第28話
「ただいま」
「何かあった?」
母さんがいきなり疑問の言葉を投げかけてくる。
「何があったってどういうこと俺は別に何もないけど?」
何気ない口調で言葉お返す。
「なんともないんだったら別にいいんだけど」
母さんはそう言いつつも真剣な目を俺に向けてくる。
母さんのその真剣な目には見覚えがある。
俺が昔いじめられているということを伝えた時今のような真剣な目をして怒っていた。
「夜ご飯もうできてるから手洗ってさっさとリビングの方に行きなさい」
「ああ、分かった」
言われた通り洗面所で手を洗いリビングの方に向かう。
「父さんもまだ帰ってきてないんだ」
「お父さんはあともう少し仕事終わらせるの時間かかるみたい だから先に私たちだけでご飯食べちゃいましょう」
「ねぇ…」
「何?」
「今のクラスの生徒にいじめられてない?」
母さんからのいきなりのその言葉に俺は思わず息を飲む。
「特に今んところは何もないよ」
「今のところはってことは何かされそうな雰囲気があるってこと?」
「分からない」
本当のことを言えばもういじめにはあっているのだがまだ耐えきれないほどじゃないので言うほどのことでもないだろう。
「もしかしてこの前話してた友達が落ち込んでたっていう話も何か関係があったりするの?」
「…」
「はぁあんたがそう言って簡単に口を割るわけもないか」
「あんたが何かあった時に周りの人を巻き込みたくない性格だっていうのは母さんよくわかってるけど本当に何かあった時は相談してきなさいよ」
その言葉には小さく一言ごちそうさまと言って寝る準備を全て終わらせ自分の部屋に戻る。
布団を引いてその上に横になる。
「金井が俺をSNSで紅葉の悪口を書き込んでいる犯人に仕立て上げたかったんだとしたら何でわざわざそんなことを」
もう何度も考えた可能性ではあるが進藤に自然に近づくのが目的だったんだとしたらなんでわざわざトイレで叫んで人を集める何ていう大がかりなことをしたんだ。
進藤の株が下がると前に言われたことがあるがそう言っている本人に対して何か害を与えたつもりはないしその記憶もない。
そういえば少し前まで俺に対して進藤に近づくなと言われひっぱたかれたこともあったが。
最近は全くそれがなくなった何か今回の件と関係があるのか?
しばらく考えてみたが答えは出せずその日は眠りについた。
その日は何となく早く学校に行って学校の図書館で喋る気にはなれず普通の生徒が学校に向かう時間帯に家を出る。
自分の教室に入ると俺の机が昨日と同じように落書きをされいろんなものが産卵している。
幸い俺にとっては予想通りのことだったので特に驚くこともなくいたって普通に席に座り掃除をする。
周りの生徒の何人かはその俺の平然とした態度に驚いているようだったがこんなの1年前にされたいじめに来られたらどうってことはない。
珍しく進藤が少し遅れてやってくる。
というより俺が図書館に立ち寄らないでこの教室に来たことがあまりないのでこれが通常運転なのかもしれない。
「おはようございます」
「おはよう…」
「って大丈夫かそれ!」
俺の机の上に広がっている悲惨な光景を見て驚きの声を漏らす。
進藤は特に何も言わずにテーブルの掃除を手伝ってくれる。
俺も特に何も言わずにテーブルの掃除を続ける。
ここで手伝わなくてもいいですよと言っても気にするなと言っていつも通り優しく笑いかけられ手伝ってもらう未来が目に見えている。
先生が教室の中に入ってくるギリギリで見られても怪しまれない程度には綺麗にしそれから2人で何食わぬ顔でいつも通り席に座る。
お昼休みの時間になり特に何の理由もなくグラウンドにあるベンチに休憩がてら座る。
「え!」
ベンチに座ってみると尻の下に何かが張り付いているような妙な感触を感じる。
確認してみるとチューインガムが尻に張り付いていた。
しかも大量に!
めんどくさいなあと思いながらもさすがにこのまま学校の中で過ごすわけにはいかなかったので持ってきていた着替えを使うことにした。
着替えを持ってトイレに行き履き替える。
後少しだけお昼休みがあったのでさっきと同じようにベンチに座ることにした。
掃除をしたのでもうガムが尻につくことはない。
特に何を考えることもなくただぼーっとしていると。
「篠崎くん?」
聞き覚えのある声。
声が聞こえる方に顔を向けてみるとそこには紅葉が立っていた。
「隣座ってもいい?」
「どうぞ」
短く言葉を返し少し横にずれる。
「私はよく知らないけどこの前色々あったみたいだね」
おそらく俺が女子生徒を男子トイレの中に無理やり連れ込んだという濡れ衣を着せられたあの事件のことを言っているんだろう。
「そうですよ…だから紅葉さん俺と一緒にいたりなんてしたら根も葉もない噂が立ちますよ」
若干投げやりな口調で言う。
「私は大丈夫だよ」
「でも大変だったよね2人SNSに悪口を書き込まれたりして」
「不思議なんですよねなんで俺の悪い噂なんかを広げようとしたのか?」
「俺の悪い噂なんて広めたって意味ないのに」
「いつまでもこんな暗い話ししてたって仕方がないし今日私と一緒にゲーセン行かない」
「俺は別に構いませんけどいいんですか俺なんかで?」
一緒にゲーセンなんかに行ってしまったらこの学校の生徒たち全員から殺意よりも怖い視線を浴びることになりそうだが。
「一緒に行きたくないんだったら自分から誘ったりしないよ」
面白おかしそうに笑いながら言う。
それからしばらくして放課後になり下駄箱の前で待っていると。
「ごめん待った!」
少し慌てて俺の方にかけてくる。
「全然大丈夫です」
「それじゃあ行こうか」
「はい」
言われるがままに後ろについていく。
「紅葉さん普段ゲームとかやったりするんですか?」
「そこまでやらないかなやったとしてもスマホゲームぐらい」
「さて今日はどこのゲーセンに連れて行ってくれるのかな?」
「え!」
「え!」
てっきり行きたいゲーセンがもうすでに決まっていてそこに連れて行ってもらうつもりでいた。
「もう行きたい場所決まってるんだと思ってました」
「もうだめだよこういう時男の子が女の子をリードしてあげないと」
冗談ぽく怒った口調で言う。
その価値観は少し古いような気もするがそんなことを言ってしまっては機嫌を損ねてしまうかもしれないので黙ってをく。
進藤と前に行ったことのあるゲーセンに連れて行こうかと一瞬考えたがあそこには女の子が楽しめるようなものが知っている限りないような気がしたのでやめておく。
それからしばらく歩きながら考えここから少し遠いゲーセンに行くことにした。
「私あれやりたい!」
中に入るなり紅葉が指差したのは感覚リズムゲームだった。
自分が実際に踊ってリズムに合わせてステップを踏んでいくゲーム。
実際の自分のリアルの運動神経が結果に作用する。
知っている限りかなり運動神経がないと難しいゲームのはずだが紅葉の運動神経はどうなのだろうという考えはすぐに吹っ飛んだ。
紅葉が真ん中に立ち曲が流れると軽やかな動きでステップを刻んでいく。
「すごい…」
素直な驚きが自然と漏れる。
だんだんと曲のテンポが速くなっているにも関わらず表情ひとつ変えずについて行っている。
途中から変則的なリズムに変わっても焦った表情を浮かべず踊り続ける。
紅葉のその踊りが気になったのかゲーセンで遊んでいる人たちが集まってくる。
曲が始まってから1分半ほど経ったところで曲が終了する。
その踊りを見ていた人たちは大拍手。
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