第14話

「篠崎さんまた何だか疲れた表情をしてますね」


「紅葉さんにお昼ご飯を一緒に食べようって誘われたのはいいんですけど周りの視線が痛くて」


「もしかして時々疲れてたのもその人が原因ですか?」


「完全に紅葉さんが悪いっていうわけじゃなくて」



「どちらかというと紅葉さんと一緒にいる俺に殺意の目を向けられて痛いというか?」


「十分自分で不釣り合いなのは自覚してるんですけどそれでも周りの人たちは許せないみたいで」



「その人可愛いんですか?」


「俺が好きになるなんてことはありませんよ恐れ多い」


「でも俺が見る限りなんと言うか髪の毛の手入れがちゃんとされていておしゃれに気を使っているんだなっていう感じでしたね」


いきなりの質問に戸惑いながらも答えると、何とも言えない表情を顔に浮かべ俺の方を見る。



何なんだその表情はもしかして俺今何か答え方を間違えたのか。


思い返してみると具体的に説明しすぎていて気持ち悪いと思われてしまったのかもしれない。


ここで謝るにしてもどうやって謝ったらいいんだ。


考えているとこう言葉が返ってきた。


「すいませんいきなり変なことを聞いて別に変な意味はないんです」


「ただ私その方とお会いしたことがないので少し気になって」


と言われ心の中でひとまず安堵のため息をつく。


「きっと休み時間とかどこかで会えるんじゃないですか」


「そうですね会った時は声をかけてみようと思います」



「ところで俺が前に図書館で借りてた本が読み終わっちゃったんですけど何かいいおすすめの本とかありますか?」


話題を変えるように尋ねる。


「そうですね何かこういう本が読みたいとか要望はありますか?」


「今回もそういう要望はないので純粋な俺におすすめの本を選んでもらえれば」


言いながらも席から立ち上がり本棚の方に向かう。


「そんなに難しく考えずに適当に本を選んでもらって構いません」


俺の声が聞こえているのかいないのか言葉には答えずしばらく並べられている本を見渡す。


「これなんてどうでしょうか?」



そう言って持ってきたのは2人の高校生ぐらいの男が表紙に描かれた本だ。


「これは?」


と言って鈴原に説明を促す。


「この作品を簡単に言うとジャンル的には青春ストーリーなんですけど」


「主人公とその親友がそれぞれの壁にぶつかって過去と向き合いながらもお互いを助けるっていうストーリーです」


「ファンタジー的要素があったりホラー小説みたいな極端に怖い描写があったりっていうのはないんですけどよくあるリアルな高校生生活を描いてると思います」


「面白そうですねちょっと家に帰って時間がある時にゆっくり読んでみます」


図書館の出入り口のところにある紙にいつも通り自分の名前とクラスを書いて本をカバンの中に入れる。


「それじゃあ俺はそろそろ時間になりそうなのでクラスの方に行きますね」


「あの…」


足を前に進めようとしたその時呼び止められる。


「はい…」


呼び止められ顔だけ後ろに向ける。


「あの読み終わったらまた感想聞かせてください」


「もちろんです」


短く答え教室に向かう。



「おはよう!」


進藤がいつも通り爽やかな笑顔で声をかけてくれる。


だがそのさわやかな笑顔がどこか曇っているようにも感じる。


「おはようございます」


昨日みたいに周りの男子生徒たちから殺意の目線を向けられるかと思ったがどうやらもうさすがにそこまでではないらしい。


正確に言うならまだ何人かは俺に殺意の視線を向けているが気になるほどのものではないので気づかないふりをしておく。


「今日の放課後一緒に帰らないか?」


いきなりの言葉に疑問を感じつつもいいですよと答えた。


鈴原がさっき浮かべていた曇った表情は何だったんだろうと考えてみるが思い当たる節が特にない。


えーと確か紅葉さんの話を俺がし始めてから少しおかしくなったんだよな。


2人は実は知り合いで何らかの理由で仲が悪かったとか?


いやでもそれにしては初めて名前を聞いたみたいな反応だったけど。


放課後の時間になった。



「それじゃあ行くか」


「はい」


「あの何かありましたか?」


聞いてもいいことなのかためらいながらも尋ねる。


「なんでだ?」


そう言われてしまうとうまく言葉にして説明できない。


「何と言うかいつもより元気がなかったように見えたので」


「朝会った時は元気そうでもあったので一瞬勘違いかなと思ったんですけどやっぱりどこか違うなと思って」


「すいませんいきなり分かったようなことを言って」 


「はははそんなわけない」


大きく笑い声をあげその言葉を否定する。


「もしそういう風に見えたんだとしたらきっと勘違いだ心配するな」


「そうですよね何やってるんだろう俺」


何気ない雑談をしながらゆっくり歩いていると進藤が足を止める。



「どうかしました?」


「いや昔こういう公園で一晩中遊んでたなと思って」


「せっかくだし公園で遊んでいかねぇか」


「構いませんけど一体何をして遊ぶんですか?」


尋ねると肩にかけていたカバンの中から一つのボールを取り出す。


「進藤さんって野球部か何かに所属してたんでしたっけ?」


俺が記憶している限り会話の中で野球部に所属しているというような話を聞いたことはないはずだが。


「いや俺は帰宅部」


「じゃあ何でそんなボールを?」


野球のボールではないが何の部活にも所属してない人間が普段からボールを持ち歩いてるなんてどういう理由だ。


「じゃあ何でそんなボールがカバンの中に?」


素直に尋ねてみる。


「どっか静かな場所で帰り道キャッチボールをしたいなって思ってて」


もともと公園でキャッチボールをする予定だったらしい。


「さっき何があったのかって聞いたよな?」


「はい」


ボールを投げ返し短く答える。


「あの時はとっさに何もないって言っちまったけど本当は…」


そこで一度言葉を止めためらうように顔を下に向ける。


「実は先週の休みの日に小学校の時の友達とあったんだ」


「昔いろいろあってそのことを思い出して少し暗くなっちまっただけだ」


その言葉を聞き休みの日に小学校の時にいじめられていた1人にあったことを思い出す。


「悪いないきなりこんな暗い話をしちまって」


本人に言ったら性格が悪いと思われてしまうかもしれないが、その話を聞いて少し安心した。


いつも優しくて爽やかな人でも昔の俺のようにそんなつらい経験をしたんだと。


「こんな話をするつもりはなかったんだけどなんでだろうな」


乾いた笑いを浮かべ言葉を口にする。


「俺も休みの日に似たような経験をしたので気持ちは分かります」


「そう言ってくれると少し気持ちが楽になるよ」


持っているボールを投げてみろと言わんばかりに腰を低くし野球のキャッチャーのようなポーズを取る。


俺は持っている全ての力をボールに込め勢いよく投げる。


普段から運動を全くしていない俺のボールは意外にも音を鳴らし進藤に受け止められる。


「意外にいいボール投げるじゃん!」


しばらくボールを投げ合い遊んでいると、いつの間にか日が昇っていることに気づく。



「そうかもうこんな時間か」


夕日を見ながらどこか寂しそうな表情で言葉を口にする。


「それじゃあ途中まで一緒に帰るか」


「はい」


と返事を開始隣に並んで歩く。



「そういえば篠崎の小学校時代ってどんな感じだったんだ?」


いきなり思い出したような口調で尋ねてくる。


「別にどうってこともない小学校生活でしたよ」


いじめられていたこと以外は。


「そうかなんか少し気になってて聞けて良かったよ」


「それじゃあ俺こっちの道だからまた明日学校でな」


「はいまた明日」

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