただけである。

 ならば今からでもプラドにかかった魔術を特定する必要がある。しかしプラドに触れないと魔力の流れは感じ取れないし、今のソラは自ら動けない。

 さてどうしたものか、と考えて、プラド本人に動いてもらう事にした。


「プラド」


「……」


 未だに惚けた様子のプラド。そんな彼に見せつけるように、胸元にたれていた髪を一房掴み目線の位置まで掲げた。

 プラドは髪がどうとか言っていた。つまり今のプラドは己の髪に関心があるようだ。どんな魔術なのかは知らないが利用しない手はない。

 そう考えての行動だったが、プラドは視線で追うもののその場から動かない。

 ならば、と今度は残っていた保存食を取り出してみた。ソラにとっては自慢の料理をもう一度差し出してみたが、これも無反応だ。

 さてどうしたものか。魔術が使えない今、やれる事が限られていて非常に不便だ。魔術が使えるのであれば偶然を装いいくらでもプラドをこけさせたり滑らせたりするのだが……

 と不穏な思考がソラの頭を巡っていた時だ。


「──クシュッ」


 小さなクシャミがソラから飛び出す。

 同時に頭から大きな何かを被せられた。


「これでも着てろ!」


 大きな何かはプラドのローブで、いつの間にかプラドが隣で仁王立ちしていた。

 ソラは、『有り難い』や『ローブを借りて申し訳ない』と思う前に『これはチャンスだ』と思った。


「……っ!?」


 仁王立ちしながらもどこか顔を赤くしてそそくさと去って行こうとしたプラド。

 そんな彼のズボンの裾を握って引き止めれば、驚いた顔で立ち止まった。

 せっかく検証対象が自らそばに寄ってきたのだ。魔術馬鹿のソラがそのチャンスを逃す筈もない。

 とはいえ、どうやって引き止めれば良いか分からず、おずおずと視線だけでプラドの表情を伺う。

 けれどやっぱりどう言えば良いか分からず仕舞いで、だからソラが言えたのは「……隣に座らないか?」とのお願いだけだった。


「…………お、お前ガ、ソウ言ウナラ」


 しかし、効果は抜群だった。

 モゴモゴと口を動かしながらゆっくり腰を下ろしたプラド。

 立膝をして隣に座ってくれたが、なぜか不自然にソラとは真逆の方を見ている。

 けれどこれはこれで好都合。そう思いながらソラは手が届くようになったプラドの肩にそっと触れてみた。

 ピクリと肩を震わせたプラドだが、避けられもはたき落とされもしなかった。

 これ幸いとソラは調子に乗り、一つ一つの魔力の動きを確かめるように手のひらを滑らせていく。

 肩から腕、肘、そしてプラドの手のひらに辿り着いた時、プラドがぎこちない動きでそのままソラの手を握りしめた。


「……?」


 やはり嫌だったのだろうか。

 掴まれてしまった手は動かせなくなり、謝ったほうが良いだろうかと悩む。

 すると握られた手の指を絡め取られ、親指で手の甲をスリスリとくすぐられた。少しくすぐったい。

 よく分からないがこのままで良いのであれば、検証を続行しようと考えた。

 幸い素肌同士が合わさっている。これならば体内の魔力も感じやすいのである程度は続行できるのだ。

 だからソラはまぶたを閉じ、プラドの魔力に集中し始めた。

 全身は無理でも、時間をかければ半身ほどの範囲を探れるだろう。

 血液の流れを感じ取り、それに乗せるようにプラドの魔力を変換して探っていく。

 途中体が温かくなってきたが、プラドの魔力が流れ込んでいるのかと考えて気にせず続けた。

 片腕を細部まで探ったが、やはりおかしな魔力は感知出来ない。

 だから少しずつ範囲を広げて、肩から胸元へ意識を移す。


「……はぁ」


 しかしそれ以上は探るのは難しかった。通常であれば簡単に出来るのだが、いかんせん今のソラは魔力が空だ。

 やはりプラドの魔力を辿るだけの検証は難しかったらしく、もう少し回復してから再開しようか。と考えてまぶたを開いた。

 目を開けたそこには、瞳を閉じたプラドが居た。

 いつの間にか後頭部は大きな手で固定されていた。

 そして、プラドと唇同士が合わさってた。


 

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