ドレンダレン王国の現状
ヴィルヘルミナは
王都はエフモント公爵領とは違い、秘密警察が多く置かれている。ベンティンク王家に反対する者など、反乱分子をすぐに捕らえることが出来るようにしているのだ。
誰がどこで何を聞いているか分からない。ふとしたことで自分が捕まるかもしれない。捕まるということは、吐き気がするような拷問を受け、最悪処刑されるかもしれないということ。その恐怖から、王都の雰囲気はどこか暗かった。更に、裏路地には貧しい人々がうずくまっていたり、餓死者などの遺体がゴロゴロ転がっていた。
(……酷い様子だわ。街行く方々の表情も暗い……)
馬車の中からその様子を見たヴィルヘルミナはタンザナイトの目を大きく見開き、ショックで言葉が出なかった。
「ミーナ、驚いたか?」
ラルスは心配そうにヴィルヘルミナを見る。ラピスラズリの目は少し悲しさが見える。
「ええ……。ドレンダレン王国が現状良くないことは、お
ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を悲しげに伏せる。
「うん。ミーナのその反応が当たり前だよ。だけど、国の現状に慣れてしまった方々も結構いるんだ。悪徳王家の騎士団の中にも、諦めて死んだように息を潜めて生きている人もいるよ」
マレインもクリソベリルの目を悲しげに伏せ、苦笑する。
「ミーナには見せたくなかったんだがな……」
ラルスはボソッと呟き、ため息をついた。
(エフモント公爵領はかなり平和だったのね。王都みたいに、餓死者はいないし貧困もあまりない……。子供達や領民の表情も明るかったわ。
ヴィルヘルミナは外の様子から目が離せなかった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
その日の夜。エフモント公爵家の
「ヴィルヘルミナ、大丈夫かい? さっきから食が進んでいないよ」
夕食中、テイメンは心配そうにヴィルヘルミナに目を向ける。
「お
ヴィルヘルミナは俯く。声も沈んでいる。
(王都の様子を見たら、ゆっくり食事を楽しんでいられないわ……。ベンティンク家からの抑圧や貧困……問題がたくさんよ)
ヴィルヘルミナは王都の様子を思い出し、ため息をつく。
目の前の栄養バランスがしっかり考えられた、いつもの豪華な料理を食べる気になれずにいた。
「
ヴィルヘルミナのタンザナイトの目は悲しみに染まっていた。
「ヴィルヘルミナ……。確かに、王都の状況はあまり良くない。他の地域も同じだ。私達は領民の為にお金を使ったり、領民の税を軽減したり、せめてエフモント公爵領があんな風にならないようにすることしか出来ない……。全てを選び取ることは、難しいんだ」
テイメンは心苦しげであった。彼もドレンダレン王国の現状を変えたいという思いはあるが、それが出来ずにいる。
「ヴィルヘルミナ、
ペトロネラの表情は
「貴女は真っ直ぐ優しい子に育ったのね」
愛しむようにヴィルヘルミナを見つめていた。
ラルスとマレインはヴィルヘルミナを見守るのであった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
夕食を終えた後、ヴィルヘルミナは
その時、扉がノックされた。ラルスとマレインだ。
「ミーナ、大丈夫か?」
「思い詰めてない?」
二人共心配そうな表情である。
「お義兄様……」
ヴィルヘルミナは悲しげに俯く。
「正直、こうなるからミーナを王都に連れて行きたくなかったんだ」
ラルスは複雑そうに表情を歪めている。
「しかし兄上、ミーナは今年十五歳です。
「ああ、マレイン。分かってるそんなこと」
マレインは眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっていた。
少しの間、沈黙が流れる。
そんな中、マレインが柔らかな口調で微笑む。
「ミーナ、気分転換にダンスの練習をしたらどうだい?
「マレインお義兄様……」
ヴィルヘルミナはマレインの笑みに、少しだけホッとする。
「そうですわね。最近ダンスの練習が出来ておりませんでしたわ。お義兄様方、お付き合いいただけますか?」
ヴィルヘルミナはふわりと微笑む。少し元気が戻ったように見えた。ラルスとマレインはその様子に少しホッとする。
「最初は……兄上とダンスをしたらどうかな?
マレインは優しく微笑みそう提案する。
「ええ。ラルスお義兄様、お願いしますわ」
「……ああ。その代わり、俺の足を踏むなよ、ミーナ」
ラルスもいつもの調子が戻り、そう憎まれ口を叩く。
「踏みませんわよ。ラルスお義兄様が余計なことを仰らなければ」
ヴィルヘルミナは悪戯っぽく笑った。
こうして、ヴィルヘルミナはラルスとダンスを始める。ラルスとのダンスは彼に全てを委ねたら導いてくれるようなものだった。全てから守ってくれるような頼もしさがある。しかし……。
(ラルスお義兄様とのダンスは……全てをお義兄様に決められている感じだわ……)
ヴィルヘルミナはどこか窮屈に感じていた。
「上手だったよ、ミーナ。兄上と息ぴったりだ」
ラルスとのダンスが終わり、マレインはそうヴィルヘルミナに笑みを向ける。
「ありがとうございます、マレインお義兄様」
ヴィルヘルミナはふふっと口角を上げた。
「足を踏まれなくて安心したよ」
悪戯っぽくニヤリと笑うラルス。
「もう、ラルスお義兄様ったら」
ヴィルヘルミナは軽く抗議した。
「ミーナ、今度は僕とダンスしてくれるかな?」
マレインは甘い笑みを浮かべ、ヴィルヘルミナに手を差し出す。
「ええ、よろしくお願いしますわ。マレインお義兄様」
ヴィルヘルミナは品良く微笑み、マレインの手を取った。
マレインのリードは優しく安心感があった。しかし、それだけではない。マレインはヴィルヘルミナのペースにも合わせてくれていた。ヴィルヘルミナが激しくステップを踏みたい時にも付き合ってくれる。
(マレインお義兄様とのダンスは……自由というか、
ヴィルヘルミナのタンザナイトの目が輝いた。マレインはそんなヴィルヘルミナに甘く優しい笑みを向ける。
ほんの少し体温が上がり、ヴィルヘルミナの心臓が少しだけ跳ねる。
(体が熱いのは……ダンスをしているからよね……?)
ヴィルヘルミナは少しだけマレインから目を逸らした。
ほんの少し変化したマレインへの気持ち。ヴィルヘルミナにはその気持ちの正体がまだ分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます